第1話-② because of-


基地を後にした俺はマシンを運転しながら、端末に転送された目的座標を再確認した。


座標は確かに楽園エデンを指している。

久々に気を引き締めないといけないな。


道は舗装されていた形跡があり、戦争によって破壊された道路だと誰でも分かるだろう。

だが、3年前に終戦したんだ。

平和になった今は、自由気ままに過ごしていきたい。


そう思いつつも、戦闘以外で俺には得意分野はない。

今の傭兵という職業は仕方ないと思う。


今の仕事を選んだことで、多少危険であっても、以前とは生きている世界が全く違うと感じる。


再度座標を確認しながら、マシンを走らせる。


マシンに乗っていると、ほんの少し暖かい風が混じり、心地よい花の香りも、大きく呼吸をする時に入ってくる。


この季節は好きだ。


空は青く、戦争中に見た赤く染まったような空ではない。


今から危険な地へ行こうというのに、俺はドライブを楽しんでしまっている。

もしかすると、戦争が終結したことによって、平和ボケしてしまったのかもしれない。


だが、同じ場所・同じ季節であっても、戦場で見た景色と、今の景色は明らかに違って見える。


こんな緊張感のない顔した俺を見たら、またユアに怒られるだろう。

まぁ、あいつの小言には慣れている。


その時俺の無線がなった。



『ミナツキ中尉!応答願います』



ユアの声だ。

あいつが直接無線で呼び出すということは、今回の任務はユアが指揮官なのだろう。



「聞こえてますよ。少佐殿」



よし、ちゃんと敬意をもって返事したぞ。



『お知らせしたいことがあります』



追加の命令か何かか・・・・。

ユアに内容を問いただした。



『未確認の飛行物体ですが、減速する様子がありません!落下しています!』



飛行機の故障か?

それとも飛行機ではないということか?

まさか、ミサイル?

