驟雨止み、男は薄靄に、読み手は重霧の只中に――まさに鳥肌ものの一品

筋書き自体は特に珍しくない、にもかかわらず読み手を水底へと引きずりこむかのような妖力に、ただただ圧倒されてしまった。単に序破急の構成の妙だけでなく、その場面に合わせて文体や速度感を変化させる手腕、心象を誘導するのに適切な小物、語彙の選定、他にも細かな心遣いが幾つもあるのだろう。衒った言葉さえも必然であるかのように納得させるだけの牽引力を持った小品を、是非ご堪能あれ。