第70話 葬儀


「ニナは、ここにいるのか?」とお兄様に聞いているのは、私の夫です。


 お兄様はレインを邸に入れた。


「お久しぶりです」と私はお辞儀をした。


 私に着る物がなくても、リリーの洋服があるので、着替えに困ったことはない。


「家出か、何も言わずに、何処をほっつき歩いているんだ?」


「今日はリリーを埋葬するのです。静かにお別れさせてください」



 リリーが死んだ事を、どうやら忘れていたようです。



「リリーを嫌っていたではないか?」


「私はリリーに助けてもらっていたことに気づいて、リリーともお兄様とも和解をしておりました。一緒にいたのに、忘れてしまったのですね」


「そう、言われれば、そんなこともあったな」


「とにかく、今日はリリーを埋葬してあげたいので、私はもどりません」


「それなら、俺も一緒にいよう。着替えてくる」と言って、宮殿に戻って行かれました。


 本当は隣にいなくても、いいのですけれど。


 私はリリーと一緒に埋葬してあげたい物を作っています。


 シェフもリリーの好物だった、ケーキを作っています。お弁当も入れてあげたいので、サンドイッチもシェフと作っております。


 サーシャとレアルタが興味深そうに見ているので、二人に一欠片ずつ渡しました。



「食べてもいいの?」とレアルタが聞いています。


「どうぞ、これはリリーの好物だったのよ」



 パクリと食べて「美味しい」と言っている。



「僕も好物になったよ」


「今度はレアルタのために作ってあげますね」


「ありがとうございます。ニナお姉様」



 サーシャは少しずつ食べています。



「もう、食べることができないのですね」と言って、涙を流しています。


「そうよ」と言ったら、涙を拭いながら、食べています。


 今日は両親が戻ってきます。


 来なくてもいいと伝えておいたそうですが、行きますと返事が来たという。



「また罵詈雑言を言ったら、その時点で追い返すとお兄様が言っていたので、私は落ち着いていられるのです。


 リリーの黒い喪服は、辺境区に私の生死を確かめるために着てきた物です。あの時の骨壺は、机に置かれていて、キャンディーが入れられていました。


 ねえ、リリー、どうして一人でこんな危険なことをしていたの?


 リリーは刑務官ではなかったわよね?


 騎士団にも入ってなかったのよ?


 私はリリーの机に座って、一緒に持って行ける物を探している。


 正義の味方は死なないはずなのに、どうして死んでしまったの?


 机の上に、写真立てがありました。


 笑顔のリリーの隣には、笑顔の女の子がいました。


 学校の制服を着ている。入学したてのようです。


 制服の胸に入学を祝う赤い花が飾られています。


 クラスメイトかしら?


 リリーが死んでしまったことを教えてあげた方がいいかしら?


 私は写真立てを手に取りました。


 その写真立ては、ずいぶん分厚くて、私は留め金を緩めて、中に隠している物を出しました。


「これは」


 私は目を疑いました。


 リリーの手紙が入っていました。


 読んでいくと、リリーの秘密が書かれていました。


 リリーと友達、エミリさんは盗賊に捕まり、レイプされたそうです。地図が書かれています。中央通りより奥まった商業地区ではなく、工業地区の一つに○が書かれています。


 絶対に許さないと、何度も書かれています。入学式の真新しい制服は破かれ、エミリさんは、ショックで自殺をしてしまったそうです。


 襲われたのはリリーも同じでしたけれど、エミリさんの葬式に行くと、エミリさんの両親は、リリーと友達だったから、事件に遭い、エミリさんが死んだと言われ、最後のお別れもできなかったと、悲しみに暮れた文字が書かれていました。


 エミリの代わりに生きて、エミリの敵を取ると書かれていました。


 そんな昔から、調査をしていたなんて知りませんでした。


 手紙には、幾つも悔しい、苦しい、寂しい、悲しいと言った文字が書かれていました。



 リリーが悪いわけでもないのに、責め立てられて、責任を取れと言われて辛かったと、書いてあった。


 リリーが入学式の日のことを思い出す。


 確かに制服が破れていた。


 でも、リリーは笑っていた。


 辛いことを笑みに替えて、戦おうと決心した日であったに違いない。


 私はそんなリリーの笑みを見て、嫉妬をしていた。情けない姉だ。


 リリーごめんね。



「どうだ?」とお兄様が部屋に入ってきました。


「お兄様、リリーの手紙です」と、私はお兄様に見せてしまったけれど、見せてよかったのでしょうか?