いや、この時代にミサイルはありえない。

そもそも、終戦して世界の軍事力の9割はコアール国軍が有している。

軍事力といっても、兵器が多いわけではない。

治安を守る兵が多いだけだ。


戦争で多くの犠牲を払った人類は、資源リソース不足に苦しんでいる。

コアール国は、各国へ兵を派遣し、治安維持に努めている。


よって、兵器ミサイルというのは除外していいだろう。

飛行機が故障して墜落している可能性が一番高い。


ユアに教えてもらった着陸予定時間までまだ余裕があったが、落下となると話が変わる。

俺はマシンのスピードを上げ、ユアに了解と伝えた。



速度を上げ、走り続けること数十分。

楽園エデンが視界に入ってきた。


ここは第7区 楽園エデン・・・。


戦時中に被害を受けなかった、が残る場所。

コアール国軍事基地より一番近い楽園エデンだ。


この丘を下ると楽園エデンに入ることになる。

少し観察するために、俺はマシンを止めて、双眼鏡を手に取った。


楽園エデンの周囲を見回し、上空を見上げた。



「なんだ・・・あれは・・・」



思わず声が漏れた。



飛行機ではないと、はっきり分かる形をしたものが落下している。

確かに、このままだと楽園エデンに落下するだろう。

そして、落下の衝撃で粉々になるのは間違いない。


俺は粉々の落下物の調査をすることになるな。

ため息まじりに呟いた。


しかし、落下している物体から、突如パラシュートが開いた。


おいおい、面倒な任務になったぞ。

予想外の展開となると、嫌な予感しかない。


パラシュートが開いた黒い物体は、当然 楽園エデンへ落ちていく。

いや、着地すると言った方が正解だろう。



黒い物体の着地する位置を目で追った。

楽園エデンの南側へ着地したようだ。

特に爆発音もなかった。


仕方がないが、任務を遂行するしかない。

俺は雇われ兵だからな。

給料分は働かなくては、明日の飯も苦しくなる。


第7区 楽園エデンは、東側からしか入ることが出来ない。

他の方角はすべて崖になっている。


マシンのアクセルを回し、俺は楽園エデンの東側入り口へ向かった。






私はまた、中尉を危険な地帯へ就かせてしまった。

立場はわかっていても、とても胸が苦しい。

あの人はいつも無茶をするからだ。


誰にも遠慮せず、屈託な笑顔で周囲の緊張を和らげ、戦地へ向かう兵の心を癒すことが出来る人だ。

優しすぎるゆえ、危険な任務では単独行動が多い。


兵の身を案じることは理解できるが、私はあの人自身が心配だ。

いくら、力を授かったとはいえ、自分を犠牲にするなんて・・・・。

私は目に涙を溜めてしまった。


少佐となった今、こんな姿を部下にはもちろん、あの人へは絶対に見せれない。


楽園エデンには、がいる。


あいつらには、感情がない。

そして、最強の兵だ。


人類は、あいつらによって滅ぼされかけたといっても、過言ではない。

しかし、あいつらに対抗出来るのは、中尉しかいない。


今回の任務も、実質中尉に頼るしかない状況だ。


私は、私の役割を全うし、全力で中尉を守る。


考えすぎていた頭を整理し、涙をぬぐった。



「おーい、ユア。聞こえるか?」



その時、中尉から無線が入った。

そうだ、付け加えると中尉は私より三つも年下なのに、態度も横柄だ。

この緊張感のない声で、私の心の不安は落ち着いてしまった。

中尉は卑怯だ。


喉をならし、姿勢を整え、中尉へ応答した。






楽園エデンの東側入り口へ到着した俺は、ユアへ調査開始連絡をした。

ここから先は徒歩だ。

マシンから降り、ゴーグルを取った。


目の前に森林が広がる・・・・・。

どれくらいの広さだろうか。

森林を目の前にすると、分からなくなる。

ただ、とても綺麗だ・・・・。


大きく深呼吸し、森林の香りを吸い込んだ。

心が癒される。


これから危険地帯へと足を踏み込もうというのに、俺は笑顔になってしまった。


ここには守り人がいる。

多少は気を引き締めなくてはならない。

そういい聞かせ、楽園エデンへ歩みを始めた。


目視で確認した黒い物体の着地地点は南側だから、ここからそう遠くない。

南側は個人的に知っているエリアだ。


軍にバレるとマズイけどな。


木々や草を避け、前に進む。

ときおり広がる一面の花畑へ少し目が行ってしまう。

ここは、戦争の被害にあわなくてよかったと心底思う。


杞憂だったか、守り人と遭遇しない。

このまま何もなければいい。

俺は更に足を進めた。


少し開けた場所で、パラシュートらしきものが見えた。

あれだ。

入口から数キロといったところか。


だが少々この場所はマズイ。

見通しが良すぎるのだ。



風で木々が揺れた。

その音に反応し、即座に左右や背後を見渡す。

俺にもまだ、警戒心が染み込んでいるようだ。


パラシュートの方を見ると、今の風で飛んでいくのが見えた。

繋がっていた黒い物体とパラシュートが分離したとわかった。


周囲に守り人の気配はない。

武器に置いていた手をおさめ、黒い物体がある方向へ近づいた。


黒い物体の前に立った俺は、すぐに気づいた。


これは装置だ。


軍の訓練生だった頃に、資料で読んだことがあった。

間違いなく、コールドスリープ装置だ。


しかし、この場所では装置の機能を維持するエネルギーがないため、内臓バッテリーが枯渇すると、中に入っている人間は死んでしまう。


確か、外部からのアクセスによって中の人間を起こす場合は、認証コードや何かが必要だったはずだ。


基本はスリープ装置のタイマーによる目覚めだ。


このままでは中の人間が危険だ。

俺は急ぎ外部からのアクセス可能なインターフェースを探した。



だが、全く見つからない。

資料で見たコールドスリープ装置とは全く違う。


どうする?運ぼうにも俺1人で持てる重さじゃない。

あれを使うか?

いや、その前に基地に連絡する必要があるな。


先ずは基地に連絡しよう。


そう、無線機を手に取った瞬間、コールドスリープ装置から白煙が噴出した。


それは、ドライアイスが昇華した時と同じものだ。


コールドスリープ装置の上部がゆっくりと開いた。

どうやらタイマーが動作したようだ。


だが、大きな疑問が浮かぶ。



緊急処置機能が備わっていたのだろうか。


白煙が落ち着くと、眠っている人間の姿が見えてきた。



そのを見た時、俺は大きな疑問を忘れるくらい・・・・・

見入ってしまった・・・・。



「リーリア・・・・・・・・」



ーー<西暦と呼ばれた時代が終わり4033年4月3日17時03分>ーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る