第66話 戦士(1)
私に帰る場所はない。
実家に戻れば、今、少しずつ生活に慣れているサーシャの教育によくない。
王宮に戻っても、私を心配している人もいなくなった。
レインは、私をもう愛していないように思える。
以前に比べて、レインの温もりを感じられない。
以前なら、私がどこにいても探し出してくれたのに、今は赤い糸がどこかで、切れてしまったのね。
私は自分の手を見る。
指先には瞳と同じ色の宝石がある。
糸はどの指に繋がっていたのだろう。
一般的に物語に出てくる赤い糸のお話は、左の小指に結ばれているという。
約束するときに、小指を絡める。
小指を絡めたときに、糸が紡がれる。
縦に横に編まれていて、そうして、愛の結晶の赤ちゃんを受け止める布になるのだ。
私の赤い糸はささくれて、今にも切れそうだ。
しかも、もう片方の糸はもっとささくれている。
脆くささくれた糸で紡がれた布で、赤ちゃんを包む布は、編み上がらない。
私は髪を隠していたストールを外した。
髪留めに、引っかかったストールから糸が出てしまった。
まるで、私の指の糸が出てきてしまったようだ。
公園のベンチに座り、ストールを畳んで、鞄に片付ける。
空を見上げれば、思ったほど星が出ていなかった。辺境区の夜空は綺麗だったと、今更思った。
長い私の髪が、夜空の中で光を放つ。
とても綺麗な色ね。
私は髪を隠すのを止めた。
鞄の中にナイフが一つ入っている。
自衛と看護師の緊急時に使う物だ。
私は、このナイフで人を斬った事がある。
背中に刀傷を受けたときに、盗賊と戦った。
リリーも戦ったのね。
赤ちゃんは誰との子だったのだろう。
きちんと愛し合ったのだろうか?
それとも、襲われたのだろうか?
リリーには秘密が多いのだ。
私は自分の下腹部に触れる。ここにいるのかしら?
身体の異変は感じている。
ごめんねと下腹部を撫でる。
私は盗賊を許せない。
大切なリリーは、昏睡状態で目を覚まさないかもしれないと言われた。
リリーは私の王子様だった。
人付き合いの苦手な、わたしの元にレインを連れてきてくれた。
お兄様も、ブルーリングス王国の再建の為に、私とレインが結ばれるのが一番だと言われた。
でも、レインとは、何日、会っていないだろう。
お話もずっとしていない。
ヴィオレ王女は、そんなに魅力的だったのね。
私を想ってくれない人は、もういらない。
貴方にあげるわ。
残暑が残る夏の終わりに、涼しい風が吹いた。
私を誘拐しなさい。
殺してもいいわ。でも、私が死ぬときは、貴方も連れて行くわ。
リリーの敵よ。
容赦はしない。
私はベンチから立ち上がった。
長い髪が、風に揺れる。
私は姫ではなく、今から戦士になる。
早くかかってきなさい。
私は白銀の髪をたなびかせ、公園の広場を歩く。
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