第15話 楽しすぎる!

 というわけで、そうと決まればさっそく。


「準備準備ーっと」


 手紙を出したからといって、その内容がすぐに相手に届いて読まれるとは限らない。

 むしろ時間がかかって当たり前、という認識でいるからこそ、日数を逆算することもできるわけで。

 要するに。


「そろそろのはずなんだよねー」


 届いた手紙の、返事が戻ってくるのが。

 そしてその返答次第では、計画をすぐ実行に移すことも可能ということ。


「日程だけ決めちゃえば、あとは私が頑張るだけだし」


 その場合お仕事があるから、昼間に旦那様が急に帰ってくるってことはないと思う。けど逆に言えば、夜には帰ってくる可能性が高いということ。

 それはきっと、手紙に関しても同じはず。


「それまでの間に、ちゃんとレパートリー増やしておかないと」


 もし一回でうまくいけば、その後はかなりスムーズに色々と進むようになるはず。

 なので今のうちに色々と、準備を終わらせておく必要があるってこと。


「まずはメモでしょー」


 家に関する気になることとか、忘れないうちにちゃんとメモしておかないと。

 あといらなくなったドレスとかを、どこで売ればいいのか、とか。早めに知っておきたいことも、ちゃんと書き出しておかないと。

 いらないもので家の中が圧迫されるよりは、ちゃんと必要なものだけを残して収納しておきたいからね。


 こういう時、第一王子から変に色々プレゼントとかされてなくてよかったなーって、心底思う。

 だってそれって、国のお金ってことになるじゃん? 国のお金って、国民から徴収した税じゃん?


「いくら私でも、それには手をつけられないなー」


 その場合は最悪寄付だよね、もう。


「あ。でも孤児院への寄付とかは、どっかで再開したいな」


 本当は人手としてちゃんとお手伝いもしに行きたいんだけど、今の私が行くのはなにかと問題になる可能性もあるし。

 とはいえじゃあ、あの第一王子とか新しい婚約者とかが孤児院を訪れてるかといえば、到底そうは思えない。というか、あり得ない。

 そもそも私が婚約者だった時ですら、あのバカ王子は一度も孤児院に足を踏み入れたことがなかったからね。

 ほんっと、王族としての意識が足りないにもほどがある。


「いけない、いけない。ちょっと思い出しただけでイライラしちゃうから」


 とはいえ、一度思い出してしまえば思考は止まらない。


 例えば、幼い頃に自分が家庭教師から出された課題を、私にやらせたりだとか。

 例えば、式典用に自分が考えないといけないスピーチを、私に考えさせたりだとか。

 例えば、学園で名ばかり生徒会長として偉そうにしておきながら、実働も尻拭いも全部私にやらせたりだとか。


 考えれば考えるだけ、イライラは募るばかりで。


「よくない! これはよくない!」


 そんなことよりも、もっと楽しいことを考えなくちゃ!

 過去に囚われているなんて、そんなつまらない人生歩みたくないもん!


「そうだ! せっかくならやりたいことリストも作っておこう!」


 未来に目を向けるのなら、どうやってその目標を達成するのかも考えておかないといけないからね。

 例えばさっきの孤児院への寄付なら、私のいらなくなったドレスを売ったお金で再開できるはずだし。

 でも本当はそれじゃなくてもっと、根本的な解決をしたいと思ってるから。


「そっか。今なら私、自由に動けるじゃん」


 言葉遣いだって、無理に令嬢っぽくする必要もなくなった。それと同じ。

 やりたいことがあるのなら、色々と試してみればいいんだよね。時間なんて山ほどあるんだから。


「よしっ。まずはお花屋さんに行ってみよう!」


 元々、旦那様が家に帰ってくる時には準備しておこうと思ってたし。その下見もかねて、通ってみてもいいかもしれない。

 それにお店の人と仲良くなれば、欲しい植物を探してくれるかもしれないし。

 できることがいっぱい。やりたいこともいっぱい。


(これは……楽しすぎる!)


 大声でありがとうと叫びたくなっちゃうけど、さすがにそれは我慢。

 独り言はまだ、誰にも聞かれていないからいいのであって。叫び始めちゃったら、それはもうただのおかしな人でしょ。


 でも本当に、さっきとは打って変わって気分は最高!

 なんにも縛られず、自分の好きなように自由に生きるって、こんなにも素晴らしいことなんだね!

 何度でも思うよ! 本当に、婚約破棄してくれてありがとう!


 定期的に訪れる、私の人生で唯一の第一王子への感謝の念。

 そして同時湧き上がるのは、この生活がずっと続きますようにという、ささやかな願いにも似た思い。


「どんなお花があるかなー」


 旦那様には嫌われてるっぽいけど、ここからだっていくらでも巻き返せるし。

 そもそも、私が噂とは全然違う人間なんだってことを知ってもらえさえすれば、嫌われる理由すらなくなるはずだしね。

 私がやりたいと思うことを叶えるためには、この生活をまだ手放すわけにはいかないから。その点だけなら、きっと旦那様と意見が合致してるはず。


 もしこの生活に、期限があるのだとすれば。

 なおさら『今』に手を抜くわけには、いかないからね!


 そうならないためにも、頑張らなくっちゃ!





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