第77話 ビストリ(レイン視点)
さて、どうするか?
先ず謝罪が先であろう。
レイニア草の価格を元の値段に戻して、話し合いをしよう。
倍で売りつけたレイニア草は、当然、買わなかったと思われる。
レイニア草を用意させた。
王妃の薬だ。
決まった時期に持って行かなければ、王妃が倒れる。
反逆者をブリッサ王国の国王陛下に引き渡してもいい。
ビストリとオルフィックを縄で縛って、馬の後ろに縛り付けた。
乗りづらいし危険だが、俺の近衛騎士の二人が、その任務を引き受けてくれた。
中央都市から到着したばかりだが、1日置くだけで、事態は悪化していく。
ブリッサ王国まで、数時間で行ける。それなら、その日のうちに訪問して謝罪をしたいと考えた。
馬で、ブリッサ王国を駆けていく。
俺達の姿を見たブリッサ王国の民は、逃げていく。
俺は縛られたビストリと並んで走った。
「サンシャインという男を知っているか?」
「兄さんの名前をどうして知っているんだ?」
「ビストリは知らないだろうが、サンシャインは俺の腹違いの弟だ」
「兄さんは、そんなこと言っていなかった」
「サンシャインは、辺境区を奪うつもりだったのか?」
「知るか?」
「サンシャインは王家の騎士に捕らわれ、薄汚れた牢屋に入れられている」
「嘘だ!兄さんは誰よりも強かった」
ビストリは馬に縛られたまま叫んだ。
「毎日、取り調べが行われている」
「兄さんは頑固で強い、取り調べで口を割ったりしない」
「そうだな。だが、他の仲間も捕らえた。そこから何か出てくるかもしれないな。いずれ全員処刑されるであろう」
「処刑だと?」
ビストリは目を大きく開いた。
「ビストリが一人で頑張っても、何も替えられない」
「嘘だ!嘘に決まっている!」
「事実だ」
「ビストリが洗脳していた少女は、既に保護されて、今は幸せに暮らしている。弟のレアルタも一緒に保護されて、安全に暮らしている」
「サーシャは俺の婚約者だ」
「その約束は、正式な物なのか?」
「サーシャと約束した」
「幼い子供との口約束は、どこまで正確な情報か?誰も信じないだろうな」
ビストリは、俺を睨んだ。
本心で、結婚するつもりだったのか?
まさか、本心で好きだったのか?
「あんな醜い女なんて、どうでもいい」
ぷいっとそっぽを向いた。
幼い頃に恋をしたのかもしれないと、俺は思った。
「辺境区は、中央都市からずいぶん離れているから、情報がなかなか届かない。小さなお仲間は、何処まで情報を届けてくれたのかな?」
俺は敢えて、オルフィックを煽った。
「小さいって言うな!」とオルフィックは叫んだ。
「せっかく、騎士団に入団できたのに、裏切ったら、二度と騎士団には入れないことは知っているだろう」
「知っているよ、でも、俺は不要だと言われているんだ。何をしても、遅いって。高い位置の物は取れない。皆が笑うんだ」
「そんなことで、努力を止めて、悪事を働く者と手を組んだのか?情けない。小柄な騎士も使い道があるんだよ。狭い場所に入ったり、こそっと暗闇を動く事ができる。オルフィックの仲間は、もっと頑張れと背中を押していたのではないか?」
「そんなこと・・・」
オルフィックは口を閉じた。
きっと心当たりはあるはずだ。
「俺は間違ったのか?」
「オルフィック、そいつの言葉を聞くな。オルフィックの仲間は、俺だ」とビストリは言った。
「わぁぁぁぁ!」と、オルフィックは叫んでいる。
きっと、後悔しているのだろう。
馬鹿な男だ。
「ビストリ、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「ニナを襲ったのは、おまえの指示か?」
「今頃、気づいたのか?ぼんくら!死ななくて残念だったな」
「殺す!」
「決闘か?受けて立つが、こんなに縛られていたら、決闘もできやしない」
「ビストリは、ブリッサ王国への献上品だ。とても残念だがな」
国王陛下は、激怒しているはずだ。
目の前で殺すか、国王陛下が自ら手を下すかは、悔しいが俺には決められない。
城下町に近づいてきて、馬に縛っていた二人を、馬から下ろした。
そうして、馬で走り出した。
「くっ!」
二人とも、馬に引かれて、地面を転がっている。
これくらいの見せしめで許されるとは思っていない。
だが、真っ新な傷もない状態では、俺は甘いと舐められる。
王宮に到着すると、門の前に国王陛下が大勢の騎士を従えて立っていた。
俺は馬から降りると、国王陛下にお辞儀をした。
「この度は、俺の部下が裏切りを起こしたことを、詫びに来た。レイニア草の価格は通常通りで構いません。今回は多めに持ってきました。お納めください」
俺の近衛騎士が、箱に入れてある薬草を国王陛下の近衛騎士に手渡した。
「妻の為の薬だ。薬草の賃金は、今回は払わない。その転がっている者は、我が国の騎士や民を無差別に殺したのだ。馬で転がしてきても、生ぬるい。我が国と其方の国は、友好国になり平和条約を結んだはずではないか?」
「私はちょうど、首都に用があり、辺境区におりませんでした。帰国すると、この者は私に忠誠心のある者に剣を向けておりました。私の妻に、ならず者を使い、殺そうとしたことが分かったところでした。憎しみとお詫びに、この者の首を差し出したいと思いますが、それで許していただけますか?」
「よかろう、二人の首を街に晒して、民への謝罪とするがよい」
俺はアルクの顔をチラッと見た。
アルクは頷いた。
俺は正しい。
アルクと俺の近衛が、身動きもできないほどしっかり縛ってあるビストリとオルフィックの縄をナイフで切る。道を転がされてきた二人は、全身傷だらけになり、その痛みに身動きもできないようだ。
アルクがビストリの首を出した状態で、身体を固定した。
俺は剣を抜いた。
剣を構えると、
「其方の剣では、首は落とせまい。首落としの剣を貸してやろう」と、国王陛下が言った。
ブリッサ王国の国王陛下の近衛騎士が、重く鋭い剣を持ってきて、俺に手渡した。
ずしりと重く、刃は青白く光っている。
この剣は幾人の罪人の首を落としてきた剣であろう。
国王陛下は俺が逃げ出すかどうか、確かめている。
ここで逃げ出したら、俺は一生、この国王陛下の言いなりになってしまう。
俺は今まで、人の首を落としたことはない。
いつも部下が、してくれた事だった。
できるのか?
俺にできるのか?
失敗すれば、痛みを与えるだけである。
そして、失敗すれば、ブリッサ王国の国王陛下の信頼も失う。
鼓動が激しくなる。
手が震える。
一度で、首を切り落とさなければならない。
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