第79話 王宮へ 第五部
私は退院した。
そうして、実家に戻った。
エイドリック王子の護衛は、私に付いてきて、お兄様の邸に一部屋借りて、交代制で私を護衛している。
レインからは、連絡は来ない。
連絡するなら、きっと帰ってくるような気がするが心配だ。
季節はいつの間にか秋になっている。9月の中旬だ。
ドレスは秋物になっている。
アリスさんがお見舞いがてらに、ドレスを届けてくれた。
病室がドレスだらけになり、お兄様の邸に届けてもらった。
私は妊娠6ヶ月になった。
リリーの赤ちゃんと同じ大きさなんだろう。
でも、私の赤ちゃんは生きている。
お腹の中で赤ちゃんが動く。
本当は王宮に来るように言われたのですが、サーシャやレアルタに赤ちゃんが生まれることが幸せだと知って欲しくて、実家に帰ってきている。
サーシャやレアルタは、私のお腹にしがみついて、耳を寄せている。
「動いた」「動いた」と、二人は笑顔で喜んでいる。
サーシャは誕生日が来て、16才になったそうだ。
お兄様は、もう適齢期を迎えている。
サーシャといつ結婚するのだろう?
「サーシャもお兄様と結婚したら、赤ちゃんができるのよ」
「私がお母さん?きっと無理よ」
「どうして?」
「だって、私は美しくないわ」
「この間まで私は、顔が腫れて全然美しくもなかったわ。でも、赤ちゃんはいるわ」
神妙な顔のサーシャは頬を染める。
「サーシャはお兄様を好き?」
「はい」
気持ちがいいほど、即答だった。
サーシャは誕生日を迎えて、髪を結い上げるようになった。
まだ短いが、ここに来たときより長くなってきた。
毎日、侍女が肌を磨き、髪洗いの専属のメイドに髪を綺麗に洗ってもらい。
貴族の令嬢らしく、髪を結い上げている。
貴族の令嬢の婚礼は、早くて16才からと言われている。
やっと16才になった。
16才の日から、お兄様と寝室は一緒になったらしい。
お兄様は、結ばれるには、早いと考えておいでだ。
碌な物を食べてこなかったサーシャは、まだ小さく、痩せている。
もっと成長してからでも、遅くはないと考えられている。
サーシャがお兄様の部屋で眠るようになってから、レアルタが僻んでいるそうだ。
時々、三人で眠っていると、お兄様は笑っている。
お兄様の幸せそうな顔は、とっても珍しい。
お兄様の邸で、赤ちゃんの成長を感じて、ゆったりと身体を休める。
私は20才だけれど、いろんなことが起きた歳だなと、過去を振り返る。
妊娠7ヶ月になった頃に、王家から使者が来て手紙が渡された。
私は直ぐに読む。
ダンスパーティーが行われるようだ。
お兄様は、サーシャとレアルタを連れて、パーティーに着るいろんな物を買いに出かけた。
私は留守番だ。
レインがいれば、合同でする予定だったパーティーだけれど、エイドリック王子は決断をされたのだろう。
ヴィオレ王女との婚約パーティーが開かれるようだ。
時間をおいて、国王陛下から王宮に戻ってきて欲しいと手紙が来た。
一日に2通も?
普通、1度に届けるだろうと、不思議に思う。
読んでいくと、どうやら私だけ除け者にされている状態はよくないと考えたと書かれていた。
レインが戻って来たら、姉妹国としての調印式がある。
その時に、私とヴィオレ王女と仲良くなっていて欲しいと書かれていた。
内容は王妃様からの手紙のようだけれど、差出人は国王陛下になっている。
文末に王妃様からのサインがない。
国王陛下のサインもない。
王妃様、お加減が悪くて、サインを忘れたのでしょうか?
せっかくお兄様とも仲良くなれて、サーシャとレアルタとも仲良くなれたのに、一人で王宮に戻るのは嫌だわ。
レインもいないのに。
私はひとりぼっちになってしまう。
使者に「帰りたくない」と言うと、別の手紙を渡された。
それを読んでいくと、盗賊の首謀者がリリーのことを話したと書かれていた。
たった一行の文章が、私の心をかき乱す。
なんと言ったの?
リリーの最後の言葉は何だったの?
「すぐ準備をするわ」
国王陛下は意地悪だ。
この言葉を使えば、私の精神が乱れることを承知で書いたのだ。
「マリア、王宮に戻ります」
ゆっくり寛いでいた、私の侍女達は、「承知しました」と言い、静かに旅立ちの準備を始める。
私はお兄様に簡単な手紙を書き、この邸の執事に手紙を預ける。
部屋着のドレスから、畏まったドレスに着替える。
少しお腹が膨らんできたので、妊婦用のドレスに着替えている。
レインはどうしているだろうと、少し曇った空を見上げる。
確かに、レインの情報を一番始めに知るには、王宮にいた方がいいわね。
私は少し緊張しながら、荷造りをする。
直ぐマリアとシュロが来て、手伝いをしてくれる。
王家の使者は、私を連れて行くまでが仕事のようで、立って待っている。
準備はお昼前に整って、馬車に乗った。
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