第08話 最初の行動
「はぁ、どこの世界でも校長先生の話が長いのはお決まりなのか……」
校長――正確には学園長だが――や、生徒会長によるありがたいお言葉が印象的な入学式が終わった。
新入生らは各クラスの担任教師の指示に従って、それぞれの教室へ帰っていく。
奏斗も丁度今、一組教室に戻ってきたところ。
窓際最後列の自分の席に腰を下ろしてから、視線を少し前の方の席へ向ける。
そこに座っているのは、このGG世界の主人公――駿だ。
(さて、ここからだな。アイツには何としてでも詩葉ルートに入ってもらわないと。だがその前に……)
奏斗は視線を窓際最前列の席へと移した。
そこには、一人の少女が静かに腰を下ろしている。
同級生の女子よりもやや背が高い。
出ているところは出ていて、引っ込むべき所はしっかりと引き締まった見事なプロポーション。
だが、何より目を引くのがそのロングヘアだ。
まるで燃え上がる炎で染め上げたかのような、鮮やかな赤色をしている。
切れ長でやや吊り上がった紫炎色の瞳は、どこか勝気な印象を与える。
(
ハッピーエンド計画において、主人公である駿と詩葉をくっ付けることが最優先課題だ。
しかし、それと同じくらい駿が他のヒロインのルートに入らないようにすることも大切。
詩葉ルートが難しいとされている理由の一つ。
詩葉ルートに入るまで、他ヒロインのルートを踏まないというものがある。
僅かでも他ヒロインとの好感度を上げてしまえば、もうお終い。
(そう考えたら、詩葉って独占欲強いよな……)
奏斗の顔に苦笑いが浮かぶ。
思い返してみれば、確かに詩葉の独占欲を感じられる瞬間は今まで何度もあった。
中学のときも奏斗が他の女子と仲良さそうに――まして詩葉不在のときにしているとすぐ拗ねていた。
変なスイッチが入るときも多々あり、そうなると『私に魅力がないのが悪い』だの『カナ君が気移りするのも無理ない』だのとブツブツ呟き出すのだ。
(ただの幼馴染の俺ですらそうなのに、そんな詩葉を攻略することになる駿にはもっと……)
と、奏斗はそんなことを考えてふと寂しさを覚えてしまった。
今までは幼馴染である奏斗が最も近しい存在だった。
だから、詩葉のヤキモチなどもすべて奏斗へ向けられる感情。
(でも、ハッピーエンド計画を進めれば、そんな詩葉の感情も全部駿に行くんだよな……)
自分の大切なものを他の人に取られるような感覚。
ギュッと胸の奥を締め付けられるような思い。
しかし、奏斗はすぐにそんな感情を掻き消すようにブンブンと頭を横に振った。
(って、いかんいかん! 俺の望みは詩葉の幸せ。詩葉がハッピーエンドを迎えられるなら、それで良いんだ!)
