第34話 ライブメンバー決定!
翌日、授業間の休み時間。
奏斗と駿は共にトイレから自教室へ戻る途中だった。
このタイミングを利用して、奏斗は駿に亜理紗の事情を説明し、ゲリラライブでベースを弾いてくれないかと話を持ち掛けていた。
「――なるほどね、事情はわかったよ。でも、僕なんかで良いのかい? 探せば僕よりベースが弾ける人はいると思うけど……」
「いや、出来る限り信頼のおけるメンバーでやりたいんだ。その点駿なら問題ないし」
そう言うと、駿は気恥ずかしそうな笑みを浮かべて鼻を搔いた。
「でも、そっちこそ本当に良いのか? 話を持ち掛けておいて何だが、このバンドに参加するってことは駿まで学校側から怒られることになるんだぞ?」
「うん、わかってるよ。でも良いんだ」
駿が立ち止まるので、奏斗も一歩余分に進んだところで足を止めて振り返る。
「奏斗はその花染さんを助けようとしてて、そのために僕を頼ってくれたんだろ? なら、友達として手伝わない理由はないね」
「しゅ、駿……!」
駿が浮かべる爽やかな笑み。
口にした言葉が心からのものであることは疑うまでもなかった。
(やべっ……感動してちょっと泣きそう……)
前世では交友関係が一切なかったと言っても過言ではなかった奏斗。
こうして友情の温かさを実感出来て、胸の奥から熱いものが溢れ出そうになる。
だが、ここは学校。
人目もある。
微かに目元が熱くなるも、涙はグッと堪えた。
その代わりに、ガシッと駿の手を力強く握り込んで握手を交わす。
「マジで助かる、駿」
「あはは、大袈裟だな~」
――と、そんな様子を一組教室から出てきたとある女子生徒が丁度目撃して、
「えっ、なになに!? カナシュンに進展アリってこと!?」
ブシャッ……!
鼻血が出ていることに気付かず、血走った目付きで奏斗と駿が手を握って見詰め合っている光景を眺めていたのだった――――
◇◆◇
バンドメンバーが決まってから数日が経過していた――――
放課後はもちろん、休日も時間を確保してメンバーで集まり、スタジオを借りて練習を行っている。
すると、当然色々と課題も見えてくるわけで…………
「ねぇ、奏斗」
「ん?」
合わせ練習の中で、特にすることもなく皆の演奏を聞いていた奏斗に、亜理紗がやや困った風に眉を寄せて言ってきた。
「あのさ、私歌いながらギターも弾くでしょ? そうなるとやっぱり負担が大きくてさ。出来ればギターはコード弾きとカッティングくらいにしておいて、歌に集中したいんだけど……」
「な、なるほど……でも、そうなると音の厚みがなぁ……」
ギターボーカルである亜理紗がサイドギターを担当するとなると、やはり主旋律を奏でるリードギターが欲しくなる。
だが、これ以上楽器が弾ける者に心当たりなどない。
(……仕方ないか)
奏斗は後ろ頭を掻きながら答えた。
「なぁ、亜理紗。もう一本エレキギター持ってたりするか?」
「うん。今は持ってきてないけど家にはある」
それがどうかしたの? と首を傾げてくる亜理紗に、奏斗は椅子から立ち上がって言う。
「なら、悪いがそのギター本番まで貸してくれないか? 代わりにリードギターは俺が担当する」
「えっ!?」
思わず声を漏らす亜理紗。
確かに自分から切り出した話ではあるが、まさか奏斗自身が名乗り出るとは予想もしていなかったのだろう。
話を聞いていた詩葉、茜、駿も同様に驚きの表情を見せる。
「か、カナ君ってギター弾いたことあったっけ……?」
「ちょ、奏斗!? 簡単に言ってくれるけど、貴方ギター弾けるわけ!?」
「奏斗、今からギター覚えるとなると結構大変だよ?」
皆の驚き、困惑はもっともだ。
幼馴染である詩葉ですら、奏斗がギターを手に取ったところを見たことがない。
当然、奏斗自身もギターを弾いたことなどない――この世界に転生してからは。
「亜理紗、ちょっとギター貸してくれ」
「え、あぁ……うん」
亜理紗からギターを受け取った奏斗。
ストラップを肩に掛け、長さを調節してからピックを握る。
そして――――
「す……凄いよカナ君……!」
「噓でしょ……!?」
「あはは……奏斗の底が見えないね……」
「奏斗、貴方やっぱり凄い人?」
ゲリラライブで演奏することになっている曲を簡単に弾いてみせる奏斗の姿に、皆が驚愕と感嘆の視線を向ける。
「――とまぁ、こんなくらいには弾けるから何とかなるだろ」
「こ、こんなくらいって貴方ねぇ~」
ドラムスティックでビシッと奏斗を指した茜が半目でどこか呆れたように言う。
「今の聞く限りプロ顔負けじゃない。一体どこでそんな技術身に付けたのよまったく……」
「いやいや、流石にそこまでじゃないって」
亜理紗にギターを返しながら苦笑いでそう帰す奏斗。
嘘は言っていない。
奏斗は決してプロの演奏者にはなれない。
前世で親に言われるがまま完璧を追及して、ピアノやヴァイオリン、金管楽器、木管楽器からギターやベース、ドラムに至るまで粗方扱えるようになっていた。
だが、とあるピアノのコンクールで賞を取ったとき、審査員の人から言われたことがあるのだ。
『君の演奏は譜面に忠実で、非常に精密だ。そう、まるで機械のように。だが、それでは超絶技巧で人を驚かせることは出来ても感動させることは出来ない。もし将来プロになるつもりなら、心で演奏しなさい』
結局、心で演奏するというのが何を言っているのかサッパリだったし、奏斗自身プロの演奏者になるつもりはなかったので気にしてはいなかったが、その審査員からの言葉は的を射ていた。
だが今回メインは奏斗ではない。
亜理紗をセンターに置き、目立たせられればそれでいい。
(心で演奏できなくても、技術でメインを支えることは出来る)
このあと、夕方まで合わせ練習を行ってから今日のところは解散となった。
そして、時間は飛ぶように過ぎていき、その日はすぐにやって来た――――
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