 私は引き出しの中も見ていきます。


 クレーンゲームのオモチャのような物が出てきました。エミリさんと写した写真もありました。


 この引き出しの中は、リリーとエミリさんの聖地のようです。


 リリーはずっと幼い頃から戦士だったのです。


 私はお兄様と相談して、リリーとエミリさんの聖地をそのままにしました。


 まだ、リリーの敵討ちは終わっていません。


 敵を取ってから、エミリさんの両親に会って、リリーに謝罪してもらいます。


 お昼頃、レインが来て、その直後に両親がやって来ました。



「どうして、リリーが死んでしまったの?」とお母様が泣いておられる。



 お兄様が、リリーの事件のあらましを両親に話しています。



「盗賊を何故、捕まえないのだ」と両親はレインに詰め寄る。


 レインは「すみません」と謝罪をしていた。



 レインは、来たことを後悔しているように見えた。


 でも、レインは指導者でしょう?国民の悲しみを見るべきだわ。


 リリーを棺に入れて、お花で飾って、お弁当やお菓子を入れてあげる。


 骨壺に入っていたキャンディーも全部食べてね。


 両親は、今日は騒いだりしなかった。


 教会で牧師が、リリーに語っているけれど、リリーのことだから、欠伸をしているかもしれないわね。


 でも、リリーが死んで、悲しんでいる人は多くいるのよ。


 リリーから勝手にバトンを受け継ぐわ。


 弱虫の私に何処までできるか分からないけれど、犯人を捕まえるわ。


 墓守が、リリーの棺を埋めていく。


 リリーの葬儀が終わったら、お兄様は両親に帰ってくれと、邸に入れることもせずに追い返した。



「ニナ、そろそろ戻って来い」


「まだすることがあるの。でも、ちょっとだけ話をしましょう」



 私はレインをリリーの部屋に上げた。



「私、変装をして、リリーを殺した盗賊と会うことができたの。頭は誰だと思う?」


「そんな危険な事を」


「危険な事をしないと捕まえられないのよ。昨日は13才の女の子が売られるところを見たわ。競売って、人権はないわ」



 私の隣にお兄様が座った。



「昨日は俺も見てきた。レイン、頭はクローネだ。二番頭はハルマだ。ひょっとしたら、ビストリも頭になっているかもしれない」


「そんな?」


「俺は妹を殺されたのだ。妹は学校に入った日に、おそらくハルマ達にレイプを受けた」とお兄様は、リリーの手紙を見せた。


 レインはその手紙を読んでいる。


 レインは近衛騎士の一人を呼んだ。


「エイドリックを連れてきてくれ」と言った。


「リリーとハルマは顔見知りだったのだな?」


「おそらく」


「中央都市に戻る途中に、俺達と別れたのは、リリーが脅迫した可能性がある。リリーは妊娠していた。6ヶ月になる男の子だった。白銀にブルーアイを持っていた。相手は、ブルーリングス王国の血筋の可能性が高い」


「相手は誰だ?」


「おそらくクローネの可能性が高い」


「リリーは身体を売っても、敵を取りたいと思っていたのよ。私は見た目だけで、不潔な女だと思っていた事を恥じているの。敵陣に入らなくては、得られない情報があるんだわ。私は、ほんの少し、敵陣に入っただけで、とても苦しいのに、リリーは13才から重い荷物を一人で背負ってきたのよ」



 その後、直ぐにエイドリック王子がやって来た。


 そうして、私が見てきた物の全てを話した。


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