魔王の妻の旅々

１．魔王妻子の冒険

　　マリーンがイマーヴァールと初めて出会ったのは地下牢だった。正確には、魔王城の地下牢で、そこには戦争で捕らえられ、または魔王城に忍び込んで失敗した冒険者たちが閉じ込められていた。その場所は血、腐った肉、糞の臭いが混ざり合った、すでに黒い血痕になった壁と、切り裂かれた肢体と糞便が散らばる不快な場所だった。

　　しかし、マリーンはもはやこれらに心を向ける余裕がなかった。なぜなら、彼女は死にかけていたからだ。魔王軍と人間の連合軍による大決戦、いわゆる「コーロンの戦い」で、マリーンは捕らえられ、首なしの騎士に右肩から左腰にかけて大きな傷を負い、内臓が見え、右手も失われた。そして、ゴブリンによって魔王城に連れてこられ、地下牢に閉じ込められた。

　　基本的に「コーロンの戦い」から連れてこられた捕虜はみんな同じような状態で、ほとんどが瀕死だった。マリーンと同じ牢にいた金髪の少女は、腰から下を完全にくり抜かれており、今でも生きていることが奇跡だった。魔王はなぜこれらの人々を連れてきたのか？ 牢屋に閉じ込められてからは医療もケアもなく、基本的には無視され、実験台にされることがあるだけだ。最初は約百人もいたが、今でも生き残っているのは十人にも満たないだろう。

　　足音がマリーンの思考を遮った。彼女は力を振り絞り、頭を持ち上げると、黒髪の少女が牢の前に立っているのを見つけた。その湛藍の瞳はどんな湖よりも澄んでいた。いつぶりにこんなに純粋で無垢な存在を見ただろうか？ まるで世の中のどんな物事もその上には何の痕跡も残らないかのようだ。こんな人間が魔王城に現れるはずはなく、しかも彼女は人間、勇者かもしれない？

　　しかし、彼女の言葉がすべての想像を打ち砕いた：

　　「私はイマーヴァール、魔王の妻です。」

　　魔王の妻が人間であることなど想像もできないが、イマーヴァールは非人間が持つであろう力を有しており、マリーンは信じざるを得なかった。

　　「あなたには未だ叶えられていない願いがありますか？」

　　マリーンは両親を思い出し、ヴァレンブルク市の市長を思い出しました。彼女はゆっくりと、力尽きるまで、自分の手を握り締めました。小さな希望でも構わない、それを掴みたかったのです。

　　　　　＊

　　周囲は冷たい城壁で満たされ、乱れた足音が四方八方から響いていた。そうか、イマーヴァールは突然気づいた。明らかに魔王城は、世界で最も高い山、龍の背骨と呼ばれる場所に建てられているが、なぜこんなにも冷たい石材を使っているのだろう。快適さのためではなく、防御のためだ。

　　もう七年も経っているが、イマーヴァールはまだ魔王城に慣れていない。年中氷雪の地で、日中に陽が当たるのは昼前だけで、その後は山々によって日陰になる。一般の魔獣や魔物には問題がないが、太陽が重要でないと考える彼らにとっては。しかし、イマーヴァールは人間なので、彼女は耐えられない。

　　「ガチッ！」

　　突然の金属音が、周囲の騒音を一掃しました。曲がるのか？ イマーヴァールは曲がり角を駆け抜け、確かに頭角から騎士が他の誰かと対峙しているのを見つけました...

　　「クリスティーン殿下！」

　　対峙しているのは金髪の美女で、彼女は剣を持ち、三人の骸骨

　　騎士と互角に戦っています。彼女の後ろには別の四人の美女がおり、一緒にまとまっていて、他にも七人の骸骨騎士が徐々に近づいています。その中の一人、赤毛の少女が別の三人の前に立ち、杖を持って警戒していますが、攻撃はしておらず、むしろ後ずさりしています。彼女の後ろの少女たちも後ずさりしています。

