第一章~ハッピーエンド計画始動編~

第一節:いざ、学園へ!!

第07話 学園生活の幕開け!

 時は現在へと戻る。

 私立姫野ヶ丘学園高等学校、入学初日――――


「いやぁ、それにしても壮観だな」


「だよねぇ。敷地凄く広いし、校舎も綺麗……」


 正門を潜った奏斗と詩葉は、歩きながら徐々に近付いてくる立派な校舎を眺めながら感嘆する。


 とある住宅街の北側に位置する小高い丘の上。

 姫野ヶ丘学園高校はそこにある。

 長い歴史を持つ老朽化していたため、近年改修・増築工事が行われたらしい。


 新しくなった校舎の印象は、新旧混合。

 どこかレトロな風貌をした赤褐色のレンガで出来た外壁。

 だが、ガラス窓を多くして校舎内に自然光を取り入れる仕組みや、一面ガラス張りの施設がったりと近代的なデザインも窺える。


 そんな校舎に奏斗が見惚れていると、隣を歩く詩葉がふと立ち止まった。


「ん、どうした詩葉?」


「……校舎も良いけどさ……カナ君、私は?」


「え?」


 私は? とはどういうことだ?

 と、奏斗が頭上に疑問符を浮かべる。

 詩葉は不満げに頬を膨らませ、自身の格好を強調するように両手を広げて見せた。


「んもぅ、まだ私カナ君から感想貰ってないもん……!」


「……あ」


 そういうことだったか、と奏斗はそこまで言われてようやく合点がいった。

 改めて詩葉を見てみる。


 詩葉が身に纏うのは、ここ姫野ヶ丘学園高校の制服。

 ブラウンを基調とした上品な雰囲気を備えるセーラー服。

 スカートにはプリーツがあしらわれており、詩葉の膝上で揺れている。

 そして、襟元には一年生であることを示す赤色のリボン。

 まさしく奏斗が前世、GGの中でいつも見ていた詩葉の姿そのものだった。


「……どう?」


 しばらく奏斗がジッと見詰めていると、詩葉が少し不安そうに上目で聞いてきた。

 奏斗はふっと表情を綻ばせ、心からの言葉を素直に口にする。


「凄く似合ってる。変な虫が寄り付かないか心配なくらいにな」


「ふふ、可愛い……?」


「え、えと……」


 どうしてもその言葉を言って欲しそうに詩葉が尋ねてくる。

 しかし、本人に向かって直接その言葉を掛けるというのは想像以上に気恥ずかしいものだ。

 奏斗はポリポリと頬を掻いて、そっと視線を逸らしながら呟くように言った。


「か、可愛いぞ……」


「へへ、えへへ……!」


 詩葉がそれはもう嬉しそうにはにかむ。

 その表情を見れば、奏斗も言ったかいがあったと思えた。


「ほ、ほら。あそこでクラス分けが張り出されてるらしいから確認しよう」


 だが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

 奏斗は話題を変えるように学園の玄関前を指差して、そそくさと歩き出す。

 詩葉はそんな奏斗の背中を見て、可笑しそうに微笑んだ。


「ふふっ、カナ君照れてる……」


 そんな呟きを残し、すぐに奏斗を追い掛けた――――



◇◆◇



「うぅん……名前見付けるの難しいよぉ……」


 玄関前に張り出されたクラス表。

 その周りは多くの新入生でごった返していた。

 奏斗と詩葉もその集団の中へ何とか入り込み、自分がどこのクラスなのかを確認する。


「詩葉は二組だな」


 ほら、と奏斗は二組の欄に指を向ける。


「あっ、ホントだ!」


 詩葉が自分の名前を見付けて嬉しそうに笑う。

 だが、すぐに二組の中に奏斗の名前がないことに気付いた。

 あからさまに肩を落とす詩葉。


「カナ君、私達違うクラスみたい……」


「っぽいなぁ~」


「カナ君は何組?」


「うんにゃ、まだ見付けられてない」


「えっ、私の名前はすぐに見付けたのに?」


「え、あ、いやまぁ……」


 奏斗の歯切れが悪くなる。

 というのも、詩葉の組をすぐに言い当てられたのは、前世でGGをプレイしているときにそうだったからだ。

 決してクラス表から真っ先に見付けられたわけではない。


 そんな奏斗の様子を隣で見ていた詩葉。

 何かを察したように一度大きく瞳を見開く。

 頬をじんわりと赤らめ、上目遣いで奏斗に聞いた。


「も、もしかして……私が何組か、気になってた……?」


 詩葉は奏斗が口籠ってしまった原因が気恥ずかしかったからなのだと思ったようだ。

 しかし、残念ながら見当違いである。


「え、いや別に?」

(だって、最初から知ってたし……)


「えぇっ! 酷いよぉ~!」


「――あ、俺一組だ」


「んもぅ……カナ君のばか……」


 詩葉が何か文句を言っているが、今の奏斗はそれどころではなかった。


 姫野ヶ丘学園高校に入学した。

 それすなわち、ハッピーエンド計画の開始を意味する。

 計画を実行する上で、クラス分けは非常に重要だ。

 主要キャラから離れすぎていると、奏斗も動きづらい。

 だが、その心配は今この瞬間に消えた。


(当たりだな)


 一年一組。

 それは、GGの主人公が所属することになるクラス。


(いつでも主人公に接触、シナリオに干渉出来る位置につけた。これは、幸先が良い……)


 奏斗はふっと口許を緩めた。

 隣で不服そうにしている詩葉の頭に、ポンポンと手を乗せる。


「ったく、そんな顔すんなって。クラスが違ってもいつでも会えるしさ。ってか、お前の場合取り敢えずこの学園に入学出来たことを良しとしろよ……」


 ここ一年の苦労を思い出して、奏斗は苦笑い。

 姫野ヶ丘学園高校の合格レベルに達していなかった詩葉を、この一年で合格を手にするまで鍛え上げた。


(ってか、よくGGの詩葉は入学出来たな。もしかして、ストーリーで描かれてないだけで、俺みたいにコイツに勉強教えた奴がいたのかな?)


 GGのシナリオは主人公が学園に入学したところから始まる。

 ゆえに、それまでにヒロイン達がどのような生活を送ってきたかが事細かに描かれることはない。

 まして、どんな受験勉強生活を過ごしていたかなどは。


(ともあれ……)


 奏斗はようやくハッピーエンド計画のスタートラインに立てたことに安心する。

 そして、先程から自分の斜め後ろでクラス分けを確認している男子をチラリと盗み見た。


 姫野ヶ丘学園高校の男子用制服である、茶色のブレザーと灰色のズボン。

 襟元には一年生の象徴たる赤色のネクタイ。

 長身痩躯、焦げ茶色の髪をやや長めに伸ばした少年。


 奏斗の計画の最重要人物と言っても過言ではない存在。

 そう、彼こそが――――


(GGの主人公――神代こうじろ駿しゅんだな)


 今日この日から始まる。

 すべては詩葉のハッピーエンドのため。

 シナリオで保障された幸せのため。


 ハッピーエンド計画。


 奏斗の暗躍が、始まる――――

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