第007話 私にとっては最高のテイマー
「リリたちも帰るぞ!!」
俺の声に応じてリリが俺の左肩に、ポーラが右肩に、ルナは足下にやってきた。
「ん? なんだこれは?」
リリたちに見ていたら、空中に半透明の板のような物が三枚浮かび上がる。
左側にリリたちの姿が小さくなって描かれていて、右側になにやら名前や種族などが書いてる。
――――――――――――
個体名:リリ
種族 :シマナーガ
属性 :なし
レベル:1/10
ランク:F
スキル:なし
状態 :良好・空腹
進化条件
①アチチ草×10
②Eランクの魔石×10
③レベル上限
――――――――――――
個体名:ポーラ
種族 :ヒールラビット
属性:光
レベル:1/10
ランク:F
スキル:ヒール
状態:良好・空腹
進化条件
①ゲドック草×10
②Eランクの魔石×10
③レベル上限
――――――――――――
個体名:ルナ
種族 :スノーフォックス
属性:氷
レベル:1/10
ランク:F
スキル:コールドブレス
状態:良好・空腹
進化条件
①ヒエヒエ石×10
②Eランクの魔石×10
③レベル上限
――――――――――――
これってもしかして……リリたちの情報が書いてあるのか?
凄い……名前や種族だけでなく、スキルや今の健康状態まで網羅してる。今の状態が明確に分かるってことは、対処法も分かるってことだ。
普通ならテイマー協会で専門家に見せるか手探りでやるしかないのに、この板のお陰で俺は自分ですぐに対応できるわけだ。
さらに驚きなのは進化するために必要な条件が分かるってこと。つまり、リリたちはもっと進化できるってことだ。
進化したらさらに強くなることは間違いない。
「どうかしたの?」
半透明の板に見入っていると、アイリが声を掛けてきた。
「……アイリ、ここに何か見えるか?」
「何かって……なんにもないよ。それがどうかしたの?」
我に返った俺が板が浮かんでいる場所を指さしても、アイリは不思議そうに首をかしげるだけ。
どうやら、これは俺にしか見えていないらしい。
「いや、なんでもない。行こうか」
俺は首を振り、アイリを背負って街へと走った。
「おおっ!! 無事だったか!!」
森を抜け、街に向かう途中でロイクさんが率いる捜索部隊と遭遇した。彼が嬉しそうに俺の方に駆け寄ってくる。
「はい。なんとか」
俺はアイリを後ろに降ろし、肩を竦める。
「その様子じゃ、結構大変だったみたいだな」
「そう……ですね」
俺の装備がボロボロになっているのを見てロイクは察したらしい。
捜索部隊の人たちも良い人たちで、無駄足になったにもかかわらず、俺たちの無事を喜んでくれた。
母さんが元気になったら、酒でも奢りたいと思う。
「ほらっ、アイリ。ロイクさんに言うことがあるだろ?」
「う、うん」
俺の後ろに隠れていたアイリを俺の前に押し出す。
助かった以上、ここで甘やかすわけにはいかない。
「嘘をついてごめんなさい!!」
アイリが深々と頭を下げると、ロイクが妹の頭を撫でて頭を上げさせて、微笑みかける。
「ちゃんと謝れたな、偉いぞ。無事だったのならそれでいい。でも、これからは二度と嘘をつくんじゃないぞ? 死んでいてもおかしくなかったんだからな?」
「はい!!」
ロイクの言葉を聞いたアイリは、目端に涙を貯めながらしっかりと頷いた。
アイリの顔を見る限り、これからはこんな無謀なことはしないと思う。
俺たちはそのまま捜索隊に守られて、日が沈む前に街に入ることができた。
「そういえば、急いでたから聞かなかったけど、体は大丈夫? それに、リリちゃんたちなんか大きくなってない?」
捜索隊と別れた後、アイリが俺を見上げる。
「ああ。ホブゴブリンと戦っている時に頭の中に変な声が聞こえてきてな。その後、急に怪我が治ったんだ。ブリーダーというのに覚醒したらしい。そして、その時にリリたちは進化ってのをして、新しいモンスターに成長したというか、生まれ変わったみたいだ」
「えっ、そんなことあるの!?」
俺の話を聞いたアイリが目を大きく見開いた。
テイムしたモンスターは、子供のドラゴンが大人のドラゴンに成長するということはあっても、別の種族に生まれ変わるという話は聞いたことがない。
アイリが驚くのは当然の話だ。
「いや、俺も聞いたことないんだけどな……」
「ふーん、テイマーになったお兄ちゃんでも知らないんだ」
アイリはなんとも思っていないようだけど、言うのならここしかない。
妹は体は動かなくても俺の戦いは見ていたはず。それなら俺が凄く弱いことも分かったに違いない。
「アイリ……そのことなんだけどな?」
「うん? なんのこと?」
よく分かっていないアイリはコテンと頭を傾ける。
「テイマーになったって話だ」
「うん」
「あれ、嘘なんだ……」
「……」
意を決してした告白にアイリは何も言わない。
「実は3年間なんの結果も出せなくて、帰ってくる前に退学させられたんだ……ごめんな。嘘ついて……」
「……知ってたよ、そんなこと」
「え?」
そのまま話を続けると、妹から返ってきた言葉に衝撃を受けて、俺は無意識に変な声を漏らしてしまった。
「だって、お兄ちゃんの様子おかしかったし。それに、正式なテイマーだったら、もっと良い生活できるもん」
それもそうか。帰って来たばかりの俺は相当落ち込んでいたし。それに、普通のテイマーはこんなにあくせく働かないもんな。
生活は保証され、仕事はよりどりみどり。ギリギリの生活になる訳がない。
「だったら、言ってくれればよかったのに」
「言う訳ないじゃん。必死で私とお母さんのために働いてくれてるんだもん」
妹が俺の手を離して、トットットっと先に歩いていって振り返る。
「それにね、お兄ちゃんはホブゴブリンに襲われそうになっていた私をちゃんと助けてくれた。颯爽と現れたお兄ちゃんは私が憧れたテイマーみたいにカッコよかった。私にとってお兄ちゃんは、最高のテイマーだから。全然嘘なんかじゃないよ。ありがとう、お兄ちゃん!!」
そう言ってアイリはそそくさと先に走って行ってしまった。
逆光になって表情が見えなかったけど、妹の顔は赤くなっていた気がする。
そして、俺はこの3年間、否定され続けた人生を肯定されたような気がした。
ありがとな、アイリ。
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