第14話 当面の目標決まり!

 そんなこんなで、あれから数日が経ち。

 手紙はテーブルの上に置いておいたら、いつの間にかなくなってた。

 たぶん旦那様が届けてくれたんじゃないかな?


「さてと!」


 そして私はといえば、だいぶ物が揃ってきて賑やかになった台所で一人、気合を入れ直していた。

 というのも、ここでの生活を続けていくうえで、さすがにこのままではまずいとようやく気づいたから。


「まずは旦那様と、普通にコミュニケーションが取れるようになる!」


 これ、本当に大事。そうしないと、ちょっとした困りごとがなかなか解決しないから。

 だってあの人、本当に家に全然帰ってこないからね。

 話し合いをするための時間作り以前に、まず相手が帰ってこないんじゃ意味がない。


「ってことで、当面の目標決まり!」


 そのために私がやるべきことは、誤解を解くこと。

 とはいえこれに関しては、私が望んだ結果に付随している以上、あんまり下手なことはできないけど。

 良好な夫婦関係とかは築けなくても、全然いいんだけどさ。人としてちゃんと接することができないっていうのは、やっぱり問題だと思う。

 なのでまぁ、旦那様には色々と真実を話すべきだなーとは思ってるんだけどね。


「問題は、どうやってその時間を作るか、よ」


 そもそもあの人、この家で寝泊まりとかしてないからね。むしろ、あれから一度も姿を見てないし。

 本当に、なんのための家なんだろう。


「あと気になってるのは、あの細さ」


 男性にしては、ちょっと痩せすぎな気がする。

 となると、ちゃんとした食事をしていないか、栄養が偏っているか。


「ってことで!」


 旦那様に、手料理を食べてもらおう!

 の、前に。

 まずは私の料理の腕を上げよう。


「今日はサラダとー、スクランブルエッグとー、買ってきたパンを軽く焼いてー」


 簡単だけど、ちょっと豪華に見せられそうな物から。

 まだ自分で一からパンを焼くのは難しいけど、完成品を軽く焼くくらいならきっと、私でもできるはず。


「こっからステップアップしていくぞー!」


 おー! と一人拳を突き上げて、さっそくまずはサラダ作りに取り掛かる。

 とはいえ、トマトを切ったりレタスを千切ったりするだけなんだけど。

 それでも一応ソースは手作りだからね!

 オリーブオイルに塩と黒コショウを混ぜただけの、お手軽ソースだけどさ。


 ちなみに黒コショウはちょっとお高かったけど、それでも奮発しちゃった。

 旦那様の健康のためだし、そこはケチケチしないことにしたの!


「んふふ~♪ お料理楽しい~!」


 ここ数日やってみて分かったことだけど、私結構こういうことに向いてたっぽい。

 もうね、楽しくて楽しくて仕方がないの!

 そして不思議なことに、私が自分でお料理をした時には、テーブルの上に別のお料理は届かない。

 これ、本当に不思議なんだよねー。どういう仕組みなんだろう?


「次は~、卵~♪」


 上機嫌に、自作の歌なんか口ずさみながら。初日よりはかなり手際のよくなった工程を、着々と進めていく。

 ちなみにオムレツは難しすぎて、今の私にはまだ無理だった。これもまた、修行が必要です。


「卵にはやっぱりケチャップだよね!」


 軽く塩と胡椒で味付けはしてあるけど、やっぱりトマトの酸味とうまみがあると全然違うから。

 個人的には卵とトマトの簡単スープとかも、お手軽だけど美味しくて好きなんだよねー。

 あとお料理って、レパートリーがいっぱい増えれば増えるほど楽しいものなんだね!


「今日はバゲット!」


 外はカリカリ、中はもっちり。これが黄金比!

 最近の流行りは、このバゲットって呼ばれるパンなんだよね。

 これ発明した人、本当に天才だと思う! 美味しすぎる!


「さぁさぁ、いただきまーす!」


 しっかりとワンプレートに盛り付けたから、色どりもキレイだし。なにより量が多く見える!

 テーブルの上に置く物も最低限だから、場所も取らないし。バゲットでお皿をキレイに拭って、最後の最後までしっかり食べることもできる。


「んー! おいしー!」


 最高の組み合わせじゃない?

 これなら旦那様に出しても、好きなペースで好きなように食べてもらえるし。

 あと小食だったとしても、これぐらいなら残さないと思う。


「やっぱりこれかなー」


 パスタでもよかったんだけど、あっちはまだ時間がかかるし。それよりもサッと出せるほうが、食べてもらえる確率は高いかなって。

 凝った料理はこれからでいいのよ。まずは一緒に食事をしてもらえるかどうかが大事!


「早く帰ってこないかなー」


 こんなにも旦那様の帰りを待ち望んだことは、いまだかつてないと思う。

 まだ嫁いできて、ちょっとしか経ってないけど。


 それに。


「使えるものは何でも使え、ってねー」


 私には奥の手がある。それも一つじゃなく、いくつも。

 となれば、その内の一つをまずは使ってみても、バチは当たらないと思うんだよね。


「楽しみだな~」


 旦那様も、まさか思うまい。自分が運んだ手紙のせいで、嫌いな女がいる家にどうしても帰らなきゃならなくなるなんて。

 でもほら、伝書鳩になるってそういうことだから。


「まさに適材適所、でしょ」


 切り札は、多いほうがいい。

 でも普通の手札以上に、どこで切るかが重要だから。ずっと大事に取っておいて、使わない人もいるんだろうけど。

 私はそんな宝の持ち腐れなんて、するつもりはない。

 使える場面でしっかり使え。特に盤面を完全にひっくり返したいのなら、なおさら。


「どんな顔するかなー」


 巻き込まれて可哀想だとは思うけど、どうせもう巻き込んじゃったのなら最後まで付き合ってもらう。

 それにきっと、旦那様にとっても得になるはずだからね。

 長年培ってきた知識と努力の成果、しっかり見せてあげるんだから!





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