奏斗がそんなことを考えているうちに、場面はどんどん展開されていく。
GGのシナリオでは重要キャラ以外省かれていた、クラスメイトの自己紹介を一人ずつ。
次に、委員会の決定。
その中で、茜はシナリオ通り学級委員に立候補して受理された。
ちなみに奏斗はどの委員会や部活にも入るつもりはない。
少なくとも現段階では。
ハッピーエンド計画のため、いつでも動けるようにしておきたいのだ。
(さて、今日俺がやるべきことは決まっている。取り敢えずそのときを待つか――)
◇◆◇
今日は特に授業などは行われない。
担任教師から学園に関していくつか説明されるくらい。
そんな感じで、学園生活一日目は昼前に終わった。
生徒達は好き好きに立ち上がって動き始める。
交友を深めるべく話し掛けに行く者や、部活動紹介などに興味を持つ者と様々。
賑やかになる教室を他所に、奏斗は学校指定のカバンに今日貰った書類などを仕舞い込む。
詩葉に『すまん。用事が出来たから一緒に帰れない』とスマホでメッセージを送信。
(『入学初日なのに一緒に帰れないの!?』って文句言われそうだが……許せ、詩葉。これもお前のためだ……)
奏斗は心の中で詩葉に謝っておく。
スマホを制服のポケットに突っ込み、教室の前の方へ注意を向ける。
しばらく何かを待つようにジッと見詰めていると――――
「綾瀬さ~ん。早速で悪いんだけど学級委員として、少し仕事頼まれてくれないかな~?」
「構いませんよ、先生」
来た、と奏斗は一瞬目を鋭くしてから立ち上がった。
ここがまず最初の重要ポイントとなる。
奏斗が様子を窺う先で、担任の女性教師が茜に何かの鍵を渡しながら言う。
「明日から私が担当することになる国語の教材の残りが、まだ職員室にあってね? 申し訳ないんだけど、それをこの階の空き教室まで運んでおいてくれないかな~? 私このあとちょっと別の用事があって……」
「わかりました」
「あっ、でも一人じゃ大変だよね。えぇっと、もう一人の学級委員にも……って、帰っちゃってる。どうしよう……」
教師が困ったように唸りながら、教室を見渡す。
(ここだ!)
GGではここで茜を手伝うことで好感度が稼げる。
本来ならそれは主人公である駿の役目。
しかし、ここで駿が茜の好感度を稼いでしまえば、詩葉ルートに入れなくなってしまう。
「俺、手伝いますよ」
ゆえに、奏斗が動く。
軽く手を挙げて、真っ先に教壇の方へ移動する。
「おぉ、助かるよ桐谷君~」
担任教師の感謝に、奏斗は「いえいえ」と答えておく。
表面上平然としていながらも、心の中ではしっかりガッツポーズを決めていた。
(取り敢えずこのシチュエーションでの主人公の選択肢は潰させてもらった。だが、まだ油断はできない……ルートに入る切っ掛けはまだあるし、他のヒロインもいる……)
慎重に動かねば……と、奏斗は改めて自分に言い聞かせる。
(けどまぁ、今は目の前のことに集中だ)
奏斗は担任教師の隣に立っていた茜に顔を向ける。
先程自己紹介の時間があったが、流石にそれで名前は覚えられていないだろう。
奏斗は改めて名乗ることにした。
「えっと、俺は桐谷奏斗。よろしくな」
「ええ、よろしく。私は綾瀬茜よ」
茜も改めて名乗りながら、奏斗へ真っ直ぐ視線を向けた。
不覚にも、奏斗は心臓を大きく跳ねさせてしまう。
(わぁ……今更だけど、マジで生の茜だ……めっちゃ美人……!!)
もちろん奏斗の最推しは詩葉である。
しかし、だからと言って他のヒロイン達に興味がないわけではない。
何ならどのヒロインも固有の魅力があって、全員好きだ。
当然茜もその一人であり…………
(ってか、もし詩葉と駿が結ばれるなら……例えばだけど、俺がこの茜とっていうのもアリなのか……?)
口が裂けても誰にも言えないが、GGファンとしてそう思ってしまうのも無理はなかった――――
【あとがき】
詩葉「ほら、カナ君こっち来て?」
奏斗「ん? どうかしたのか?」
詩葉「このお話を読んでくださっている皆さんに挨拶しないと、だよね?」
奏斗「あぁ、なるほど。今年は今日で最後だもんな~」
詩葉「そうそう。まだ私達の物語は始まったばかりだけど、これからもよろしくお願いしますってね」
奏斗「詩葉は律儀だなぁ~。偉い偉い」
詩葉「えへへ……カナ君に褒められちゃった」
奏斗「さ、というワケで皆さま。俺達の物語はまだ幕を開けたばかりではございますが、是非これからもお付き合いいただきますようよろしくお願いします」
詩葉「よろしくお願いしますっ!」
奏斗「んじゃ、年末お決まりのアレ、行くか」
詩葉「うんっ」
奏斗「せーのっ」
奏斗&詩葉「「良いお年を~!!」」
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