第33話 協力の取り付け

「――というワケで、シナリオ通り花染亜理紗――アリーシャのゲリラライブで問題を解決する流れになりました」


「流石桐谷君ですね。事が順調に運んでいるようで何よりです」


 翌日の放課後、奏斗は生徒会室で姫香に状況の説明をしていた。


「けど、いくつか問題があってですね……そこで生徒会の力を借りたいんですけど……」


「もちろん構いません。元々私の方からお願いしたことですし、最大限の協力をしましょう」


 奏斗は「助かります」と短くお礼を言ってから、協力を頼みたい内容を口にする。


「では、ゲリラライブの様子を校内放送出来るようにしてもらえますか?」


 正直ライブをすること自体は問題ではない。

 文化祭などで使用される機材などがあるため、技術的な面で不足しているものもない。


 ただ、単にライブをやっただけでは亜理紗の状態を解決することは難しい。


 出来るだけ多くの人にライブの様子を見てもらうため、校内でのライブ映像の配信は必須だ。


 だが、一生徒である奏斗にはその権限がない。

 かといって教師陣にお願いしても許可は得られないだろう。


 となれば、あとは生徒会の働きに頼るしかないのだ。


 姫香はティーカップを口許で傾けて一口味わってから答えた。


「そうですね……もちろん校内放送の権限を一時的に掌握するのは可能です。ですが……」


 カタン、とティーカップをテーブルに置く。


「行われるゲリラライブに生徒会は一切関与していない、という形を取らせていただくことになります」


「……まぁ、でしょうね」


 奏斗としても予想していた返答だが、最大限協力すると言っておきながらこういう形になってしまうことに姫香は申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「ゲリラライブ……特に何かのイベント期間でもない今、当然学校側からの許可は得られません。いくら生徒会からの要請でも通らないでしょう」


