【番外編】セノイによる福音書外伝 菫のバレンタイン・カップチョコレート(1)
人類最初の男女・アダムとイブは、地上での役目を終えると、その魂を天界に安らかに横たえていました。
彼らの子たちが創っていく世界の行く末を信じて、最後の審判のその日まで、魂の格納庫でゆっくりと眠っているはずだったのです。
しかし、人の子は愚かでした。愛を携え、夢を描き、富と平和を実現する力を持ちながら、たった四半世紀のうちに世界中を巻き込む戦争を二度も起こしたのです。
さすがに懲りた人の子らは、今度こそ恒久の平和を目指さんと努力しました。
それでもなお、愚かなるが人のさだめ。百年も経たぬうちに、人類は愚行からの学びを忘れたのです。
とうとう天界の『終末の羅針盤』は、その針で赤い凶星を指し示しました。これは三度目の大戦が起こること、そして世界の滅びを意味します。
神の代理として人の世を監視している天使たちは、ひどく慌てました。そして久しぶりに、神に貴きご判断を仰いだのです。
神はおっしゃいました。
「アダムに作らせた世界は失敗してしまった。イブを呼びなさい。あの子にこれからの世を任せよう」
人の世を支配する好機とたくらんでいた天使たちは紛糾しましたが、結局は神に従うほかありませんでした。
永い眠りから覚まされたイブは言いました。
「神の仰せのままにいたしましょう。私に考えがございます。どうぞ、まずは相棒として第一の女・リリスを遣わしてください」
実は人類最初の女はイブではなく、リリスという女でした。アダムと同じ土から造られた彼女は、自分にもアダムと同じ権利が与えられるべきであると主張しましたが、それは認められませんでした。
よって彼女は楽園を去り、アダムの肋骨から造られた第二の女・イブが、代わりに人類の母となったのです。
天使たちはイブの申し出に驚愕しました。それもそのはず、リリスは神に背き、イブを誘惑して知恵の実を食べさせた魔女なのですから。
しかし、神はその深いお考えにより、イブの申し出をよしとされました。
こうしてイブとリリスのふたりは、晴れて新世界の創生を任されることとなったのです。海より深い慈愛で、我が子らの愚行を悲しんだイブは決めました。
「愚かにして愛しき子らを、緩やかに穏やかに絶やしましょう。そして、戦など起こしようもないほどの少なき数となったら、真にめでたき子らを再び栄えさせましょう」
リリスは問いました。
「苦しみなく人を絶やすために、いかにしますか?」
イブが計画を打ち明けます。
「人の世に、人によく似た別種の女たちを送り込む。産み
「よい案です。女が産まねば、やがて種は滅びる。世界を滅ぼせるのは女だけですもの」
やがて魂の格納庫から、ふたりの意思にかなう女たちが選ばれました。
彼女らは清めの儀式を授かり、人とは異なる、神聖にして新たなる種、
純潔の彼女たちにちなんで、イブとリリスの大いなる愛に満ちた人類衰退計画は「百合種計画」と呼ばれることとなりました——。
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