第三章~常夏!寄せては返す恋の波編~
第一節:やって来たプライベートビーチ
第37話 水着回前のお約束っ!
「――というワケで、来週から生徒会長の誘いで別荘にお邪魔することになったんだが……お前らどうする?」
「カナ君が行くならもちろん行くっ!」
「ふふん、もちろん私も行くわ」
「私も行きたい……」
とある日の下校前。
奏斗の提案に詩葉、茜、亜理紗が首を縦に振る。
「駿はどうする?」
「ん~、僕は……」
女子三人は迷わず頷いたが、駿は少し考える素振りを見せる。
だが、奏斗としては是非駿にも来てもらいたいところ。
このままでは女子複数人に対して男子一人になってしまう。
どのみち男女比は明らかに後者へ傾いているが、そんな環境を一人で乗り切るのと二人で支え合うのとでは気の持ちようが全然違う。
「(た、頼むよ駿……流石に俺一人だとちょっと居たたまれないからさ……)」
奏斗がそっと駿へ耳打ちして両手を合わせる。
駿は「うぅん」としばらく悩んでから、仕方なさそうに笑って答えた。
「わかったよ、僕も行こう」
「助かる……!」
という流れで、来週から奏斗ら五人は姫香の別荘にお泊りすることになったのだが、その前に準備すべきことがあったのだ。
特に、女子三人には――――
◇◆◇
「カナ君曰く、来週行く生徒会長の別荘にはプライベートビーチがあるらしいの。となれば、コレが必要だよねっ……!」
どこか真剣な表情でそう語る詩葉に、茜と亜理紗も同意する。
「そうね。確実に必要になるわ」
「間違いない……」
この場所に奏斗はいない。
いるのは、詩葉、茜、亜理紗の三人のみ。
そんな彼女らが今立っているのは、姫野ヶ丘学園高校のある街から電車で四駅ほど進んだ場所にある大型ショッピングモール。その三階にある水着コーナーの前だった。
色もデザインも様々な水着がハンガーラックに掛けられてズラリと並んでいる光景は圧巻。
少なくとも、男子にとっては居たたまれなさを極めた世界となっている。
そんな光景を目の前にして、詩葉は覚悟を決めたような表情でゴクリと喉を鳴らした。
(最近カナ君の周りに女の子が増えてきたし……ここでちゃんとアピールしておかないとだよね……!)
と、そんな詩葉の隣で茜も微かに頬を赤らめながら…………
(そろそろ新しい水着買わなきゃって思ってたし、良い切っ掛けだったわ。べ、別に誰かに見せるために買うわけじゃないけど! せ、折角買うんだからちゃんと良いモノを選ばなきゃよね!?)
詩葉と茜がそう密かに意気込んでいることなど露知らず、亜理紗は多種多様な水着が陳列する水着コーナーを呆然と見詰めて呟いた。
「奏斗ってどんな水着が好みとかってあるかな……」
「な、何でっ!?」
「あ、亜理紗ちゃん貴女まさか……!」
耳聡くそんな呟きを拾った詩葉と茜が焦ったように亜理紗へ視線を向ける。
亜理紗は二人がなぜそんなに興奮しているのかよくわかってなさそうに瞬きを繰り返し、首を傾げながら答える。
「いや……奏斗には色々助けてもらったのに、まだお礼出来てないからこの機会にって思ったんだけど……」
私でも似合う水着を着れば多少は目の保養になるかもだから――と何の下心も感じさせない単純な感謝の気持ちから出る言葉。
詩葉と茜は本能的に危機感を感じていた。
((い、意外とこういう純粋な子が油断ならなかったりする……!))
詩葉と茜、そして意図せぬ亜理紗による女の戦いが幕を開けた――――
◇◆◇
(うぅん……ちょっと子供っぽいかなぁ……?)
更衣室の中、詩葉がワンピース水着を着た自分の姿を鏡で見ながら首を傾げる。
淡いピンク色を基調としており、胸元から背中にかけて可愛らしいフレアがあしらわれている。
(フレアは可愛いんだけどなぁ……やっぱりワンピースじゃないのも試してみようっ!)
今度は女性の水着と言えばコレと誰もが思い浮かべるであろう三角ビキニを身に付けてみた。
オレンジ一色で、上下ともに紐で結ぶタイプ。
詩葉の雪のように白くきめ細やかな肌が惜しげもなく晒され、年相応に成長した胸の膨らみが三角形の布地によってホールドされている。
カァと詩葉の顔がみるみる紅潮していった。
(こ、これは大胆過ぎるよぉ……!?)
思わず自分で目を覆いたくなる。
(む、胸もしっかり谷間が見えてるし……というか、アンダーの角度急すぎるよねっ!?)
しなやかな脚の付け根のラインが布地の外に出てしまっている。
(色々違う意味でカナ君もドキッとしてくれるかもだけど、これじゃあ目を合わせてもらえないよぉ!)
