第4話 5回目。

 また、早世させてしまった。

 だからこそ、もう、最初と同じ様にするしか無い。


『やだ、はなして』

「守る為だ、大人しくしてくれ」


『やだー』

「頼む、大人しくしてくれ、君の為なんだ」


『たすっ』


 すまない、君の為なんだマリー。


「すまない、全ては君の為なんだ」




 彼は、アッシュは前回と違い、娘を強引に連れ去って来た。


《ありがとう、アッシュ、すまない》

「いえ」


『ありがとう、けれど、どうしてこんな風に』

「すみませんが、コレが彼女の為なんです」


 彼には前の記憶が、有るのか無いのか分からないわ。

 どうして手段を変えたのかしら。


『なら、穏やかに迎えに行っても』

「万が一にも親しくなっては不都合が御座いますでしょうから、配慮させて頂きました」

《あぁ、すまない、ありがとう》


 彼は前の記憶を、いえ、やはり分からないわ。

 前こそ記憶を持ち、今こそ記憶が無いのかも知れない。


 分からない、分からないわ、何も。




『あんな奴、大っ嫌い』

『やめなさいマリー、彼はアナタの為を思ってしてくれているのよ』


『けどだって』

『本当よ、本当に、アナタの為なのよ。お願い、そこだけは分かってあげて』


 私を強引に攫ったアッシュ。

 何の説明もしないで、口を塞いで王宮へと連れ去った。


 しかも今度はココでは口煩い、私がダメな子だからなのは分かってるけど、でも。


『でも、あの時、ちゃんと説明してくれたら良かったのに』

『それもアナタの為なのよ、どうか許してあげて』


 代々騎士で、私の事は親子二代で探し出し、見付けてくれた。


 けど、でも、だからって。

 だからって。


『そんなんじゃ、ちゃんとしたお姫様にはなれないって。他の人は優しいのに、素っ気無いし冷たいし、全然笑ってもくれない』

『でも、ちゃんと出来たら褒めてくれるでしょう?』


『それは、そうだけど』

『近衛兵だからと言って仲良くする必要は無い、全ては国やアナタの為を思って言ってくれている、その事は分かるわね?』


『それは、分かるけど』

『アナタが出来る子だから、賢くて良い子だと分かっているから、そう期待しての事なのよ』


 でも、他と違って優しくしてくれない。

 笑ってくれない。


 私だけに、笑ってくれない。


「アリシア様」

『いい加減にしてよ、もう顔も見たくない』


「分かりました、失礼致します」


 それから本当に、彼は私の目の前から居なくなってしまった。

 今までアッシュの補佐だったクロウが、私の近衛兵に。


 そしてアッシュは、辺境へ。


『お父様、違うの、アレは言葉の』

《気にする必要は無いよアリシア、アッシュは自ら赴いたんだ》


『えっ』

《辺境での防衛指南に、結婚だ。アレも良い年だ、寧ろ遅くて心配していたんだが、何とかな》


『そんなに、私の事が嫌いだったの?』

《そんなワケが無いだろう、常にお前の事を心配し、結婚にまで口を出してきたんだからな》


『じゃあ、ならどうして』

《お前との噂が出てはお前が困るからだ、年が離れ身分差も有る、しかも近衛として近しい者でもある。万が一を考え婚約者の選定をしてくれた、クロウの相手もお前の相手も、全てアッシュが内々に調べ結果を出してくれた。国やお前の為、裏方に徹すると言ってくれた、そうしたアイツの忠誠心を疑わないでくれ》


『なら、じゃあ、どうして優しくしてくれなかったの』

《優しく接する事だけが優しさでは無いんだよ、アリシア、苦言を呈する者程傍に置け。己を律する事は誰にでも難しい、そして苦言を呈する事には苦痛が伴う、その苦痛を受けてでも苦言を呈する。そうした者は得難い、そして望んだからと言っても簡単に手に入るワケでは無い、大事にすべき者なんだ》


『本当に、私の為に?』

《あぁ、だからこそ、彼の忠誠心を疑うべきでは無い。良いね》


 アッシュが優しくない事には、全て理由が、裏が有る。

 なのに私は分かろうとせず、拒絶してしまった。


 彼は真に、本当に優しいのに、私は。




『ごめんなさい』


 前と同じ様にした筈が、どうして。


「どうして」

《すみません》


「何が有ったんだクロウ」


 彼女は結局、嫁ぎ先の者に殺された。


 彼女の為にと散々に言い募り、追い詰め、民の病の治療にと駆り出させた。

 優しい彼女は疑いもせず、彼の言う通りにし。


《すまない、私のせいだ》


『アナタ、どう言う事なの』

《苦言を呈する者を傍に置け、と》


『どうして、どうしてそんな事を!』

《アッシュの忠誠心を疑ったからだ!誤解を解く為にと、すまない、まさか、こうなるとは》


『いい加減にして!また、またアナタは私から子を』

「王妃様、どうかお鎮まりを」

《すまない》


 王が王妃の刃物を受け入れる寸前、どうにか体を滑り込ませる事は出来た。


 だが、コレで俺に次は無いのかも知れない。

 それにもう、俺にはどうしたら良いか。


『あぁ、そんな、違うの、ごめんなさい』

「いえ、コレは俺の不注意です、どうか、お気に、なさらず」


『今度こそはと、そう思ったのに、ごめんなさい』

「あぁ、王妃様も、そう、だったんですね」


『ぁあ、アナタもそうだったのね、あぁ、ごめんなさい、お願い、あの子をお願い』


 そうしたい、どうにかしたい。

 けれども、一体、どうすれば。

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