定期試験②
定期試験は、毎年内容はほぼ変わらない。
とはいえ、昨年一年生だった二年生も同じ内容で試験に臨んでいるのだが、学園の規則で『下級生に試験内容を教えてはならない』というものがある。
破れば即退学。この規則がある限り、例年同じ内容だったとしても下級生が試験を知ることはない。
もしこっそりと誰かが教え、それを知って臨んでいると分かった時点で、両者は『不正を働くほど汚い人間』としての汚名を被ったまま学園の外でこれからを過ごしていかなければならない。
評判命の貴族社会で、この汚名は致命的。
故に、教える側のメリットが皆無故に学園で不正が行われることは過去一度もなかった。
そして、入学一発目の試験合格者は例年一学年全生徒の八割。
ただゴール目指して進んでいくだけなのだが、二割が落ちるほど難易度は困難となっている。
ゴール到達までの平均時間は、学年全体で一時間三十分。
そして、流石はSクラスと言うべきか。
一時間が経過しようとした頃、
「おめでとう、試験合格だ」
最深部にある巨大な鏡のような穴。
それが目の前に現れた途端、最後まで黙秘を続けていたユリウスが手を叩きながら称賛した。
「あとは
その言葉を受けて、シャナは喜ぶ───わけでもなく、一人眉を顰めた。
(恐ろしいほど、何もなかったわね)
シャナは正式にルナの派閥には入っていない。
それでも、学園という箱庭の中でルナと仲良く時間を過ごせば、大抵は情報が出回るもの。
派閥には入っていないとしても、肩入れしてあげたくなる味方ぐらいには思われてもおかしくはない。
相手は、番狂わせを起こす懸念材料をも見過ごせない性格の持ち主。
そのため、試験監督にユリウスが担当してきた時はかなり警戒していたのだが、蓋を開けてみればダンジョン内にある時間稼ぎ用の罠以外なんてことはなかった。
「あ、あのっ! 私、サライツ子爵家のサクナと申しますっ!」
「覚えているよ、一昨年のパーティーに出席していたよね?」
「覚えてくださったんですか!?」
一方でもう一人のペアである少女は、ゴールしたと見るや真っ先にユリウスへ話しかけに行った。
第三王子の噂ぐらいは耳にしたことがあるだろうに。それでも近づいたのは、単に王家と関わりを持ちたかったからか。それとも美しい容姿に惹かれたか。
いずれにせよ、サクナと名乗る少女を前にしてもユリウスはにこやかな笑みを浮かべるだけで何をすることもなかった。
そのまま一緒に歩き、鏡の前へ立つぐらいには。
「さて、じゃあ戻ろうか。僕も報告しに行かなきゃいけないからね」
先導するように、ユリウスは
少女もあとを追うように入り、シャナもまた警戒しながら足を踏み入れていった。
すると、景色は一変。
洞窟のような景色が、入学式の時に見た講堂の中へ視界が映り変わる。
(学園に戻ってくれば、何もできない……)
今から何かをしようとしても、講堂の中には結果を待つ講師の人間もいた。
先に合格した他の生徒の姿もあり、このような中で揉め事など起こせるわけもない。
ただ、エレシアとセレナ、アデルとルナの姿が見えないが───何かしようとするユリウスもまた、この空間にいる。
(考えすぎ、だったのかしら……?)
シャナは張っていた気を治め、そっと息を吐いた───
♦️♦️♦️
「考えすぎ、ということではないよ」
ドゴッッッ!!! と。
激しい衝撃音が背後から唐突に後ろから聞こえてきた。
何事かと後ろを振り向けば、そこにはいたはずのアデルの姿はなくて。代わりに壁が崩れ落ちたかのような穴が向こうに開いていて。
そして、近くには足を振り抜いたあとのようなモーションをするシャルロットの姿があった。
「えっ……?」
これがどういう状況なのか、ルナは分からなかった。
いきなりの現状。唐突に起こった空白。
何かをしたであろうシャルロットは肩を竦め、ゆっくりと穴に向かって歩き出す。
「定期試験……それも、こうした課外で行われるものは講師の目が届かないことが多い。その時点で、仕掛けるには持ってこいの環境が整うのさ」
「あなたは、試験監督じゃ……ッ!」
ルナは警戒心を最大限引き上げ、シャルロットから距離を取る。
しかし、シャルロットはそんなルナに興味がないのか、小さく手を上げて足を進めた。
「今の一撃は、少し警戒心が薄れた背後からの不意だったが故に取れたものだ。私の役目は
だから、と。
シャルロットは最後にこう言い残して穴の中へと消えていく。
「そういう問答は、兄妹でしっかり楽しんでくれ」
ルナは勢いよく反対側を振り向く。
誰かの足音。吹き飛ばされたアデルがいなくなったからこそ明かりが消え。
薄暗い空間から、ゆっくりと誰かが姿を現す。
「な、んで……」
ルナの顔に驚愕の色が滲む。
「なんで、あなたがここにッ!?」
何せ、そこには───
「やっと兄妹水入らずになったね、ルナ」
───いるはずもない、
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