第3話 夢の中
両親がいて、友達がいて、仕事をして、まとまった休みには旅行に行ってと人生を楽しんでいた、と思う。
そんなありきたりで、ドラマ感のない女の記憶のような物を-私-を抱えてソファに座りながら2人で見る。
ふわふわと淡い光を反射するシャボン玉が浮かぶ不思議な世界-いや夢だろうケド-、小さな頭を撫でる。
「ねえ、鳳凰ってなにかなあ」
「なにかなあ」
勿論、ファンタジーな鳳凰はわかる。10円玉にある寺や10,000円札に描かれていて日本人にはお馴染みの生き物だ。
「人外になった記憶ないんだけど。ってか姫!って言ってたヒト、ゴツめでかっこよかったなあ」
「かっこよかった?」
こてんと首を傾げる-私-にウンと頷く。
いつの間にか映像は-私-の人生に変わっていた。自分の名前や両親の顔は何故か黒塗されているし画面は飛び飛びだ。
「起きたら、どうなるかなあ」
「こわい」
「うん、だからね-私-」
「?」
「オネエさんが外に出とくよ。最近は交代していたし、このまま。
もう、疲れちゃったでしょう?」
優しくその小さい頭を撫でる。
子供は月並みだが笑っていてほしい。ふくふくしたほっぺた、キラキラした目が眩しい。そうあって欲しいと思うのは大人側の我儘だ。
正直、日本でなく、現代でもないので不安しかないけれど。それは心の底に仕舞う。
「・・・いいの?こわくない?」
「もちろんー。オネエさんはこれでも大人だからね!」
見上げてくるー私ーの金の目がうるうるとする。
眉がハの字になって申し訳なさそうなのが申し訳ないけど可愛い。
きっとむちむちになったら可愛いさ増すと思うのよね。食生活やら生活環境変われば肌や髪も柔らかく艶が出るはず!
部屋の明るさが増し、シャボン玉が弾け始めたので立ち上がる。
いつも夢じゃなくてこの空間なら安心してオモテで目を閉じれるのに。
「ン・・・」
「!
目が覚めましたか?お身体に辛いところはございませんか?」
石の冷たい床でばかり寝ていたから、目が覚めたとき何処にいるのか一瞬わからなかったわ。
簡易な作りでも立派な寝台だ。
眠気眼をごしごしと擦り、声をかけてきた片膝をついている男を見る。
短髪で青みがかった黒髪、右眉から耳上まで傷がある、ガタイの良い男だ
「姫?」
「あ、の」
声を出して、随分喉が渇いている事に気付いてしまう。空咳をすれば、慌てたように男は断りを入れて外に出ていった。
「(ここ、どこなの?)」
-私-の記憶にない部屋は、久しぶりに感じる陽の光に照らされた明るい部屋だ。
少し大きめの火鉢で温められている。
そうっと掛布を捲り床に足をつけ、膝が震えるがなんとか立ち上がる。
よたよたと壁沿いに歩いて窓際に向かう。
空が、太陽が、見たかった。
「ふわ」
窓を開ければ格子で遮られない、雲ひとつない抜けるような青空だった。
鳥の鳴き声、風のそよぐ音が耳を楽しませてくれる。頬を少し冷たい風が撫でて心地よい。
とくん、と心臓が跳ねる。-私-が喜んでいる。
「姫様?」
「ふへ!?」
いつの間にか戻ってきたのか部屋に先程の男が小さな盆を持って控えていて、びっくりして膝から力が抜ける。
「姫さま!?!?」
「あ、すいません・・・!びっくりして」
「いえ、謝罪など不要でございます!!!私が突然お声がけしまして申し訳御座いません」
お互いぺこぺこと頭を下げる。
「・・・・・・・・・姫様、隊長、落ち着いて下さいませ」
「!だれ???」
「許可無くお声をおかけし申し訳ございません。公孫と申します」
声の非常に良いこれまたガタイがよい素敵オジサマという感じだ。
見た目は前髪ごと黒髪を3つ編みにして背に垂らしている。
「姫様、白湯をお持ちいたしました。まずは寝台に。お連れしてもよろしゅうございますか?」
「じ、じぶんで」
「申し訳御座いません。身体がまだ調子が良くないのではと思慮致します。御不快かもしれませんが・・・」
申し訳なさそうに眉をハの字にしている男に諦めてお願いする。
お盆を公孫に渡した隊長と呼ばれた目が覚めたときいた男の人がヒョイと私を軽々抱えて寝台に丁寧に下ろす。
「白湯をお飲み下さい」
「あ、ありがとうございます・・・あの、私が咳をしていたからですよね。持ってきて下さってありがとうございます」
「とんでもございません。枕元に水差を用意しておらず・・・」
また謝罪合戦になりそうなのを公孫にそっと止められた。
「あの、ここは?」
白湯で喉を潤し、ずっと気になっていた事を切り出す。石造りの部屋から出た後どうなったんだろうか?あの人は?
そもそも、姫とはなんだ?
「疑問は数多くあるかと。しかしながら姫様の体調については本調子ではありません。恐れながら、一気にお伝えすると体調に障るかと・・・。様子を見つつ、姫様の疑問に逐次お答えするという事で大丈夫でしょうか」
隊長さんの気遣いに了承する。それが真実かはさておくが、話す気があるのは誠実だ。
「ではまずここについて。
ここは姫様が捕らえられていた敷地内で御座います。ご不快かとは思いましたが、すぐに御身をお運びするには体調が芳しくありませんでしたので・・・」
「それは、大丈夫です・・・ハイ」
なにせ食事も運動もまともにしていなかった-私-だ。どこまで連れて行かれる予定かは分からない・・・・・そもそも此処がどこなのかもサッパリだけれど・・・のに身体が保つとは思えない。
そう、なにより知りたいのは鳳凰とはなのか、だ。
もしかしたら、その存在のせいでこの状況なのかと恐ろしい。-私-が石造りの部屋にいたのはきっと年単位のハズだから・・・。
ふう、と溜息を吐けば隊長さんが恐れながら、と休養を勧めてくれる。
早く色々な事を知りたい気持ちと、恐ろしくて知りたくない-私-の心、実際に疲弊している肉体もある。
提案を有り難く、勧めに従うことにする。何事も詰め込みすぎは良くない、はず。
部屋を退室する2人を見送ってすぐ、訪れる睡魔に身を任せた。
夢は見ない気がした。
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