第1話-③ because of-
ーー<西暦と呼ばれた時代が終わり4033年4月3日17時03分>ーー
コールドスリープから白煙が消え、俺はもう一度眠っている人間を確かめようとしたその時、その少女はゆっくりと起き上がった。
彼女の後ろから夕陽が差し込み、眩しさに俺は目を手で覆った。
夕陽のせいだろうか、彼女の髪は薄紅色をしている。
俺は見とれてしまった。
夕陽の光と彼女の髪の色に、そして春の風が一瞬強く吹き、この一帯のハルジオンの花びらが一斉に舞ったことで、彼女の存在をより際立たせた。
ほんの数秒見とれただけだろう、だが俺にとっては時間が止まったように感じた。
<パキ・・>
背後から物音が聞こえたことで、俺は我に返った。
やはりこの見通しでは見つかってしまったようだ。
守り人だ。
俺はすぐさま、武器に手を置き、周囲を索敵した。
彼女は大丈夫だろうか。
彼女の様子を見たが、立ったまま空を見つめ、ぼーっとしている。
コールドスリープから目覚めたばかりで、意識が朦朧としているのだろう。
彼女から目を離し、前を見ると奴らが立っていた。
守り
1,2,3・・・・。一目みて確認出来た。
全部で5体だ。
型式は・・・
俺は目を凝らし、さらに体内のナノマシンを起動し、網膜スキャンを実行した。
コンマ何秒で解析が終了し、やつらはAI非搭載のⅩシリーズだと把握した。
そして俺が最も憎む、
なら、問題ない。
俺一人で充分倒せる。
俺は腰に装備した二本の刀を抜いた。
コールドスリープから目覚めた彼女の近くには、奴らはいない。
ならば、目の前の5体を殲滅しよう。
先手必勝で俺は近くの1体目に斬りかかった。
1体目の首がバチバチと音を出しながら飛んでいく。
力強く左足を踏み込み、右の2体の首を同時に斬り落とした。
やつらⅩシリーズは、今や独立タイプとなった。
連携なんてものはない。
武器もない。
パワーとスピードで人間を圧倒するだけだ。
だから俺には何も 問題ない。
残りは2体だ。
次の攻撃態勢に入った俺が目を向けた先は、やつらがあの少女に飛びかかっているところだった。
クソと舌打ちし、無意識に起動した。
リエンフォース《強化》・ナーブコネクション《神経接続》30パーセント>
首の後ろにあるチップから、バチバチと電流が全身に青白く走りながら、刀にまで広がり帯電する。
俺は一気に残り2体に追いつき、背後から右側1体の首を飛ばし、左側の1体へ蹴りを放った。
地面に叩きつけられたアンドロイドの腹部構造が露呈している。
最後の1体が起き上がろうとした瞬間には、俺はすでに首を切り落としていた。
「ふぅ・・・久々に使ったな」
後ろに振り返ると、少女はまだ空を見上げながらぼーっとしている。
今の戦闘音も聞こえないのか?
周囲に守り人の気配は全くない。
俺は刀を鞘に納めた。
俺はゆっくりと彼女の元へ再度近づいた。
気付くと彼女は俺の方をじっと見ていた。
彼女の髪の色は夕陽のせいなんかではなかった。
本当に薄紅色の髪をしている。
だが、俺はそこで大事なことに気付いた。
◇
ーー<西暦と呼ばれた時代が終わり4033年4月3日16時45分>ーー
<着地まであと・・・・10・・・9・・・・8・・・・。>
<着地しました、これより起動シーケンスを開始します。>
<シーケンス完了、さらにメインサーバへの接続を開始・・・・・・・エラー。再度試みます・・・・エラー。ネットワークプロトコルを変更し、再度試みます・・・・・エラー。>
<メインサーバへの接続が不可のため、ローカルコマンドを実行します。>
<ローカルコマンド実行中・・・・15パーセント・・18パーセント。>
<ガガ・・>
<外部より衝撃あり、ローカルコマンドが完了できません>
・・・・・・・。
眩しい・・・・。
私は・・・・・。
ここはどこだろう・・・。
空?
とても赤い。
風?
暖かい。
そしてこの香りは・・・。
頭がぼーっとする。
私は・・・・・。
私?
私とは?
分からない。
頭がぼーっとしているから?
ううん、私は、私が分からない。
誰かの声がする。
『ふぅ・・・久々に使ったな』
誰?
私は彼の方を見た。
彼は私の方へ歩いて近づいてくる。
この人は私の知っている人?
私はどうしてここにいるの?
その時、頭痛がした。
あぁそうか・・・・。
これが私の役目でもあり、目的なのか・・・・。
彼が目の前まで近づいてきた。
彼が何か言おうとしていることも同時に気付いた。
『服を着ろ!!!』
それが、彼の最初の一言だった。
◇
ーー<西暦と呼ばれた時代が終わり4033年4月3日17時10分>ーー
こいつはなんで裸なんだ?
