第二章~生徒会と第二の転生者編~

第一節:生徒会長との邂逅

第24話 靴箱にラブ!?

「カナ君か~えろっ!」


 二組で終礼を終えた詩葉が一組教室の扉から入ってくる。


「毎回わざわざ迎えに来なくても、待ち合わせとかで良いんだぞ?」


 奏斗はテコテコ机の傍までやって来た詩葉に、肩を竦めながら言う。


 えぇ~、と詩葉は不満げな声を漏らして、疑るような半目で奏斗を見詰めた。


「だって迎えに行かないと、カナ君一人でどっか行っちゃいそうなんだもん……」


「なに、その親が目を離した隙にオモチャ屋さんへ駆けていく子供みたいな」


 お前は俺のオカンか、と奏斗が苦笑いを作る。


「大丈夫だって。勝手にお前を置いて帰ったりしないからさ」


「帰ることはなくてもどっか行くことはあるけどね?」


「そ、そうだっけぇ……?」


 奏斗は視線を斜め上に持ち上げる。


 思い当たることが多々あった。

 直近では、詩葉に黙って茜の家に行ったこと。


 理由が理由だっただけに仕方ない部分もあったが、勝手にどこかへ行ってしまったことは事実だ。


 詩葉も呆れて「んもぅ……」とため息を吐いていた。


 だが、今日は特に用事はない。


 本当なら詩葉には一刻も早く駿と一緒に下校するような仲になって欲しいが、そう上手くは行かない。


「ま、まぁ、帰るか。あはは」


 奏斗は机の横に掛けてあったカバンを手に取り、席を立つ。


「ねね、今日もカナ君の家行って良い?」


「ちょ、おまっ――」


 他の生徒の目と耳があるところでそんな話をするな!


 と、奏斗は注意しようとしたが、既に時遅し。


「えっ、なになに!?」

「私、聞き間違いじゃないよね!?」

「うんうん! 今姫川さん桐谷君の家に行くとか何とか!」


 近くにいた一組女子のグループが耳敏く詩葉の言葉を拾った。


 どこの特殊部隊ですか? と疑問に思わせてくるような意志疎通の取れた動きで、奏斗と詩葉を囲うようにして立つ。


 詳しい話を聞くまで逃がさないといった意志がひしひしと伝わってくる。


「そりゃこうなるよなぁ……」

「え、えぇっと……」


 手で額を押さえてため息を溢す奏斗と、周りの反応に戸惑う詩葉。


 話題は人から人へと伝播し、気付けば男女問わず教室中の生徒が二人へ注目している。


 やはり皆、年頃の高校生。

 こうした色恋の匂いには人一倍敏感で、興味津々である。


 また、詩葉がよく一組に来るのもあって顔見知りが多く、親しげに話してくる。


「ねぇねぇ! どういうことなの姫川さん!?」

「もしかして、二人って付き合ってたりするの!?」


「えっ、えぇえええ!?」


 女子からの質問に、詩葉が顔を真っ赤にしてすっとんきょうな声を上げる。


「だって今桐谷君の家に行くとか言ってなかった!?」


「う、うん……」


「「「きゃぁあああああ!!」」」


(う、うるせぇ……)


 黄色い声を上げるクラスの女子達。

 奏斗は両手で耳を塞いで鼓膜を守っていた。


 ちなみに、遠巻きからクラスの男子達から恨めしい視線を感じる。


「じゃあやっぱり付き合ってるんだよね!?」

「今から家に行くってことはさ、も、もしかして……!?」

「えっ、うそうそ! そういうことしちゃう感じ~!?」


「ま、待って待ってみんな! わ、私とカナ君は……つ、付き合って……」


 隣から詩葉がチラリと視線をむけてくる。


 ――私達って付き合ってるワケじゃないよね……?


 そんな確認をしてくる目だ。


(な、何で確認してくるんだよ……! 俺達がそういうのじゃないってわかってるだろ……!?)


 確認するまでもない。

 奏斗と詩葉は幼馴染みであって恋人ではない。


 それは詩葉もわかっているはずなのに、こうして確認してきた。


 そのことに、奏斗は不覚にも鼓動を加速させてしまっていた。


「お前ら、俺達はただの幼馴染みだぞ」


 代わりに奏斗が皆の疑問に答える。

 隣から少し残念そうな視線を感じたが、その理由を深くは考えなかった。


「えぇ~、そうなの~?」

「でも今家に行くって……」


「家が隣なんだ。だから、結構行き来したりするってだけ」


 素っ気ない奏斗の返答に、女子達は「えぇ~」と期待外れ感を醸し出しながら顔を見合わせていた。


 しかし、まだ諦めきれないようだ。


「でもでもっ、いくら幼馴染みでもお互いの家によく遊びに行くって怪しいよね!」

「だよねだよね! もう私達高校生だよ!?」

「やっぱり徐々に関係が進展してきたりとかさ!」

「いやっ、私はカナシュン(奏斗&駿)派だから!」

「ちなみに姫川さんはそこんとこどう思ってるの!?」


「おい、一瞬聞き捨てならないこと言ってるやつがいた気がするんだが?」


 そんな奏斗の言葉はそっちのけで、女子達は詩葉へ注目する。


 うぅん、と困ったように、それでいてどこか恥ずかしそうに唸る詩葉。


「わ、私は……」


「「「ご、ゴクリ…………」」」


「わ、私はぁ……えへへ、だ、ダメだよカナ君そんなぁ~。えへっ、私たち幼馴染なんだからぁ~。んも~、ふふっ、フフフ……!」


「「「壊れた!?」」」


 恥ずかしさのあまり、詩葉の変なスイッチが入ってしまった。


「ほら散れ散れ。お前らの思ってることは何もないぞ」


 奏斗はしっしと手をひらひらさせて、詩葉を教室から連れ出したのだった――――



◇◆◇



「うぅ、恥ずかしかった……」


「お前が公衆の面前であんなこと言うからだろ?」


 一階の玄関まで降りてきた奏斗と詩葉。

 人込みから離れると詩葉はすぐに正気を取り戻したが、そのせいで今は羞恥に苛まれている。


「まったく……次から気を付けろよな。変な噂が立ったら――」


 ガチャッ、ひらりひらり……パサッ。


「……え?」


 奏斗の言葉が途中で止まった。

 靴箱の扉を開けると、何やら手紙らしき――というか、紛うことなき手紙が入っていたからだ。


 扉を開けた弾みで落ちてしまったので、何が何だかよくわからないままに拾い上げる。


(靴箱に手紙……ま、まさか、ラブなやつ……?)


 そう奏斗が困惑していると、


「どうしたのカナ君? って、ナニソレ?」


 傍まで寄ってきた詩葉が奏斗の手にあるモノを見て一瞬で状況を把握したらしい。


 すぐさま声色を低く硬くして、ずいっと奏斗の顔を覗き込む。


「知らん知らん! な、何か入ってたんだって……!!」


「何かってそれどう考えてもラブレターでしょ!? 何で!? どうして!?」


「俺に聞くな!」


 奏斗は距離を詰めてくる詩葉から逃れつつ、手紙が入っていると思われる封筒の裏を見る。


 すると、


“二年一組 東雲凛”


「……あ、アイツかぁあああああああああああッ!?」

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