陽だまりのにゃんこ ~モフるのはご褒美にゃんだからっ~

七兎参ゆき

あたちとご主人VS私とルイ 1/4

 偉大な先生の有名過ぎる書き出しを拝借させて戴くなら

「吾輩は駄猫にゃんこである」

 となるのだが、残念ながら違和感が在るので拝借はここ迄。

 既に名前は『ルイ』と云うのが在るし、性別もメスなので書き出しから間違ってる感がアリアリなのである。

 ちなみに一人称は『あたち』である。


 今更ながら『駄猫にゃんこ』ってなんぞ?

 ご主人は極稀にあたちの事をそう呼ぶのだけど、ルイって名前が在るから理解不能で七不思議の一つとなってる。

 駄猫にゃんこと呼ぶ時のご主人は感情が昂ぶってる様に見えるけど、もしかしてあたちの種族としての総称なのかしら?

 七不思議の残り六つは追々としてお話しを戻しましょう。


 主なお仕事は夜に帰宅したご主人を癒してあげる事で、留守の日中に眠るのがこのお仕事の過酷な所なのだが、眠ってない時間は気侭に過ごして良しとなってるのである。

 なのでお天気の良い日の窓辺はあたちのお気に入りなのだ。

 陽だまりでぬくぬくとポカポカしながら眠るのが至高で、このひと時は誰にも邪魔させないのである。

 そんなあたちでも気が向けばハードワークになるけれど、警備業務なんてのをしてあげなくも無い。


 このお仕事は、家具やキッチンの上などの高い場所から見張って不審者に備えるシーケンスと、お家を隈なくパトロールしてチェックするシーケンスが在り、手間が掛かる上に煩雑にもなりがちで、多忙を極めるあたちとっては機嫌が良い時だけの限定なの。

 少々気紛れだけどご主人が居ない間の安全と安心は『出来る駄猫』であるあたちの双肩に掛かっていると云っても過言では無いのだ。


 こんなスペシャルでパーフェクトなあたちでも偶には失敗する事も在る。

 たまたま飛び乗った家具の上に比較的に軽い箱が在ると、バランスを崩して落ちてしまうと云う失態を演じたりする。

 当然の様にあたちは『シュタッ』って着地するから何事もないのだが、ご主人が帰って来ると何故か怒られる。

 これは業務を遂行する上で起こったアクシデントだから非常に理不尽なのだ。

 不甲斐ないご主人に代わって警備してあげてるのに、それを理解も感謝もしてくれないのは不当な行為なので当然あたちは抗議する。

 とは云っても手加減はする。


 だいたいの場合、怒る時のご主人は顔の側まであたちを持ち上げ眼を合わせ『悪戯しちゃダメでしょ』って云って来るので、あたちはピンク色の柔らかい肉球で頬を二~三回ポンポンってする程度の制裁で許してあげる。

 そうするとご主人は何故か笑顔になり、あたちを怒った事を反省して頭を撫でて来るのだ。


 すぐに謝るくらいなら怒らなければ良いのにね。

 まったく世話の焼けるご主人だこと。

 今度こそちゃんと反省するのよ。

 分かったかしら?




 会社での仕事を終えて帰宅する私は、ドアの前で鍵を取り出しロックを解除する。

 誰も居ないけど『ただいまぁ』と云ってしまうのは習慣になっている。

 厳密には誰も居ないのでは無いのだけれど、相手は猫だから言葉は通じない筈。


 ドアを開けて玄関に入るとマットの上にちょこんと座って『ルイ』がお出迎えしてくれるパターンと、慌てるように走って飛び出して来るパターンが大多数で、レアケースとしてクローゼットで待ち伏せしてる事も在る。


 だからドアを開ける前にどのパターンか予想するのも、私の日課的な楽しみだったりする。

 まぁ、レアケースの場合はしまって在る衣類をグチャグチャにしてるか、外に引き摺り出してたりするから、後始末を考えると正直なところ止めて欲しい。

 何度叱ってもやらかすのだから反省はして無い様だ。

 でも暗い場所だからか瞳孔が開いて、クリクリの眼で首を傾げながらキョトンと見つめて来るのだから、可愛らしさに中てられて叱れなくなる事も多いのも事実。


 やはりこの一貫性の無さが悪癖を正せない要因になってるのだろうか?

 私は飼い主なのだから心を鬼にして一貫性を持って接するのが良い筈だ。

 と反省と決意はしてみるけど鬼には成り切れない体たらく。

 帰宅してルイと遊ぶのが明日の仕事の活力に成るのだから必要悪と割り切ってしまうのが建設的なのだろうけど。


 今夜は慌てて飛び出して来るパターンだった。

 ちょうど玄関マットに着地するから、勢いでマットが滑りバランスを崩しコケるが何とも可愛らしくて癒される。

 そしてコケたのを誤魔化すように澄ました顔で擦り寄って来るまでがセットなのだ。

 この一瞬の為に今日も仕事をして来たと云っても過言では無いのだろうか。

 しかしやはりこの子は猫なのだ。

 ルイ的にはちゃんと誤魔化せてると信じて疑わなく物怖じもしない。

 もっと云ってしまえば恣意的な駄猫そのものだけど、他人に言われたら本気で怒ってしまう自信が在る。

 これでも私はこのルイを溺愛して止まないのだから。


 今夜のルイは、私が靴を脱ぎ着替えるまで纏わり付くように離れようとしない。

 慣れてるとはいえ、日中は仕事で留守にしていたから寂しかったに違いない。

 良し! 今夜も寝るまでいっぱい遊んであげる事としよう。

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