コールドスリープといっても、衣服を着ることは可能なはずだ。
俺はジャケットを彼女にかけた。
「ほらよ」
彼女は不思議そうにこちらを見ている。
この子は確かにリーリアに似ている。
だが髪の色が違う。
ましてや、年齢も違う。
ただ、似ていた。
兄である俺でさえ見間違うほどに。
「お前名前は?」
「どうして、コールドスリープなんかに入ってたんだ?」
「いつから眠っていた?」
「どこから来たんだ?」
『・・・・・・・・・・・』
つい、疑問に思っていたことを一気に言ってしまった。
コールドスリープから目覚めたばかりだから、記憶は混濁するはずだ。
俺は頭をぽりぽり書いて、気持ちを落ち着かせた。
「お前、せめて名前くらいわからないか?」
『・・・・・・・・・・・』
しゃべれないのか?
どうしたものか。
これくらいの歳の子の扱いなんて、難しくないはずだ。
どうみても17~19歳の10代だろう。
『・・・・・・エル・・・・』
ん?
今、この子話したぞ。
『し・・、シリアルナンバーGS559エルⅡ型・・』
シリアルナンバーだと?
こいつ、まさかアンドロイド?それともバイオロイドなのか?
俺は武器に手を置き、身構えた。
だが、よく考えてみろ。
機械のくせに何故コールドスリープに入っている。
機械がコールドスリープに入っている必要はないはずだ。
冷静に考えれば分かることだ。
俺は武器から手をおろした。
どうする。
この子は、名前を聞いたらシリアルナンバーを言い出した。
「なぁ、お前名前がシリアルナンバーなわけないだろ?もしかして記憶が曖昧なのか?
『・・・・・・・・・・・・・』
何も答えられないか。
うーん、安直だがまぁいいか。
「じゃぁ、お前の名前はシエルだ!」
『・・・・シエル・・・・・・・』
「おう、そうだ。シエルだ」
彼女は俯きながら、<シエル>という名前を口にした。
怯えているのか?
俺が怖がらせてしまったのか。
思い出すまで、とりあえず呼び名があった方がいいだろう。
だが、どうしても俺はこの子を放っては置けない気持ちになっていた。
先ずは
コールドスリープ装置は・・・・・・
このまま
ただし、ここは見通しが良すぎるため、少し森の方へ移動しておこう。
『この子達は・・・・あなたが殺したの?』
彼女はさっき俺が倒したアンドロイドを見て、そう言った。
この子達?
「ああ、そうだ。」
彼女の顔が少し曇ったように見えた気がした。
アンドロイドを知らないのか?戦争のことは、さすがに知らないことはないと思うが。
「こいつらは、戦後メインサーバからの接続がなくなって、独立して動くようになったんだ。だが街へ来て人を襲うことはない。」
シエルが俺の方へ振り向いた。
「だがな、謎なのは・・・戦後こいつらは
「まるで・・・、戦後に残った自然を守るようにな・・・・・」
俺は薄々感じていたことも口にしてしまった。
守り人達は戦争では兵器だった。
だが、終戦後こいつらの指令元のサーバは破壊された。
こいつらは何のために動いているのか不思議な点はもちろんある。
守り
あ、俺は大事なことを忘れていることに気付いた。
「俺は、ザッド!ザッド・ミナツキだ」
彼女は頷いてくれた。
俺はコールドスリープ装置を茂みに隠した。
軍への報告は
どうみても、シエルの置かれた状況は複雑だ。
軍へ報告すると、様々な調査が待っていることは間違いない。
こんな年齢の子でも容赦なく行われるだろう。
「シエル、俺についてこい」
彼女はまた頷いて、俺の後ろを歩き始めた。
シエルは不思議な子だ。
しゃがみこんで花を触ったりしている。
興味があるのだろうか。
シエルのせいで、中々出口まで進まない。
まぁ、警戒を強めるエリアは出口に近づくにつれ、減っていくため問題はないが。
そんな自然に興味深々のシエルを見ていると、こっちも心が和んでしまう。
『ザッド・・・』
か細い声で、シエルから呼ばれた。
振り返ると、彼女が一つの花を触っていた。
『これは・・・、なんて花ですか?』
おいおい、俺は花なんて詳しくないぞ。
うーん、でもシエルがじっと俺を見てる。
俺はナノマシンを起動し、網膜スキャンを実行した。
「これは、芝桜だな」
『シバ・・・ザクラ・・・』
「ああ、お前の髪の色に似ているな」
『私の・・髪の色・・・』
そう言うと、シエルは芝桜の方を更にまじまじと見つめていた。
俺は口元が緩み、少し笑ってしまった。
花が好きなのかな、この子は。
なら、あそこに案内してやらないとな。
「シエル、少し寄り道するぞ」
『寄り・・道・・?』
そう言って、俺は彼女の手を取った。
か細く、子供から大人になるちょっと手前の女の子だ。
この子はアンドロイドやバイオロイドの類じゃない。
手を握った俺がそう確信した瞬間だった・・・。
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