第17話 洗髪


 結婚式を挙げた後、馬車で村を見せてもらった。


 やはりどこもかしこも畑ばかりだ。


 集落がときどきあり、子供達が遊んでいる姿も見られる。


 どこも長閑な場所だ。


 馬車でブルーリングス王国になる土地を走ってもらい、私は初めて新たなブルーリングス王国を見せてもらった。


 きっと大陸の中で、一番小さな国になるだろう。


 それでも、その小さな王国を守って行く事は、亡くなったブルーリングス王国の血族や民も望んでいることだと思う。


 祖母と一緒に逃げてきた祖父は、寡黙な人だった。


 目の前で両親と引き離され、祖母と共に連れ出された祖父の両親は、王宮に留まっていた。


 その日は、祖母の曾祖父のお誕生会で、親族縁者が王宮に集まっていた。


 それを狙って、攻められたのだろう。


 近衛騎士達が、幼い子供達を抱き上げて、秘密の出口から脱出していった。


 国王の血を引く縁者も走れる者は逃げ出せたが、走る力がない者は、その場に留まっていたという。


 祖父と祖母は10才ほど歳が離れていた。


 祖母はまだ幼かったが、祖父は自分で走ることができる年齢だったと聞く。


 祖父からは、ブルーリングス王国の滅亡の話しは聞いた事はなかった。


 そんな祖父も祖母が亡くなった後を追うように、流行病で亡くなった。


 私は祖父の事も知りたかったが、祖父は曾祖父に養子に迎えられてから、ニクス王国の貴族としての顔を見せていたようだった。


 祖父の髪の色と瞳の色は、ブルーリングス王族の色は持っていなかった。


 リリーは祖父の血を受け継いだのだと思った。


 だが流れる血は、間違いなくブルーリングス王国の血族の血であった。


 私には兄がいるが、兄は白銀の髪にブルーアイを持っていた。


 兄嫁はニクス王国の侯爵令嬢を招いた。


 お父様は、初めてブルーリングス王国の血族の血に、ニクス王国の血を混ぜた。


 純血は途切れる。


 兄嫁の髪と瞳はリリーの色と似ている。


 元々、ブルーリングス王国とニクス王国は友好国で、ニクス王国から姫が嫁いできた時期もあったと聞く。


 その名残で、リリーの様な色の子が産まれる。


 私は祖母や両親から教わったブルーリングス王国の歴史を思い出しながら、お風呂に入っている。


 他ごとを考えていないと、羞恥で倒れてしまいそうです。


 身体を洗ってから、ゆっくり湯船に入っている。


 これから、髪を洗うのだけれど、流すときに、レインが浴室に入ってくる。


 緊張で、胸がドキドキしてしまう。


 レインに私の裸体を見せることになるのだ。


 フェルトともお風呂には一緒に入った事はない。


 そろそろ髪を洗おう。


 このままでは、のぼせてしまう。


 最初に桶で湯を掬い頭からかける。


 桶が重い上に湯を入れるので、手がプルプルする。


 髪が濡れたら、髪を洗っていく。


 先ずは頭皮をしっかり洗って、それから長い髪を洗っていく。



「ニナ、そろそろであろう?」


「お願いします」



 浴室にズボンとシャツの袖を捲ったレインが入ってきた。



「湯を掛けるのだな?」


「はい、頭からお願いします」



 レインが桶に湯を掬い、頭を流してくれる。


 私は泡を流すように、頭を洗う。


 何度か湯を掛けられ、やっと頭皮の泡も流れて行った。



「髪の泡があるところに流すのだな?」


「はい」


 長い髪は洗い終えると、身体の前に垂らしている。


 そうしないと髪は、排水溝に流れて行ってしまう。


 洗うたびに汚れてしまう。


 これは寄宿舎で、何度も自分なりに考えた洗い方だ。


 桶の中に、髪を入れておく事もしてみたが、レインに素肌を見られる羞恥で、胸元に髪を持ってくることにした。



「確かに、何度も湯を汲み、掛ける行為は、レディーには重いであろう」


「今日は助かっております」



 一度、泡を流すと、トリートメントを髪に付けていく。


 頭から毛先まで、しっかりお手入れしなくては、長い髪は美しく維持できない。


 髪洗い専属のメイドもいるほどで、奥方、令嬢の髪の美しさを、貴族の当主は競われる事もあるそうです。


 実家には、髪洗い専属のメイドがおりました。


 フェルトの邸にも髪洗い専属のメイドがいたので、寄宿舎に入った当初は、綺麗に洗えずに泣きたくなりました。


 私が髪のお手入れをしている所を、レインは見ています。


 レインは私の背後にいる。視線が何処を見ているのか分からないので、なんとか堪えています。



「もう一度、掛けてくださいますか?」


「ああ、掛けるよ」


 レインは物覚えがいいのか、きちんと頭から掛けてくださいます。


「確かに、髪を洗うのは大変そうだ」


「今日は助かりました」


 わたしは髪を洗った後、湯船に入りました。


 身体に残った泡があっても、湯船に浸かることで身体は、綺麗になります。



 レインは私を洗うと、桶に湯を汲んで手足の石鹸を流すとお風呂から出て行った。

とても、紳士的な人だと思った。


 私はゆっくりお風呂に入って、タオルで体と髪を拭うと、バスローブを着て部屋に出て行きました。


 レインはお茶を淹れてくれていた。


 紅茶のいい香りがします。



「手伝おうか?」


「お願いします」



 レインは櫛で長い髪を梳かしてから、ドライヤーで乾かしてくれる。


 とても丁寧に、長い髪の先端まで乾かしてくれる。


 乾くと、櫛で髪を梳かしてくれる。




「サラサラになったな?どうだ、俺の腕前は?」


「本当にサラサラね。ありがとう」


「明日も洗わせてくれ」


「はい、明日もお願いします」



 鏡越しに視線が合うと、レインは私の頭にキスを落とした。


 その夜、私はレインと本当に結ばれ、夫婦となった。


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