第06話 受験勉強とハプニング!?②
なかなか帰ろうとしない詩葉を他所に、奏斗は床に座って小説を読んでいた。
カシャ!
突然部屋に響くシャッター音。
奏斗が音のした方向へ視線を向ける。
すると、ベッドの上に座った状態の詩葉がスマホのカメラを向けてきていた。
「お、おい詩――」
――カシャ。カシャ。
「えへへ……」
合計三回のシャッター音。
詩葉は撮影した奏斗の写真を見て、どこか幸せそうな笑みを浮かべた。
奏斗が呆れたような半目を向けて言う。
「……おい。なに勝手に撮ってんだよ」
「えぇ~、良いでしょ別に?」
「良くない。ほら、さっさと消せ」
「うぅん……やだっ。えへへ……」
はぁ、と奏斗は小説をテーブルの上に置いて立ち上がる。
ベッドの上に座る詩葉の前まで行き、スマホを奪い取ろうと手を伸ばす。
しかし、それを詩葉がひょいっと躱した。
「渡しませ~ん」
「おまっ……」
奏斗はもう一度手を伸ばす。
詩葉がスマホを遠ざけて回避。
若干イラッとしてきながらも、三度奏斗が手を伸ばす。
だが、詩葉はまたもや避けた。
詩葉の顔に悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
それを見て、奏斗の胸の内に可愛いとウザいが入り混じったような感情が渦巻いた。
「ったく……あとでちゃんと消しとけよ?」
奏斗はため息混じりにそう言って背を向ける。
「えぇ~、どうしよっかなぁ~」
「――なんてな! 隙ありッ!!」
だが、それは諦めたように見せて詩葉を油断させるための罠。
すぐに振り返って不意打ちで手を伸ばす奏斗。
ようやく詩葉の持つスマホを掴むことに成功する。
しかし、ここで問題が大きく二つ。
一つは、奏斗が想定以上に勢いよく手を伸ばしてしまったこと。
もう一つは、詩葉が咄嗟に避けようとして体勢を崩したこと。
それらの要因が合わさって――――
「きゃっ……!?」
「うおわっ……!?」
ドサッ…………
奏斗が詩葉をベッドに押し倒すような構図になってしまった。
仰向けに倒れる詩葉の視線と、そこに覆い被さる奏斗の視線が至近距離で絡み合う。
ドクッ、ドクッ、ドクッ…………
一体どちらの鼓動の音か。
いや、どちらもか。
奏斗が大きく目を見開く先で、詩葉の頬が紅潮していく。
次第に耳の先まで真っ赤になる。
熱を帯びたヘーゼル色の瞳には、まるで何かを期待するような光が灯っていた。
まだ成長途中の胸の膨らみが上下するペースを見れば、いつもより詩葉の呼吸が早いこともわかる。
部屋に訪れる、妙な沈黙。
互いの呼吸の音と、微かな鼓動の音だけが静寂の中で響く。
奏斗が少し手を動かせば、詩葉の身体に触れられる。
その色付いた頬にも、形の良い桜色の唇にも、細い首筋にも。
もちろん、胸や脚にだって。
詩葉の身に付けている制服のボタンを外し、秘匿されるべき生まれたままの姿を晒す。
身体の奥底から湧いて出る欲望に従って、今ここでその穢れを知らぬ無垢な果実を
「……ね、ねぇ……カナ君……」
詩葉が甘くとろけたような表情を見せる。
ゆっくりと片手を持ち上げて、奏斗の頬に触れようとする。
奏斗の鼓動の速さが、指数関数的に上昇していった。
(こ、これ以上はヤバい――ッ!!)
