第38話 青い空、広い海、そして水着!

 夏休みに入ってから一週間が経過し、姫香の別荘へ遊びに行く日になった。


 移動手段は車。

 それも、姫香がお抱えの運転手を高級車と共に奏斗らの家に寄こしてくることになった。


 そして、およそ五時間掛けて海沿いの別荘に到着した――――


「会長、今日は誘っていただいてありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ桐谷君達に来ていただいて嬉しい限りです」


 プライベートビーチを見渡せる位置に建つ二階建てテラス付きの立派な別荘の前で、姫香と凛、親衛隊の女子らが出迎えてくれた。


 初対面である詩葉、茜、亜理紗、駿も、姫香ら生徒会組と自己紹介・挨拶を済ませる。


「よし、じゃあ準備出来たらビーチ集合な~」


 奏斗は皆にそう声を掛けて、同室で寝泊まりすることになる駿と共に別荘の中へ入って行く。


 そんな奏斗の背中をどこか覚悟の籠った瞳でジッと見詰めて、詩葉、茜、亜理紗は…………


(こ、ここでカナ君にアピールしなくちゃいつするの私っ……!?)

(たっ、他意はないけど折角この私が一肌脱ぐんだから悩殺してあげるわ!)

(頑張って選んだし、出来れば喜んでもらいたい……)


 それぞれの想いを胸に、部屋に行って水着に着替えるのであった――――



◇◆◇



「……なんか、皆遅いね?」


「わかってないなぁ、駿。主人公にしては鈍感なのか、だからこそ鈍感なのか……」


 一足先にプライベートビーチへやって来て、適当なところに座って待っていた奏斗と駿。


 駿が「主人公って?」とよくわからなそうに疑問符を浮かべる。


 ここに詩葉らがいたら「どの口が!」とツッコミを入れられそうな奏斗は、どこか呆れたように肩を竦めて頭を左右に振る。


「良いか? 詩葉や茜、亜理紗……だけじゃない! 会長や東雲先輩を始めとする生徒会メンバーの全員が美少女&美人なんだぞ!?」


「た、確かに……!?」


「そんな彼女らの水着姿はさぞ尊いモノだろう……ゆえに、こうして待っている時間も楽しまねば……!」


「わ、わかったよ……!」


 と、二人がそんな話をしていると――――


「ふふっ、流石桐谷君といったところでしょうか。嗜み方を心得ていらっしゃいますね」


 丁度ビーチに入って来た姫香が奏斗に微笑み掛ける。

 隣には凛、それに続くように親衛隊の女子らが並んでいた。


「「おぉ……!」」


 奏斗と駿が同時に感嘆の音を溢す。


 親衛隊の女子らもそれぞれの個性を活かした素晴らしい水着姿。

 ここがプライベートビーチでなかったら、誰もが一度はナンパの標的にされてもおかしくないほど魅力的だ。

 

 だが、そんな彼女らの中でもやはり一際目を引くのが姫香。


 俗に言う“ワンピ見え水着”というやつで、実際は上下別れているが、アンダーがハイウエストなため上と繋がっているように見えるのだ。


 上はブルーグレーのオフショルダーに下はネイビー。

 その落ち着いた色合いゆえに、姫香持ち前の上品さがしっかり表現されている。


 また、長い金色の髪は三つ編みで一つ束ねにされており、頭にはツバの大きな白い帽子を被っていた。


「二人とも良い反応をしてくれますね。ですが、出来ることならきちんと言葉による感想が欲しいところです」


「あっ、えと……凄く綺麗です会長……!」


 慌てて立ち上がった奏斗がそう感想を述べてから「だよな!?」と駿に同意を求めると、ブンブンと勢いの良い頷きが返って来た。


「ふふっ、まぁ良いでしょう」


 満足そうに微笑む姫香。


 奏斗としてはもう少し相応しい言葉で感想を言ってあげたいところだったが、本当に姫香が綺麗すぎて一気にボキャブラリーが消し飛んでしまったのだ。


 ただ、目を引くと言えばもう一人いる。凛だ――――


「というか、東雲先輩はどうして……競技用水着?」


 ツッコミを入れようか入れまいか一考したのち、やはり我慢出来ずに尋ねる奏斗。


 すると、姫香の隣に立つ凛が相変わらずの無表情で首を傾げた。


「どうして、とは?」


「えっと……他の皆さんとはちょっと嗜好が違う気がして……」


「似合っていませんか?」


「あっ、いや似合ってますよ!? というか、似合いすぎているというか」


 そうなのだ。似合っているのだ。

 必要な筋肉が付いたしなやかな手足、スレンダーな体型。

 もう競技用水着が似合いすぎていて、違和感がない。


(って、その違和感ないのが余計気になるんだよなぁ……)


 曖昧な笑みを湛える奏斗と、そんな奏斗の前で珍しく口許を緩ませてモジモジして見せる凛。


「そんなに褒めても何も出ませんよ」


(ん~、照れさせるようなことは言ってないんだけどなぁ……)


 奏斗が凛のややズレた感覚にツッコミあぐねていると――――


「ちょっと奏斗! 鼻の下を伸ばすのはまだ早いわよ!」


「ん、茜?」


 聞き慣れた声のした方向に顔を向けると、日差しが眩しくて一瞬目を細めてしまったが、すぐに目が慣れて視界が鮮明になる。


 すると、茜を先頭に詩葉と亜理紗が三人でこちらに向かってくるのが見えた。


 眩しさも忘れて、奏斗はみるみる両目を見開いていく。

 目尻から頬を静かに伝ったのは、感動の涙か。


(GGのどのシナリオでもヒロイン三人まとめての水着回はなかった……)


 奏斗は蒼穹の天蓋を仰ぎ見る。


(フッ……どうやら俺は転生してGGの世界に来たのではなく、召されてに降り立っていたようだ……!)










【あとがき】


 お待たせしました!

 水着回です!


 とはいっても、重要な詩葉、茜、亜理紗の水着姿をこの話で描写しないあたり、作者の性格の悪さ(焦れったいの大好き)が出てますねぇ~!?


 でも安心してください。

 きちんと次話で三人の水着姿を出しますので、どうか怒らないで待っていてくださいな!


 ではっ!

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