　　「クリスティーン！」

　　「イマーヴァール夫人！」骸骨騎士たちまでが手を止め、恭敬に語りかけました。

　　「何をしているんですか！」

　　「我々は勇者と仲間が来ると聞いて、彼らを探しに行こうと思いまして。」と、一人の黒髪の少女が言いました。

　　イマーヴァールはそれを聞いて頷き、次に骸骨騎士に振り返ります。イマーヴァールが質問する前に、骸骨騎士は答えました。鞠躬のまま答えています：

　　「我々は人間を見かけ、勇者の仲間だと思い込みましたが、実はお姫様たちでした。申し訳ありませんでした。」

　　骸骨騎士の目の穴は明るい光を放っていますが、骸骨騎士や骸骨兵などの骸骨系の魔物は実際には何も見えません。彼らは魂の視力を頼りにしており、生物のぼんやりとした輪郭しか見えません。したがって、彼らにとってはすべての人間が同じように見えます。

　　「勇者は既に魔王城に入ってしまいました、手伝いに行ってくれ！」

　　「はい！」騎士たちはすぐに整列し、廊下に向かって走りました。

　　その後、イマーヴァールは優雅な仕草で少女たちに向き直りました。「さて、お嬢様たちはお部屋にお戻りください。もう外に出ないで、勇者がお助けに来るのをお待ちください。」

　　「しかし、何もせずに座って待つわけにはいかないでしょう！私たちは勇者を探しに行くのです！」とクリスティーンは堂々と拳を握りしめました。しかし、イマーヴァールは優雅に首を横に振りました。「だめです、あまりにも危険ですから。」

　　「そうであっても、ただ何もせずにいるわけにはいかない！」

　　「私たちは自分たちで守ります！」

　　イマーヴァールはただ頭を横に振るばかりでした。「さっきの骸骨の騎士たちですら、君たちは勝てませんでした。」

　　「イマーさん、嫌ですね！」

　　「それが事実です。」イマーヴァールは無表情で答え、クリスとクリスティーンはますます怒りっぽくなりました。以前も何度か同じことがありましたが、イマーヴァールは何がそんなに興奮させるのか理解できませんでした。同じ気持ちは以前、マリーンの中で見られました。それは希望を見たからでしょうか？

　　これらの五人の姫君たちはすべて、魔王の力が拡大する中、屈服するか、敗北し国を守るために捧げられた姫君たちです。魔王は姫君たちに礼遇します。彼女たちは人質であるため、人間であるイマーヴァールが彼女たちの世話をすることになりました。そのため、イマーヴァールと彼女たちは親しい友達になりました。

　　魔王は姫君たちを傷つけないように厳命していますが、すべての魔物や魔獣が知能を持っているわけではありません。また、すべてが区別できるわけでもありません。そのため、通常、姫君たちは西翼の部屋に閉じ込められ、イマーヴァールと魔王ディカだけが鍵を持っており、四天王ですら入ることを許されていません。ディカは姫君たちに一定の自由を与えていますが、魔王城を離れることだけは許されていません。

　　「見つけました！」

　　声が後ろから聞こえ、イマーヴァールは振り返ると、角を曲がって群衆が現れました。先頭にいるのは魔法使いで、その後ろには重装の戦士から軽装の遊撃手までさまざまな冒険者が続きます。

　　「姫君殿下、お待たせしました。」

　　先頭の魔法使いはゾージャといい、彼は勇者の一員で魔法使いの責任者です。彼は冒険者たちを率いて姫君たちを救出する救助隊を結成しました。

　　「五人の姫君がいるとのことですが……」とゾージャは冷たい視線で六人の少女を見渡しました。

　　「イマーさんが私たちをお世話してくれています！彼女をいじめないでください！」

　　「本当に申し訳ありません、そんなつもりはありません。」ゾージャは帽子を脱ぎ、微笑む姿は実に格好良かったです。姫君たちは彼にうっとりとさせられました。

　　「それでは、魔王に捕らわれた人間の方々もですね？一緒に連れて行きましょう！」

　　その後、姫君たちは冒険者たちに連れられて去り、ゾージャは勇者を助けに向かいました。

　　そして、イマーヴァールもまた姫君たちと混じって連れ去られました。