あたちとご主人VS私とルイ 2/4

 ン?

 玄関の方で何か音がしてるなぁ。

 ご主人が帰って来たのかにゃ?

 お出迎えする気分じゃないけど……

 眠いしどーするよぉ……


 まってまって!

 たしか今日っておやつの日だったんじゃない?

 チュール貰える日を忘れられると無かった事になっちゃう!

 まずい! それだけは絶対イヤっ!

 だけどまだ間に合う筈!

 跳び付いてあげれば誤魔化せる!

 大好きなおやつの為にご機嫌伺いくらいしてあげようかしら?

 本当に面倒なのだけど……


 そうと決まれば即実行に移すのである。

 玄関めがけて猫まっしぐらっ。


 やっぱりご主人の帰還だぁ。

 あのマットって滑るから気を付けないとね。

 たしかぁ……距離を短めで跳躍角度を急勾配にして高く跳べば、マットに着地してもズレないから大丈夫と、何度も実践して確認済みなのだ。

 スペシャルなあたちはこの程度の事、完璧にこなすなんてのは朝飯前なのである。

 もう夜なのだけど……

 でも、明日の朝より前なのだから間違いじゃないっ!


 ご主人との距離を慎重に見極めて更に角度を計算すると、あと二歩半で跳べばパーフェクト! ふふん。

 良しっ! いまだぁ! ジャンプ! シュッ!!

 あっ…………


 起きた時に伸びをしなかったから、思い通りに身体が動いてくれなくてキレが悪いっ。

 それに眩しい……暗い処から急いで出て来たから眼が順応してないっ!

 ヤヴァイ……

 思わず眼を瞑ってしまうぅぅぅ。

 これは反射だから抗えないいぃぃ。


 異変に気付いた繊細なあたちだけど、既に身体は空中に在って、不覚にも踏切の失敗をリカバリー出来る程の距離も無い。

 計算通りのパーフェクトジャンプとはかけ離れてるのである。

 これでは着地と同時に滑ってしまう、忌まわしい角度になってるじゃ無いにゃいかぁ……

 でも、ご主人はどんなに華麗な跳躍を決めてあげても、その素晴らしさに気が付かないから、あたちの美学ではNGなだけであって、本質的には何の実害も無いのだ。

 滑りながらの着地でも態勢を整えて、フォロスルーの様に一連の動作でそのまま脚に擦り寄ってあげれば済むお話しなのだ。

 ここまでサービスしてるのだからさっさとチュールをお出しなさいな。


 でも、こうやってアピってもあたちの意をを汲むこと無く、真っ先に頭を撫でたり耳をモフったりする鈍感さ。

 それは毎度の事だから、出来る駄猫のあたちにとっては織り込み済みと云う訳。

 この先の事を考えると、ずっと鈍いままでは困るから今夜こそ云ってやるのだ。


 ちがぁw

 そうじゃないっ!

 早く出すもモン出しやがれってぇの! 

 眠いのを我慢して、面倒なお出迎えしてあげたのは何の為だと思ってんのよ。

 耳までは許してあげるけど、尻尾までモフったらキレるから!

 尻尾はチュールのご褒美でモフらせてあげるんだから、勘違いしないでよねって。


 やっぱり、今夜も呆れるくらい鈍感なご主人なのである。

 玄関からずっと脚に擦り寄ってあげてるのに、クローゼットに向かって一直線なんて非常識にも程が在るでしょ。

 着替えよりも先にあたち権利を尊重して義務を果たしなさいってぇ。

 

 まったくぅ……なんて気の利かないヒトなんでしょ!

 お世話してあげないと何にも出来ないんだから、あたちも気苦労が絶えないわね。

 少しは学習されたら如何なものかしら?



 今日はやけに甘えて来るな。

 玄関に入る早々、待ってましたと云わんばかりに走って跳び付くし。

 そして歩くのも気を使わないと踏んでしまいそうな位じゃれつくなんて滅多に無いから余程寂しかったんだろうな。


 猫は気侭とは云うけど、ルイはステレオタイプとは違って、どちらかと云うと犬っぽいから個性に由って種族として猫のイメージが変わるなと実感する。

 もしかしたら猫じゃなくて別の種族なんじゃ?

 でも、前脚の付け根から両手を差し込んで持ち上げると、脱力してびよーんって伸びる所を見ると猫の習性はちゃんと残ってて、新種の珍獣では無いのは確かだ。


 あれっ? 待てよ?

 もしかして寂しかったのじゃなくて、お腹が空いてるだけとか?

 と考えて水とカリカリが乗ってるトレーに視線を向けると、まだちゃんと残ってる。

 ルイはあまりカリカリを好んで食べないけど、留守中のおやつ的な感じで用意して出掛ける。

 仕事が終わって帰宅した後に残ってるカリカリにネコ缶を混ぜると完食するから、嫌いな訳でも無いと思ってる。


 予防接種や健診で通ってる動物病院の先生に由ると、ルイくらい成長してれば一日に一食でも問題ないらしい。

 逆に何食も与えてしまうと健康面で悪影響が出る可能性が高くなるって教えてくれた。

 娘同様の大切な家族だからいつまでも健康で元気なルイでいて欲しい。


 こんな事を考えながら着替え終わると、食い入る様に真っ直ぐ見てるルイと視線が合った。

 そんなに遊んで欲しいのか~

 思わず顔が綻んでしまうじゃないか~

 それじゃネコ缶を用意する前にいっぱい撫でて可愛がってあげようかな。


 革紐を眼の前にチラつかせると「ねこぱんち」するのが、最近のお気に入りな遊び方らしい。

 この子は市販品のおもちゃには関心が薄くて、何が面白いのかと首を傾げてしまう様な何でもないモノに興味をそそられるから不思議だけど、そこも気まぐれな猫らしい一面なのかも知れない。

 その内に飽きて、また違うものに興味が行くのだろうけど、その時はまたルイに合わせてやれば良いだけだし。

 でもよく見ると、どこと無く恨めし気に視てる気がするのは何なのだろうか?

 きっと、単純に早く構って欲しくて待ちくたびれてるだけって事だよな。

 さぁ、おいでぇ。

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