「つまり、校内放送はあくまでもゲリラライブをした人――亜理紗を含む俺達が勝手にやったことで、それに伴う学校側からのお叱りも俺達が受けるってことですよね」


 奏斗は別に怒っていない。

 穏やかな口調で話したつもりだし、表情も柔らかくしているつもりだ。


 だが、それが内包する怒りを隠しているものだと受け取ったのか、姫香が更に表情を暗くする。


「はい、そう言うことになります……生徒会として学校側からの信用を失う行動は出来ませんので、その……お、怒りましたか……?」


「怒ってませんよ?」


「……ほ、本当でしょうか?」


 姫香は転生者でGGのヒロインではない。

 しかし、ヒロインらに勝るとも劣らない美貌を有している。


 こうやって無駄に上目遣いで申し訳なさそうにされると、奏斗としては心臓が喧しくなるので控えていただきたかった。


「ほ、ホントですって。だからそんな顔しないでください」


「……えぇ、わかりました。ありがとうございます」


 姫香は安堵したように微笑んだ。


「ただ、その代わりと言ってはなんですが――」


 チリンチリン。


 姫香がテーブルの隅に置いていたベルを慣れた手付きで鳴らす。


 すると、三秒と掛からず生徒会室の扉がノックされ、姫香の「入ってください」という許可が得られてから複数名の学年バラバラな女子生徒――親衛隊の皆さんが入ってきた。


 軍隊かとツッコミを入れたくなる統率の取れた動き。

 同時に気品を感じさせる美しい所作。


 サッと静かに姫香の傍に控えるように並んだ。


 その中には、奏斗が初めて姫香の頼みで三年生のヒロインの問題を解決するときに手伝ってくれた女子生徒もいた。


「こちらの皆さんを自由にお使いください。皆、私が厳選して傍に置いている方達です。足手まといにはなりません」


「お、おぉ……ありがたいですけど、ちょっと気が引けますね……」


 姫香の手は早いようで親衛隊の中には一年生の姿もあるが、ほとんどが二年生か三年生。


 どちらにせよ奏斗の先輩にあたる生徒だ。

 使う……という表現はともかく、用事を頼むのはやはり多少なりとも申し訳なさがある。


 姫香もそんな奏斗の気持ちを察したのか、安心させるように柔和な微笑みを浮かべる。


「ふふ、その必要はありませんよ。この中に桐谷君に従うのを拒む者はいませんから」


 ですよね、と姫香が可憐な笑みを――だがその深紅の瞳の奥に凄みを帯びた笑みを向けると、親衛隊の面々は迷わず答えた。


「えぇ、もちろんですとも!」

「桐谷君は姫様が信頼を置かれる方……つまり、桐谷君の言葉は姫様の言葉も同義です」

「桐谷君は姫様のために動かれているのですから私共が手伝うのは当然ですから!」

「クフフ……おねぇさんとしては可愛らしい後輩君に使われるのはむしろ望むところですしねぇ~」

「だよねだよねぇ~! うへへぇ~、あ~んなことやこ~んなことまでお願いされちゃったらどうしよぉ~」


「……あの、会長。二名ほど除外していただきたい先輩がいらっしゃるのですが……」


「ふふふ、冗談ですから安心してください。間違いなく、多分、恐らくは冗談だと思いますので……」


 姫香の言葉が後半になるにつれてどんどん濁されていくのがなお一層不安を掻き立ててくる。


(ま、まぁ、今はそんなことより……)


 奏斗はコホンと咳払いして気持ちを切り替える。


「ではまぁ、ありがたく皆さんのお力を借りさせていただきます」


 よろしくお願いします、と奏斗は最後に姫香とその親衛隊の女子生徒らへ頭を下げてから生徒会室をあとにした――――



◇◆◇



「――つまり、ゲリラライブは非公認で当然学校側から怒られることにはなると思うが、生徒会の協力も得られて校内放送も使えることになった」


「やったねカナ君!」

「本当に貴方は何でもやってのけるわね……」

「奏斗って……スゴい人……?」


 亜理紗の部屋での一風景。


 丁度、奏斗が生徒会室で行われた姫香とのやり取りを、詩葉、茜、亜理紗にも説明し終えたところだ。


「それでまぁ……あとはライブをどういう形でやるかなんだが……」


「形って?」


 詩葉が首を傾げるので、奏斗は後ろ頭を掻きながら言う。


「端的に言えばソロライブか、バンドを組むかだ」


「私は何となくアリーシャのソロライブを想像してたわ」


「まぁ、茜の言う通りソロでも良いんだが……これには亜理紗が認識されるかどうかが掛かってる。念には念を入れて、最大限インパクトのあるものにしたい」


 インパクトという観点で見れば、いくら知名度があるとは言え、やはりアリーシャのソロライブよりも、バンドを組んで亜理紗を目立たせつつ、迫力のある演奏で人目を引かせたい。


「だから、出来ればバンドを組みたい。ギターボーカルは亜理紗として、他に楽器弾ける奴が欲しいんだけど……特にドラム……」


 まぁそんな都合良くいるわけないよなぁ……、と奏斗が半ばダメ元で尋ねる。


 すると、「それなら――」と茜が手を挙げた。


「私、ドラム叩けるけど……」


「マジか!」

「茜ちゃん凄い!」

「こんな身近に……」


 奏斗と詩葉が表情を明るくし、亜理紗が感心したように目を丸くする。


「よし、これでドラムとギターボーカルは揃った。あとはベースが欲しいところだが……」


 奏斗は流れで詩葉に視線を向けてみる。

 だが、案の定の反応で、詩葉は勢い良くブンブンと首を横に振った。


「むっ、無理だからね!? カナ君も私がベースとか触ったことすらないの知ってるでしょ!?」


「そうだな……中学生までピアノやってたくらいで――あっ、じゃあ詩葉にはキーボード任せて良いか?」


「えぇえええ!? 私も出るのっ!?」


 すっとんきょうな声を上げる詩葉。

 奏斗は両手をパシッと合わせて頭を下げた。


「頼む! 出来る限りインパクトのある演奏にしたいんだ! 可愛い女子が沢山いたら花があるだろ?」


「かっ……可愛い……!?」


 ボフッ、と詩葉の顔が火を噴いた。

 気付かず奏斗は頭を下げたまま頼み込む。


「詩葉ならその点問題ない……というよりお前の可愛さは俺が保証する! むしろ必須だ! だから頼む……!」


「か、カナ君お墨付き……ひ、必須……カナ君は私が必要だってことだよね……?」


「ああ、もちろん!」


「わ、わかったよぉ……そこまで言われたら仕方ないなぁ~もぅ~。えへへ……へへへ……!」


 よしっ、とガッツポーズを決める奏斗。


 茜と亜理紗が「うわぁ……」と声を漏らしながら冷めた視線を向けてきているが、奏斗は全く気が付いていない様子。


「んじゃ、あとはベースだが……一人心当たりがあるから、取り敢えずそいつの返答次第だな」


 ギターボーカル、花染亜理紗。

 ドラム、綾瀬茜。

 キーボード、姫川詩葉。


 あとは最低限ベースが揃えばバンドとして演奏が出来る。


(さて、GGシナリオではベースをやってたが……この世界でも出来るのか、?)

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