第11話 最低すぎる
というか、ちょっと待て。
その話が本当なら。
(つまり、俺は……)
噂に惑わされて、なんの罪もない人物をただ罵倒していただけ……?
…………。
(最低じゃないか!!)
どんな理由があろうとも、そこに正当性はない。許されていいものじゃない。
しかも一方的に相手を
誰もが知ってる噂だ。多少脚色があったとしても、噂されるような人物なら問題があるんだろう、なんて。
(自分勝手な想像もいいところだ)
最初から全てを疑ってかかって、一切相手のことを見ないで。
噂の真偽も確かめようとせず、作り上げられた人物像に当てはめて接するだけ。
(第一王子が浮気性とか、全然知らなかった……)
知れるわけがない。当然だ。
最も秘匿されるべき事実だ。それは分かる。
ただ知られていなかったということは、彼女も一切そういったことを口にしてこなかったということ。
嘘だと思うには、あまりにも侮蔑が含まれすぎていた。言葉そのものではなく、言い方ではなく。その瞳の奥の、感情に。
これが本当に全て演技なのだとしたら、むしろ彼女は今すぐにでも舞台女優になるべきだ。
(……知らなかった、で済む話じゃない)
王妃の座を望んだこともない少女が、大人たちに選ばれたせいで厳しい教育を施され。支えるべき相手には、婚約中にもかかわらず浮気という形で裏切られ。
たとえ好きな相手ではなかったとしても、彼女はその間ずっと一人で耐えてきたんだろう。
生まれた家に帰りたくないということは、つまりそういうこと。守ってくれる大人は、そこには誰一人として存在していなかった。そうとしか考えられないだろ。
(なのに、俺は……)
なにも知らずに、ただ彼女を避け続けて。
初めて顔を合わせた日も、冷たい態度を取って。
しかも本人を目の前にして、ハッキリ言い切った。この性悪女がって。
(あああぁぁ……最低すぎる……)
今すぐ頭を抱えて、うずくまってしまいたい。なんならどこかに隠れてしまいたい。
恥ずかしいとかじゃなく、彼女への申し訳なさでいっぱいだった。
「あぁ、旦那様。出世したいですか?」
「え?」
だが、それを行動に移す前に。言葉を発することすらできないまま、ただ立ち尽くしていてた俺に。
彼女はまた、いきなり質問をぶつけてくる。
しかも、その言葉の意味をちゃんと理解するより先に。
「もし出世したいとお望みでしたら、第二王子派につくことをお勧めします。今後第一王子が玉座につけることは、まずもってないですから」
「あ、はい。……え?」
ずいぶんと具体的に、今後の展開を口にしてるが。
いやいや、そうじゃないだろう……!
「ちょっ、ちょっと待て!」
「はい?」
はい? じゃない!
こっちは真剣に話がしたいっていうのに、なんだその「なんでしょうか?」みたいな顔は!
「もしその話が本当だとすれば、ダミアーノ殿下はクズ男じゃないか!」
「ですから、そう申し上げております」
「そんなっ……!!」
当然のように肯定していい内容じゃないだろ!!
そもそもその事実、いつから分かってたんだ!?
いくら王族とはいえ、そんな男のためにこれまで君は頑張ってきたのか!?
こんなっ、不名誉な噂まで流されて!?
「まずは食事にいたしませんか? せっかく旦那様のためにお作りしたのに、冷めてしまいます」
「いや、そうじゃなくて……! むしろどうして君はそんなに冷静なんだ!?」
いくら婚約破棄を望んでいたとはいえ、見ず知らずの男に嫁がされてるんだぞ!?
「あら、おかしなことを。私は誰よりも、第一王子殿下のことを知っている人物ですよ?」
だから!
「違う! 今の話が本当なら、ありもしない噂を流されて一番迷惑を被っているのは君じゃないか!」
「あら」
「あら」じゃないんだよ! 上品に頬に手をあてて驚いてる場合じゃないだろ!
紙きれ一つの契約程度で、好き勝手に研究できてる俺とは比べ物にならない。勝手に結婚させられて、監視対象にされて。
「噂を信じた俺が言うのも、変な話だが……」
というかむしろ、最初から俺がしっかりと相手を見極めようとしていなかったからこその、この状況なのでは……?
「あああぁぁ……。なにをやってるんだ、俺は……」
過去の言動を振り返って、あまりの自己嫌悪に我慢できなくなって頭を抱えた。
できるだけ彼女の視界から消えてしまいたくて、そのままその場でうずくまる。
が。
「あの……。とりあえず、座りませんか?」
優しい声が、今はつらい。
というか、視界から消えたくてうずくまるってなんだ。子供か。
「…………そうする」
「っ!!」
自分の幼稚さのせいで、恥ずかしさにさらに拍車がかかる。確実に今、顔は赤くなってるだろう。
そんな姿を見られないよう、目元より下を左手で隠してみたはものの。
(明らかに今、息をのむ音がしたよな……?)
つまり、バレてると。
隠そうとしたことすらバレてるとか、そっちのほうが恥ずかしすぎる!!
せっかく用意してくれていたからと、食事は全て平らげることには成功したが。味なんて、ほとんど分からなかった。
会話? できるわけないだろ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます