転生②
すると、ルインは不敵な笑みを浮かべてフィオに語り掛けた。
「さて、お仕着せもしてもらったことだし、それじゃああなたは私の従者らしい悪魔になってもらいましょうか。まず、あなたはこれから私のことをルイン様と呼ぶこと。それと私に対して敬語で喋ること。いい?」
フィオは驚いた。今まで自分に理解を示してくれたルインが突然、命令をしてきたからだった。いや、彼のほうが本当は誤解をしていたのだ。彼女は自分を自由に扱ってくれるわけではないのだ。自分は支配される側なのだということを、一気に再認識させられる。フィオは彼女のことを都合のいい解釈で合理的だと思ったことを訂正する必要があると思った。
渋い顔をしているフィオを見ていたルインは、怒りを滲ませていたのではなく、満足そうな表情を浮かべていた。人が嫌がっている様子を見るのが好きなのか。やはり彼女は悪魔なんだ。
「命令に従わないならどうなるかわかっているでしょうね」
「申し訳、申し訳ございません。ルイン、様」
「よくできました」
今まで一貫して自分が使っていた言葉や態度を改めることに対して、フィオはためらいを覚えた。人間との連続性に終止符を打つということに躊躇いがあったのかもしれないし、単純に支配されたくないという気持ちがあったのかもしれない。
でもそんな気持ちを抱えていてはやっていけない。フィオは残酷な事実を突きつけられる。これが悪魔となったことの代償なのだ。
「私はルイン様に自分の生活を捧げます。さあ、自分で言ってみなさい」
「私は、ルイン様に、自分の生活を、捧げ、ます」
「もっとはっきり言って」
「私はルイン様に自分の生活を捧げます!」
一つ一つの言葉が力んで発せられる。言うのが苦しかった。自分のプライドを簡単に捻じ曲げられることに対して、とてつもない不快感を覚えた。動悸が止まらない。
でも、どうして自分は言うことを拒否して、殺されることを望まないのだろう。勇者だったならばその選択肢を取るべきはずだ。それなのに体は言うことを聞かない。相手の支配下に安々と入ろうとしている。そのことが自分でも恐ろしかった。
「どう悪魔に勇者のプライドを挫かれる感覚は?」
「……最悪です」
「ふふ、でもあなたの体はそれを望んでいるみたいね。結局精神をどれほど鍛えようとできないものはできないのね」
ルインの言葉一つ一つが自分の胸に突き刺さる。フィオの心の中を、開かれて全て見られているようだ。自分でも気づけていないところ自分では気づいていないふりをしている場所を容赦なく、彼女は突く。もうこれ以上はやめてくれという思いが湧き出てくる。
「まあともかく、あなたは私の従者としてこれから生きるの。私はあなたのご主人様。私に奉仕するのがあなたのやるべきこと」
「……はい」
ルインは満足そうに口角を上げて微笑む。
「別に返事をしろって言ったわけじゃないのに、そうするのね。従順でいい子だわ」
フィオが返事をしたのは自己防衛のためであって、彼女に忠誠を誓ってしたわけではなかったが、好意的に解釈されたようだ。彼自身は緊張で固くなっていて、相手に一発かましてやろうという気持ちを湧かせるほどの余裕はなかった。ほとんど反射的だったのだ。
「じゃあ、行きましょうか。私達が暮らす場所へ。これから私たちの目標やあなたがするべきことはそこでしましょう。こんなところで話すのも辛気臭いもの」
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