第4話 久しぶりの
夢も見ず目が覚めると、明るかった外はすっかり暗く、外は結構寒いのだろう。部屋は火鉢で暖められているものの冷気を遮断できていない。
それでも、長らく石造りの部屋にいた身には信じられない待遇だ。
「あたたかい」
今度は枕元にあった水差しを使わせてもらいきょろきょろと薄暗い部屋を見回す。
調度品なんてない簡素な部屋だ。この部屋があの人の物なのか・・・。成金趣味とかならありがちなのに。と小さく呟けば、-私-が成金・・・?と小首を傾げている。
そういえば、私も、-私-も、この場所に閉じ込められてからは勿論だが全然あの人について知らないのよね。私の意識なんて本当に限界になった-私-が最近起こしてくれたものだもの。
疲れ果てて、草臥れて、絶望の中にいた-私-が、可哀想で。同情だ。だってこんな骨と皮みたいな、生きているのが不思議な子供なんて現代日本でごく一般家庭で育ったOLがお目に掛かる事がないもの。
そう、骨と皮なのだ。子供らしいふくふくとした頬は勿論ない。大きめな瞳が不自然に見えるほど痩せこけた子供・・・何故生きているのだろうか、と不思議でしかない。
「この世界が現代じゃないのは勿論、全然地球とは違って、そもそも生命力がオカシイのか、-私-自身がすっごい生命力を持っているのかな」
前者なら良いけれど、と呟く。
ふう、と息を吐いたタイミングで部屋の扉が小さくノックされ殆ど音を立てずに人が入ってきた。
「!お目覚めでしたか」
「隊長さん・・・?」
「嗚呼、そう言えばお倒れになる直前に名乗っていましたね。私は陽春と申します」
その台詞にそう言えば名乗られていたかもしれない、と思い出す。
「すいません・・・」
「と、とんでもない。混乱の最中なのです、私の配慮が足りず申し訳御座いません。
・・・姫様、あいにく、強行軍でしたので軍医しかおらず、詳しい御身の状態については城の専門家に診させて頂かないと正確な診断が出来ぬままで申し訳御座いませんが、まずは養生と暫く固形の物を召し上がっていらっしゃらないようでしたので薄粥をお持ち致しました」
介助はお断りしたいところだが、寝台の上で座って長々食事をしていられるほど元気でもないので、背中にクッションを差し込んでもらい背もたれを作ってから粥を受け取り、礼を伝える。この身体はどう考えても胃が弱っているので粥なのは有り難い。
「・・・・おいし」
ほかほかと湯気が立つ塩味だけの、ほとんど水分な粥だ。それでも何よりの御馳走に感じられた。
ぐすっっと鼻を鳴らしながら出来るだけ食べる。その間、陽春さんは横に控えてくれていた。
ご馳走様でした、と粥の入っていた皿を渡せば水を差し出され有り難く頂く。
「姫様、今夜はもうお休みになられませ」
「はぃ」
なんなら体内から温まったからか既に眠いです・・・
クッションを外してもらい、横たわる。本当は食べてすぐ横になるのは良くないのだろうけれど、病人?なので致し方ないよね。と目を閉じた。
すぅすぅと寝息を立てる姫に安堵の息を吐く。
「失礼します・・・隊長、姫様は?」
「今、お休みになられた。薄粥も完食なされた」
「ようございました」
訪ねてきた公孫に粥の器を渡し、そっと部屋を出た。
「あらかた調べ終わったか?」
「是・・・おそらく城から刑部の者が改めて探しに来るでしょうが」
「まあそうだろうな」
「それと、耀明様、紫白様より連名で指示書が速鷹で来ております」
「わかった。他の者は交代で身体を休めるように伝えてくれ。割振りは公孫に任せる」
「御意」
すっと一礼し離れていく副官を見送り、中庭に出る。古い造りのこの屋敷は、使用人も殆どおらず部屋の大半は埃が被っていた。周囲に民家はなく、この屋敷だけ木々に埋もれるように存在していた。
現在王都から来ているのは陽春以下30名ほどで、中庭と外周に天幕を張り野営をしている。陽春が宿営用の天幕に入れば、待機していた部下が文を手渡してくる。
「・・・」
出来るだけ姫様の負担の少ない範囲内で帰還するように、と言う事が短く書かれている。どうも当代の状態も思わしくないようだ。
「頭痛がするな・・・」
「隊長?」
「いや、速鷹に持たせる文を書く。李白、墨の準備を頼めるか」
「すぐに」
控えている部下に頼み、返信の準備をしつつもこの後の路程について考える。悪路を多少挟みつつ休憩を多めに入れて、短く見積もって王都まで7日といったところか。しかし、姫様の負担を考えるとその旅路は厳しい物になる。
「あのお身体では負担も大きいな・・・李白、公孫と共に姫の俥に乗り傍に控えておけ」
「私でよろしいのですか?」
「明日、姫に紹介する。で、姫の体調を見て出発だ・・・あの通り、弱っていらっしゃるので薬師のお前が近くにいた方が良い。早雲は軍医だが外科的な治療が得意だからな」
「左様ですね・・・承知致しました」
姫様が心配なのは勿論だが、当代の状態が思わしくないのも気に掛かる。
「明日には出立できるよう、準備を通達しておいてくれ」
「是・・・行ってきます」
天幕を出ていった部下を見送り息を吐く。待ち望んでいた主人が小さく弱っている姿は胸にクるものがあった。
「お守りさせてくださいませ」
なにからも守って見せましょう。今は、ひとまずの休息を、と姫の安寧を祈った。
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