第78話 斬首(レイン視点)
残酷なシーンがあります
…………………………
緊張で、手が震える。
「どうした?罪人の首を落とすのが怖いのか?」
「いいえ?どの辺りがよいか、考えておりました」
やるしかない。
「ビストリ、最後に言っておきたいことはあるか?」
「さっさと殺せ!」
俺は重く太い剣を、持ち上げて、首をめがけて落とす。
斬ると言うより、剣が落ちていくのだ。
辺りに血しぶきが広がり、首がコロンと転がった。
「よくやった!もう一体あるぞ、ほれ、殺せ!」と国王陛下は俺に言う。
オルフィックは、もう俺の近衛騎士に押さえつけられていた。
「嫌だ、死にたくない、まだやりたいことがたくさんあるんだ」とオルフィックは、叫んでいる。
死にたくないと言うだけあって、首は動く。
「其方が選んだ道であるぞ。悪に手を染めれば、罰を受けなくてはならない」
「ちゃんとやる。今度は間違ったりしない」
「生まれ変わったら、今度は間違った道を選ぶな」
「いやだ、いやだ」
俺は重い剣を持ち上げて、首をめがけて落とす。
ガツンと手に衝撃が来た。
剣は後頭部に落ちた。
「ああああ!」
せめて意識がなければよかったのに、俺は剣を抜いた。
ダラダラと血が流れている。
もう一度、今度こそは首をめがけて、剣を落とす。
心を空っぽにして、剣を見れば、首がコロンと転がった。
終わった。
人を殺すことには、慣れない。
剣に付いた血を、懐から出した薄手のタオルで拭って、目の前にいるブリッサ王国の国王陛下に差し出した。
「大切な剣を貸していただき、ありがとうございます」
「初めてか?」
「初めてでございます」
「よくやった」
「ありがとうございます」
剣は、近衛騎士が持って行った。
「では、街に晒しに行こうではないか」
ブリッサ王国の国王陛下は、目の前にあるビストリの髪を掴んだ。
俺は残っているオルフィックの髪を掴んだ。
頭は思ったより重い。
以前にエリザベス王女と歩いた道を通って、城下町に下りていく。
エリザベス王女とは違って、歩く速度は速い。
数刻で、人が多い道に出た。
人は好奇心に、寄ってくる。
そこに国王陛下の姿を見ると、皆が跪く。
民は国王陛下を崇拝しているのだ。
俺はニクス王国でも見たことのない姿に、目を奪われる。
これこそが、民からの信頼ではないか?
国王陛下は、平らな板の上に首を乗せた。
俺も、その隣に首を乗せた。
「この者は、昨日、ブリッサ王国の民を虐殺した者だ。見せしめに、ここに置く。石を投げても唾を吐きかけてもよかろう。朽ちるまで置いておく」
民は、拍手をしている。
俺にはできない。
だが、民は喜ぶのか?
国王陛下は、来た道を戻っていく。
「行くぞ」
「はい」
振り向いて晒し首を見れば、石を投げられていた。
国柄であるのか?