奏斗は理性の蓋で一気に欲求を押し殺す。
自身に伸ばされようとしている詩葉の手から逃れるように起き上がり、ベッドの上から急いで降りた。
そして――――
「よ、よし。削除完了っと……」
何事もなかったかのように振舞いながら、詩葉から奪ったスマホを操作。
アルバムから先程取られた三枚の写真を削除した。
「はい、コレ返す」
「……」
奏斗はベッドの上に詩葉のスマホを置く。
用はもう済んだとばかりに、再び床に腰を下ろす。
テーブルの上に置いていた小説を手に取って、先程読んでいたページから読み進めていく。
ベッドの上に取り残された詩葉。
ゆっくりと上体を起こして、そんな奏斗の姿をジト目で見詰める。
頬はまだ赤らんでおり、唇は不満げに尖らされていた。
「……カナ君の意気地なし」
ほぼ吐息だけの詩葉の呟きは、誰へ届くこともなく空気に溶けた――――
◇◆◇
時刻は九時半を過ぎた。
奏斗が「流石にもう帰れ」と言うので、詩葉は渋々帰宅。
既に夕食の用意を済ませていた母から「あら、泊りじゃなかったのね」と言われ、それに返事をしながら手早くご飯を食べた。
「はぁ……私のばか……」
湯船に浸かる詩葉の呟きが、浴室の中で籠ったように響いた。
既に身体を洗い終わってから、十分はお湯の中だ。
濡れた亜麻色の髪を頭上で団子にまとめた姿。
そのため、普段髪が下ろされていて見えない耳が晒されている。
頬や耳が赤いのは、長く湯に浸かっているからという理由だけではなかった。
「んむぅ~、カナ君もばかぁ……」
ブクブクブク――と、詩葉は口許まで深く身体を沈めてから息で泡を作り出す。
(良いじゃんちょっとくらい私に触ってくれたって! 雰囲気も悪くなかったのに!)
詩葉が不満げに半目を作りながら唸る。
(そりゃ私も雰囲気に流されて勢い任せに行っちゃったけどさ……カナ君もそれに応えてくれれば良かったじゃん……!)
あのとき詩葉は自分なりに許可を出したつもりだった。
――好きにして良いよ、と。
しかし、結局奏斗は何もしなかった。
何もしてこなかった。
動揺の色を見せてはいたが、頑なに詩葉に触ろうとしなかった。
(何でだろう……)
そう考えて、詩葉が視線を下げる。
すると、まだ発展途上な自分の双丘が視界に入った。
詩葉は両手でそれを優しく包んでみる。
「むぅ……」
再び詩葉の唸り声。
大きさとしては、自分の手で包んで丁度収まるくらい。
少しばかり見栄を張っても良いなら、僅かにはみ出ている気がしないでもない。
しかし、何にせよ同級生と比較してもやや小さい――良くても平均に差し掛かっている程度。
(やっぱり、男の子って大きい方が良いのかな……)
まだ詩葉の身体は発展途上。
これ以上身長の伸びは期待できないが、胸の大きさや腰つきはまだ成長の余地が残されている。
(友達が好きな人に揉んでもらったらどうとか言ってたけど……)
好きな人……言うまでもない。
詩葉は少し前に学校で女子の友達が言っていた言葉を思い出していた。
そのせいで、無意識の内に頭の中で想像が膨らむ。
シチュエーションはこだわらない。
今日みたく部屋に二人きりのときでも良いし、切っ掛けは不明だがどちらかの家に泊まることになった日の夜とかでも良い。
いや、意外と学校の人目につかないところでというのも悪くない。
(人目はあるけどそのすぐ傍で隠れて、見付かるか見付からないかの状況の中でっていうのも……良いかも……?)
妄想の中で奏斗が甘く囁く。
それに従って、詩葉の鼓動はどうしようもなく早まっていく。
身体の芯から熱くなり、火照っていく。
気付けば下腹部辺りが切なくなっていた。
……仕方ない。
もうすぐお風呂を出るつもりだった詩葉。
でもやっぱり、あともう少しだけ延長することにした――――
【あとがき】
ここまで読んでくださりありがとうございます!
この六話で、プロローグ的な過去編は終了となります。
以降は、遂に本編!
この物語で一番やりたい、奏斗のハッピーエンド計画始動です!
奏斗がどうやって詩葉をギャルゲー主人公とくっ付けるべく暗躍するのか……是非、皆さまの目で見てやってください!
また、是非よろしければ☆☆☆評価や作品のフォロー、コメントをよろしくお願いします!
作者の励みとなりますのでっ!
ではっ!
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