プロローグ ②

 体育館にはたくさんの人が集まっていた。

 ゾンビから命からがら逃げ出してきてここに来たんだろうか……。

 あたしらも腰を下ろす。


「やっと少しは落ち着ける……。まぁ、ここも時間の問題だとは思うけどな……」

「見知った顔とかいると安心するねぇ……」

「お前の父さんたちは無事かな」

「わかんない……。海外にいるから海外が今どうなってるかわかんないけど……」

「日本がこうなら海外もこうだろ。あまり希望はねぇな」


 汐里の両親は海外にいた。

 海外の情報も何も入ってこないからわからない。スマホは家に置いてきてしまったからな……。


「とりあえず……あたしは剣道部の部室行ってくる。武器は確保しておきたいからな」

「わかった……」


 あたしは体育館を出て剣道部の部室の方に向かって行く。

 先生たちが見回りをしているようで、先生たちに事情を告げるとわかったと言ってくれた。


「あったあった。ツルッツルの木刀」


 木刀一本拝借し、体育館に戻る。

 体育館では、生き残った人たちがいるという安心感で緊張の糸がほぐれたのか、壁にもたれかかって汐里がすーすーと寝息を立てていた。あたしはその横に座る。


「熟睡してんな。ま、疲れてるしな」


 あたしもひと眠りするかな……。

 そう思った時だった。


「きゃあああああ!!!」


 大きな女性の悲鳴で眠ろうとしていた意識が覚醒する。

 慌てて目を覚ますと、ゾンビになっていた一人が女性を噛んでいた。


「うわああああああ!?」

「に、逃げろ! すでにゾンビが中にいた!」

「お、押すなよ! うわあああああ!」


 阿鼻叫喚の荒らし。

 あたしは急いで汐里を起こす。


「おい! 起きろ汐里!」

「ん……」

「寝ぼけてる暇ねえぞ!」

「え……?」


 汐里は横を見ると、ゾンビが徘徊していることに気がついたのか。


「うぎゃああああああああ!?」

「ばか、声でかい……」


 ゾンビがこっちを向いた。

 そして、一斉に襲いかかってくる。先生たちも何事かと駆けつけてきた時にはすでに遅かった。

 ゾンビが体育館に彷徨いてる。先生は驚いていたがすぐに体育館の扉を閉めようとしていた。


「……先生! 閉めないで!」

「急げ!」


 ここから急いでも汐里は間に合いそうにない……。

 汐里には返せないほど恩がある。両親が行方不明になって行き場のないあたしを招き入れてくれたこと。恩を返さずになにが生きながらえようか。


「汐里、またな」

「え……?」

「間に合わない……! もう閉めるぞ、すまねえ……」

「ゾンビ共! あたしが相手してやるよ!」


 あたしは木刀を構えて突っ込んでいく。

 死にたくねえ。死にたくねえけど、ここで共倒れになるよりかはマシだ。

 

「朝陽……!」

「朝陽……。久保田! 早く来い! 朝陽の覚悟を無駄にするな!」

「生き伸びろよ、汐里……」

「朝陽……!」


 先生は汐里を引っ張り体育館の扉を閉めた。

 木刀でゾンビを殴る。足にゾンビが噛み付いてきた。

 ちっ……。流石にこの数は無理か……。だけどまだ猶予はある。さっきのやつはなぜ突然発症したのか。発症には多分タイムラグがある。

 自我を失いゾンビ化するのは人によって時間が違うんじゃないだろうか。


 あたしも自我があるうちは抗い続けて、ゾンビ共を倒してからあたしも殺されてやる。

 少しでも負担を減らした方が、その方が逃げられる可能性が高まるってもんだ。


「オラオラオラァ! その程度じゃあたしは殺せねえぞ!」


 あたしは木刀を振るった。

 死ぬ直前まで、ゾンビを蹴散らすように。


 気がつくと、ゾンビたちはみんな動くのをやめて、倒れていた。

 あたしはその場に座り込む。


 そろそろやべえかもな……。根性で保っていた意識が飛びそうだ。

 これが死、か……。あたしのゾンビが汐里に迷惑かけねえよう願うばかり。


 あたしはゆっくりと目を閉じたのだった。








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