第76話 辺境区(レイン視点)
覚悟を持って、辺境区に到着した。
途中の宿場町で、連絡を届けてくれた騎士と合流した。
使者はニクス王国の国王陛下からの手紙を届けてくれた。
捕らわれている者は、まだ口を割らないらしい。
サンシャインは食事も食べないという。
ニナはまだ入院しているという。病室をエイドリックの騎士が、代わる代わる護衛をしてくれているそうだ。
取り敢えず、ニナが元気ならば、俺はできる事をするだけだ。
宮殿が壊されているか、砦が壊されているかもしれないと思っていたが、見た目の変化はないように見えた。いや、人がいない。
畑には人が一人もいない。
子供達が、何処にも遊んではいない。
村の家は扉が閉まっている。
まるで、何かを警戒しているようだ。
戦の時のような様相だ。
何かがあるはずだ。
家と家の隙間から人が出てきた。
騎士服を着ているので、騎士であろう。
俺は、停止のサインを出して、馬を止めた。それから、俺はフラフラと倒れそうな騎士を捕まえた。
「何があったのだ?」
「レイン辺境伯、やっとお帰りになった。この地はビストリ様が王になられた。逆らった者は、処罰されている」
顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
騎士の姿をよく見ると、騎士服が血に染まっていた。
「ビストリ様はレイニア草を二倍の価格にしました。昨日、怒ったブリッサ王国が攻め入りってきました。騎士は戦わずに捕らえようとしましたが、ビストリ様は捕らえた騎士を、片っ端から殺して行ったのです。誰もビストリ様を止めることができなかった」
騎士はそこまで言うと、力尽きたように倒れた。
「この者を病院に連れて行ってくれ」
「承知しました」
騎士が二人、近づき、倒れた男を担ぎ、馬に載せて運んでいった。
どうやら、ビストリが規律を破ったようだ。
ビストリはハルマより無口だった。その表情から、感情を読み取ることが難しく、ハルマの付属品のような男だった。
宮殿の中に入って行こうと歩き出した時に、アルクに腕を掴まれた。
「血のにおいがする。先に歩くな」
俺の近衛騎士達が前に出た。
「何でも一人でしようとしないでください」と、長い付き合いの友人である近衛騎士が言った。
俺の近衛騎士は、エイドリックとも仲がよく、一緒に学校に通って、互いに夢を持ち、俺の夢に共感してくれた友だ。
剣術も勉強も共に学んできた者達だ。
俺は友達を危険に晒したくはないが、その気持ちは近衛騎士に選ばれた彼らを傷つけていることも知っている。
「頼む」と友人である近衛騎士達に声を掛ける。
「承知」と返事が返ってくる。
宮殿の前庭は、血で染まっていた。
そこに立っているのは、ビストリだった。そして、騎士が一人、凜として立っている。
「おまえも、俺が王になるのが反対なのか?」
「王は、レイン辺境伯です」
「おまえも死ね」
ビストリは躊躇いも見せずに剣で、斬り付ける。
その男は腹を押さえた。続けて剣を斜めに斬り付けられる。
男は、とうとうその場に膝を突いた。
「何をしているビストリ」
俺は耐えられずに、大声を出した。
俺に忠誠心を持った者を、次々に斬り付けているようだ。
「もっと遅くに帰ってくればよかったのに、そうしたら、この辺境区はまた争いが始まる。日々、人が死に、条約も破棄されるであろう」
ビストリは、声を上げて笑っている。
「ビストリは同志ではなかったのか?」
「同士?誰と?俺はおまえが嫌いだった。ブルーリングス王国の建立?一度滅びた国を立て直したって、こんな辺境に誰が来るんだ?」
「この地は療養所を作った。ニクス王国の長期療養者を連れてくるつもりだった。先に見に来て正解だったな。ビストリが反乱を起こしているから、信頼を裏切るところだった」
「信頼だと?」
ビストリは無差別に剣を振るう。
「俺が洗脳させていたサーシャを奪ったらしいな?まだ子供なのに、もう結婚させるのか?ああ、そういえば、もうすぐ、誕生日が来て16才になるんだったな?」
中央都市の情報を知っていると言うことは、仲間がいると言うことだ。
仲間は誰だ?
ビストリの周りをよく見ると、小柄な男が捕らえている騎士に剣を向けている。
その顔に見覚えがある。
中央都市の騎士だ。
騎士団の中で、子供の様な姿が目立っていた。
名前は、確かオルフィックだったか?
学校時代に、武術大会に出ていた。
身長が低いので、印象に残っていた。
王家の騎士団希望を出していたが、あまりに小柄で、試験に落ちたのを覚えている。その先は、中央都市の騎士団に入団できたのだろう。
オルフィックはブルーリングス王国の血族ではないはずだ。
俺は国王陛下が集めたブルーリングス王国の血族の名前は、目を通している。
ニナの名前の後には、父親が隠蔽していると書かれていた。
リックを王にするために隠された姫であったのだ。
ビストリの仲間は、オルフィックだけだろうか?
「ビストリとオルフィックを捕らえよ」
「承知」
俺の近衛騎士達は俺を囲む。連れてきた騎士が前に出て、ビストリとオルフィックを手早く拘束できた。
縄を巻かれた二人は、血に染まった前庭に押さえつけられた。
前庭には、動けなくなった騎士服の漢達が何人も倒れている。
今まで、捕縛されていた騎士達は開放されて、倒れている騎士を病院に運ぶ者と俺の周りに寄ってくる者に別れた。
「レイン辺境伯、戦が始まりました」
「ブリッサ王国の国王陛下が激怒されていました」
「ビストリ様がレイニア草の納期に行かれたときに、値段を倍にしたようです」
「ブリッサ王国で、民に剣を向けて、無差別に殺しました。その数は、数人ではありません」
俺は報告を聞くと、頭が痛くなってくる。
やっと平和条約を結んだというのに、めちゃくちゃにしたのだ。
「ビストリ以外に、民を斬った者はいたか?」
「そこの小さいのが」と捕らえられた騎士達は言う。
「皆の者、長い時間留守にしてすまなかった。これから、ブリッサ王国と友好関係を結び直す努力をしようと思う。傷を受けていなくて持ち場がある者は、持ち場に戻って欲しい。砦の監視をしっかりして欲しい」
「承知しました」
捕らわれていた者は、自分の持ち場に戻っていく。
怪我人は、全て病院に連れて行ってもらった。
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