第004話 捜索

「街の北の方に向かってるんだな?」

「キュー」


 追いかけながら確認すると、ルナは振り返って頷いた。


 アイリはいったいどこに……町の北には俺が通っている森が広がっている。しかもその先に街や別の国があるわけでもない。売り飛ばすために攫うにしてはおかしい。


 もしかして、自分から出かけたのか?


 予想を裏付けるようにどんどん北に向かっていく。このままいくと街を抜ける。


 でも、それならアイリはなんのために街の外に出たんだ?


 その理由がいくら考えても分からなかった。


 傭兵ギルドは大人にならないと登録できないからモンスター狩りなんてできない。稼ごうと思っても11歳では、いかがわしい店以外では取り合ってももらえないはずだ。


「ちょっと聞きたいことがあるんですが、いいですか?」


 城門までたどり着いたところでルナを止め、門番に話し掛ける。


「おう。なんだ?」

「10歳くらいの黒髪黒目の女の子がここを通りませんでしたか?」

「そういえば、しばらく前に通ったぞ。この辺りで黒髪黒目は珍しいし、成人もしていない女の子が1人だったからよく覚えている。俺も1人なんてあぶねぇと思って引き留めたんだが、なんでもこの先に居る兄貴に届け物があるとか。森の中に入らないように念を押して通したんだ。そういえば、まだ戻ってきていないな……ま、まさか……?」


 やっぱり自分で町の外に出たのか。しかも何か目的を持って北の森へと向かっている。北の森に何かあるのかもしれない。


 門番は何が起こったのかを察して顔色が悪くなる。自分が通してしまった責任もあるから尚更だ。


「はい。俺がその兄です。俺は傭兵として北の森でモンスター狩りと素材の採集をしていたんですが、会ってないんですよね。そしてお察しの通り、妹がまだ帰ってきていません。それで聞きたいんですが、最近北の森で何か変わったことはありませんでしたか?」

「ん? ああ、そういや、街の連中が結構貴重な薬草が見つかったとか噂をしてるのを聞いたな」

「それだ!!」


 門番の話を聞いてピンと来た。


 アイリは母さんの病気を治すために、その薬草を取りに行ったんだ。


 全く……なんで一人でそんなところに行くんだ、人をこんなに心配させて……いや、俺も他人ひとのことは言えないな。


「え、な、なんだ!?」

「ウチは今年父が死んで、それに今、母が病気になって寝たきりなんです。その病気を治すためにその薬草を取りに森に入ったんだと思います」


 俺の勢いに狼狽える門番に状況を説明した。


「な、なんだと!? 1人でなんて無謀すぎる!! こうしちゃいられねぇ。仲間に連絡して捜索部隊を結成するから待っていてくれ」


 ここで待っているだけなんてできるわけがない。


 俺はテイマーにすらなれないランク外の人間だけど、モンスターを従えているのは間違いない。テイマーだと言っておけば、おそらく勘違いしてくれて外に出られるはずだ。ランクまで聞かれることはないと思う。


 その場から走り去ろうとする門番を引き留める。


「ちょっと待ってください。これでもテイマーなので、俺は一足先に行きます。門番さんたちは後で追いついてください」

「はぁ、分かった。俺はロイクってんだ。門番なんて呼ばないでくれよ」

「分かりました、ロイクさん。後のことよろしくお願いします」


 予想は的中し、外に出る許可を得ることができた。


 俺はロイクに後を任せ、北の森に足を踏み入れる。


「ルナ、まだ追えるか?」

「キュゥ」

「そうか、でも、頼んだよ」


 ちょっと自信なさげなルナ。でも、匂いが漂ってくる方角は分かるようだ。


「アイリー!! どこだー!! 返事をしてくれー!!」


 それを頼りに、リリには空から、ポーラには音でさぐってもらい、ちょっとした動きも逃さないように観察しながら先に進む。


 まだ子供な上に、薬草を探しながら進んでいるので、そんなに奥までは行っていないはずだ。


 しかし、探し始めて30分以上経ったけど、未だに手掛かりはない。


 アイリ、どこにいるんだ……。


 見つからないまま時間だけが過ぎていく。


 まさかもうすでに……。


 凶悪なモンスターにアイリが襲われ、食い殺されてしまう場面が思い浮かぶ。


 いや、そんなことは考えたくもない。


 俺は頭を振って、再び些細な変化も見逃さないようにしながら奥へと足を進めた。


「きゃーっ!!」


 さらに30分ほど経った頃、女の子の声が耳朶じだを打つ。俺はその瞬間弾かれたように走り始めた。


「ポーラ、声が聞こえたのはどっちだ?」


 森の中で音が反響し、位置が分かりづらい。音に敏感なポーラに正確な方角を尋ねる。


「プー」

「分かった。リリ、先行して、もしアイリが襲われていたら周りを飛んで牽制してくれ。くれぐれも無茶はするな」

「チチチチッ!!」


 指示を聞いたリリは、ポーラが示した方に勢いよく飛んでいった。


「ルナも先に行ってくれ」

「キュッ」


 ルナも俺よりも先に森を駆け抜ける。


「はぁ……はぁ……」


 俺も必死になって走る。


 アイリ……無事でいてくれ!!


「見えた!!」


 1分も掛からない内に、悲鳴の主を捉えた。その近くには別の陰が。


 それは、人間の大人くらいの背丈で緑色の肌と尖った耳を持ち、鷲鼻で醜悪な顔をしたモンスター。


 ホブゴブリンが今にもアイリに襲い掛かろうとしていた。

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