第31話 ニナ嬢捜索


「ハルマ、馬車は王都まででいいな?」


「ああ、俺の実家に頼む。サーシャもいるから女同士話し合えることもあるかもしれない」


「だといいが、ニナ嬢は、結婚指輪も失い、ウエディングドレスの代わりのワンピースも汚れてしまったのだろう。心の傷は大きいはずだ」


「手紙を書いた。それを御者に預ける」



 俺は馬車の御者に手紙を預けた。



「父上に渡して欲しい」


「畏まりました」



 御者は騎士団の騎士だ。


 俺とビストリは馬に跨がった。

 

 先に探し出す必要がある。


 馬車も走り出したが、夜道である事もあるが、馬車は馬よりも遅い。



「雨が降りそうな嫌な夜空だ」


「先ほどより、雲が厚くなっているな?」


「早めに探せたらいいのだが」



 俺は雲に隠された月を見上げた。



 +



「きゃ、助けてください。お金は持っていません」


 私は鞄を抱えて、走った。


 夜道を歩いていたら、突然、大勢の男達が姿を現した。


 盗賊だと思う。


 私はポケットに入っているナイフを握った。


 迫り来る男に、ナイフを横に振る。



「うわぁ、こいつ、ナイフを持っているぞ」


「押し倒せ」


「いや」



 私はナイフを振り回す。


 男に鞄をぶつけて、逃げる。


 背中に、焼けるような痛みが襲って来た。


 手に持っていた鞄を落として、地面に手を突いた。


 このまま襲われるならば、自害しよう。


 私はブルーリングス王国の王女だ。


 男は鞭も使っている。


 肌を鞭が焼く。


 悲鳴が出そうなほど痛い。


 剣を持つ者、ナイフを持つ者、まだたくさんいる。


 私の周りに盗賊がいる。


 完全に囲まれてしまった。


 必死に逃げる私の腕を掴むと、ぐっと引かれた。


 バランスを崩して倒れていくと、男が私を跨いだ。


 襲われる。


 ナイフで、男の顔を切ったら、思いっきり殴られて、意識が途切れる。


 遠くで私の名を呼ぶ声を聞いたような気がした。



 +



「その卑しい手を離せ」


「威勢のいい若造だ」



 俺は相棒と剣を抜き、盗賊と戦った。


 ニナ嬢は地面に倒れている。


 意識はないようだ。


 俺はビストリと戦った。だが、盗賊は俺達の勢いに、負傷者を置き去りにして逃げていった。



「ニナ嬢」


「怪我は?」


「暗くて見えない」



 このまま首都まで連れて行くつもりでいたが、怪我の具合が分からない。



「ニナ嬢の荷物を探してくれ」


「ああ」



 馬車がやって来た。



「どうです?」



 騎士が降りてきて、顔を覗き込んできた。



「病院に連れて行ってくれ」



 俺はニナ嬢を抱き上げて、馬車に乗った。

 ビストリが旅行鞄を持ってきた。



「たぶん、これだけだと思うが、朝が来たら、確かめてみよう」


「病院に行く」


「ハルマの馬を繋げる」


「ああ、頼む」


 ニナ嬢は浅い呼吸をしている。


 意識はない。


 洋服にしみ込む温かなものは血だろうか?


 俺は目を閉じた。


 戦場で、傷を負った者を抱えた時のような感触がする。この濡れた感触は、血ではないと思いたい。



 +



「背中に刀傷がある。顔は殴られた傷だ。小さな傷は、腕や足にもあるが、傷が残る傷は、背中の傷だけだ。後は、目が覚めない。頭を強打して、意識を失ったのか、そのまま眠ったのか?様子をみよう」


 病院で処置を終えた。


 医師は的確に状況を伝えている。


 守れなかった。


 レインは何というか?


 俺達を怒るだろうか?


 それとも、もうニナ嬢に興味を持たないだろうか?


「このまま入院になります。背中の傷が開くと、大きな傷跡になりますから、絶対安静です」


「お願いします」


 俺とビストリは、病院にニナ嬢を預けて、宮殿に戻ってきた。


 遅い夕食を食べた。


 今日はいつも以上に疲れている。


 この頃、いつも一緒に食べていたニナ嬢の食事は、手をつけられずに片付けられた。


 キッチンのシェフに言っておかなければ。


「ニナ嬢は怪我をして、病院に入院した」


「怪我ですか?」



 ここで働いているシェフ達が集まってきた。



「具合は悪いのですか?」


「まだ分からない」


「そうですか?」


「心配です」



 シェフ達は沈んだ表情になった。


 ニナ嬢は、何事も一生懸命にやっていたので、宮殿に勤める者達は好感を持っていたようだ。


「俺はもう寝るよ。なんだか疲れた」


「ああ、俺も疲れた。今日は寝るよ」


 食事の後は、酒を飲んだり、チェスをしたりして楽しんでいたが、そういう気分ではなかった。


 明日の朝、ニナ嬢が襲われた場所に行き、ニナ嬢の持ち物が落ちていないか確かめなくてはならない。


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