もう少し露出控えめかつ、自分の雰囲気に似合うような可愛い系に寄ったデザインの水着が良い。
詩葉は再び水着コーナーへと探しに出て行った――――
と、そのころ茜は隣の更衣室の中で、
(ふふん、悪くないじゃない)
鏡の前で腰に手を当てポーズを取りながら、どこか得意げな笑みを湛えていた。
そんな茜が今身に付けているのは、詩葉が大胆過ぎると否を突き付けた三角ビキニの色違いだ。
茜の炎のような赤髪が良く映える、黒い布地。
長い手足とキュッと引き締まったウエストが存分に晒されており、その身体と黄金比を成している胸部の双丘も確かな存在感を放っていた。
(自分で言うのも何だけど、スタイルには自信あるのよね~)
異能対策秘匿部隊の一員として身体を鍛えることを欠かしてこなかった。
その甲斐あって、ただ細いだけの身体とは異なる、しなやかで上質な筋肉が作り上げる引き締まったプロポーションを手に入れた。
(でも、あの鈍感に鈍感を重ねた奏斗に、こうしてただ身体を見せるだけでアピールになるかしら……?)
茜は少し悩んだ。
確かに自分のプロポーションには自信がある。
主観に留まった評価ではなく、クラス名との女子からも何度も褒められているし、密かに男子らが自分へ視線を向けてきているのにも気付いている。
だが、ただ素肌を露出させるだけでは芸がない。
何か一工夫欲しいところ。
「……ふふ、あえて少し隠してみようかしら?」
妖艶に口角を吊り上げた茜の紫炎色の瞳は、まるで得物を狩る猛禽類のように怪しく輝いていた――――
「水着なんて買ったことないから、何が似合うのかよくわからない……」
中学校の水泳の授業で使用したスクール水着が、これまでの亜理紗の人生の中で唯一身に付けたことのある水着である。
インドア派である亜理紗は、正直海水浴や川遊び、プールなどに興味がない。
今回こうして奏斗の誘いに乗ってプライベートビーチのある別荘に同行することにしたのは、そこで何か奏斗へ恩返しできるかもしれないと思ったからだ。
(私の水着姿を見せるくらいで恩が返せるとは思ってないけど……それでも、ちょっとでも喜んでもらえたら……)
そのためだったら何だってする。
亜理紗自身、胸の内の感情が純粋な感謝だけなのか、それとも別の感情が混ざっているのか判断出来ていない。
しかし、今はとにかく奏斗を喜ばせられる水着を選ぶことが最優先だ。
(こういうのはやっぱりその道のプロ……店員さんに聞くのが良いはず)
亜理紗は手近な場所で商品の整理を行っていた若い女性店員に声を掛けた。
「すみません。今まで自分で水着を選んだことがなくて、あの……どういうのが良いんでしょうか……?」
本当なら一緒に来ている詩葉や茜に意見を聞くのが良いのだろうが、二人は何やら物凄く真剣で忙しくしている。
「なるほど~。では、何か水着に求めるものってあったりしますか? こういうデザインが好きだとか、こういう目的で使いたいとか」
「デザイン……は、よくわからないですけど、その……」
じわり、と亜理紗の頬が仄かに色付いていく。
「お礼をしたい、人がいて……」
「ふふっ、男性ですか?」
何かを察したように微笑む女性店員に、亜理紗がコクリと頷く。
「実は、その人の周りには可愛かったり綺麗な女子がもういて……それでも、ちゃんと私も見てもらえるようにしたいというか……」
「良いですね良いですね! わっかりました。私にお任せください!」
ポンと自信ありげに胸を叩く女性店員。
ジッと亜理紗の頭のてっぺんから足の先まで観察して、大きく頷く。
「可愛い系の女生と綺麗な感じの女性がもういらっしゃるんですよね? では、ちょっとカッコいい系で勝負してみませんか?」
「か、カッコいい……?」
「はい! お客様の印象として、物静かでクールな感じがするのでそっち路線で攻めるのが良いと!」
「わ、わかりました……で、ではオススメとか――」
「――ありますあります! めっちゃあります! こちらです!」
「ちょ、ちょぉ……!?」
このあと、亜理紗はしばらく女性店員に連れられるがまま水着コーナーを駆けまわることになったのだった――――
【あとがき】
久し振りのあとがきですね。
お久し振りです!
引き続き読んでいただけているようで、作者は感謝感激大興奮でございます!
さて、別荘! 海! これはもう水着回です!
今回は奏斗のいないところで、ヒロイン達がどうやって自分をアピールしようかと真剣に悩んでいる姿を描く話でございました!
次回はお待ちかねの水着回です!
三人がどんな水着を選んだのか……ぜひ、お楽しみに!!
あと、作品のフォローや☆☆☆評価、コメントなどお待ちしております!!
ではっ!!
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