「レイン辺境伯、エリザベスが家出をしたときは、どんな気分だった?」
「父親とは、難しいと考えました」
「エリザベスは、私のこの行為を嫌っていた。罰を与えるのは理解できるが、わざわざ晒す必要があるのかと、よく喧嘩をした」
「その後、エリザベス王女から連絡は来ましたか?」
「いいや」
「エリザベス王女は、この国に暮らしたかったと言っておりました。だが、父が伴侶を嫌って、きっと無理だからと言っておりました」
「平民になる男の元に、嫁にやるわけにはいかない。そうは思わないか?」
「私は子ができました。娘ならたぶん、国王陛下のように反対すると思います」
「子ができたか?」
「今はニクス王国の病院に入院しております」
「それでニクス王国に戻っていたのか?」
「はい。ニクス王国では、麻薬や人身売買が蔓延しており、手伝っておりました。妻の妹が殺され、犯人を捜しておりました。妻は心を傷めておりました。妊娠していることを秘密にして、危険な賭博へと足を運び、主犯者を探し出しました。たくさん殴られて、苦しんでおりましたが、先ほど首を落としたビストリも仲間だと分かり、妻に辺境区に戻るように言われたのでございます。つわりが酷く、殴られた顔も痛むのに、民のことを心配しておりました。妻と辺境区で暮らせるように、辺境区を守るのが、俺の仕事です」
「一人で寂しいな?」
「はい。ですが俺には仲間がおります。泣き言を言っていたら、妻に告げ口をされてしまいます」
「そうか」と国王陛下は笑った。
「子が動けるようになったら、是非見せてくれ」
「はい」と俺は返事をした。
国王陛下は、優しい顔をしていた。
「国王陛下、エリザベス王女の手紙に行き先は書かれておりましたか?」
「いや」
「エリザベス王女は、メイティ歌劇団に紛れております。到着地はフラッオーネ帝国でございます。メイティ歌劇団の団長は、皇帝陛下の姻戚だそうです。公爵家のお嬢様ですが、髪を男のように剃っておりました。フラッオーネ帝国の皇帝陛下に手紙を書けば、居場所は分かるかもしれません」
俺は一礼した。
「また、遠くに行くのだな?」
「所々で、興業をして目指すので、時間はかかると思います」
「教えてくれて、感謝をする。皇帝陛下に手紙を書いてみる」
「それがいいと思います」
その日は、夕食をいただき、一泊して戻って来た。
辺境区に戻ると、心配していた騎士達が俺達を囲む。
俺は、ひれ伏されなくても、こうして心配してくれる騎士達や民がいる方が好きだ
と思った。
病院にお見舞いに行き、怪我人を励ます。
ニナなら、そうすると思って考えながら動いている。
俺も頑張るから、ニナも頑張れ。
辺境区はもう寒くなってきている。
子を産むなら、中央都市の方が安全だろう。
立ち会えないが、ニナの安全を考えるならば、呼び寄せては危険だ。
俺はここで待つ。
待つではなく。まだやることがある。
学校と寄宿舎を4月までに造らなければならない。
孤児院の子が学べる、小学校も必要だ。
それと、孤児院も造りたい。
やることは山のようにある。
俺は病院を造っている監督に相談をすることにした。
病院の工事は、機材が搬入されているところだった。
監督が立ち会っていた。
「相談したいことがある」
「今度は何を造るのだ?」
「13才から入れる寄宿舎付きの学校と、それより小さな子が通える学校と、孤児院を予定している」
「忙しくなるな?」
「ああ」
「図面を引いてみる。暫く待ってくれ」
「頼む」
この監督は、自分で図面を引いて、完成物を作ってしまうほど器用なのだ。
「4月入学でできるか?」
「これから寒くなるが、民も仕事があれば収入もある。最初は寄宿舎付きの学校だな」
「ああ、そうだ」
「できると思うぞ」
「頼む」
「任せておけ」
「目処が付いたら、ニクス王国の国王陛下に連絡しておく」
「メラメラと創造力が湧き上がる」
俺は笑った。
この男、構造物を作るのが得意なのだ。
「あと、教会も綺麗に作り直してくれ。底が抜けそうだ。神父も探す」
「神父が住める邸も必要だな」
「ああ、辺境区の民が皆、入れるほどの大きさがいいかもしれないな」
「了解した」
春まで、忙しくなりそうだ。
「学校は、上位学部もいずれ作る予定だ。専門学部も作りたい」
「そうしたら、建築学部を作ってくれ、俺が講師になる」
「それはいいな」
「何処に建てるか、地図を見て、計画を立てよう。搬入が終わったら、宮殿に向かう」
「では、俺は宮殿で待っている」
「おう」
邪魔になるので、俺達は一度、宮殿に戻っていく。
仲間達の笑顔も輝いている。
今年の冬は、忙しくなりそうだ。
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