サロン

 仲間集めも大事だが、まずはサロンの設立だ。

 サロンを設立するためには学園側に申請して許可をもらわなければならない。

 許可が下りるのは色々と基準があるみたいだが、まったく興味もなかったアデルがそもそも知っているわけがない。

 だからこそ、そっちの方面はルナ達に任せることにしたのだが―――


「お部屋もらいましたー!」

「展開が早い」


 見て見て! とでも言わんばかりに目を輝かせるルナ。

 その後ろには、大きなシャンデリアが吊るされた絢爛な部屋が。

 広さは寮の部屋にあるリビング二つを合わせたぐらいのもの。ソファーにテーブル、本棚やキッチンなどが完備されており、集まって談笑するには完璧な空間であった。

 アデル達はそんな部屋に足を踏み入れ、物珍しそうに辺りを見渡した。


「へぇー、サロンってこんな部屋がもらえるんだな」

「そもそも、サロン専用の棟があること自体驚きです」


 エレシアはトテトテと早足で本棚へと向かう。

 そこにある一冊を手に取ると、目を輝かせながら「おー!」と捲り始めた。その様子はどこか子供っぽく、可愛らしいものであった。


「まぁ、貴族中心の学園だからね。こういうのを用意しろって要望が多かったみたい」

「ふぅーん……」


 辺りを見渡し終えたアデルは、ルナに振り返る。

 そして、凄く真面目な顔で言い放った。


「ベッドは?」

「何をする気!?」


 アデルとしては昼寝スペースがほしかっただけなのだが、女の子しかいないこの空間では中々際どい発言である。


「それにしても、よくサロンが設立できたわね」


 顔を真っ赤にするルナの横を通り過ぎ、ソファーへと腰を下ろすシャナ。

 そこへ、セレナがティーセットを持ってそのまま準備し始める。


「ほら、その件でユリウス様と揉めたのでしょう? だったら、てっきりサロンの設立は苦戦するのかと思っていたのだけれど」


 そう、元々設立にあたってルナは兄であるユリウスと揉めていた。

 乱入戦でアデルが賭け自体をなかったことにしたのだが、ユリウス側が別に負けたわけではない。

 そのため、サロンの設立にあたって向こう側から妨害などがあると思っていたのだが―――


「驚くべきことに、普通にすんなりでいやがりました」

「うん、ちょっと不気味なぐらいにすんなり。でも、設立できるならしとこーかなって」


 一度設立してしまえば、あとは兄を気にすることもない。

 学園側から解体命令が出なければ、他所から妨害工作が入っても学園側が守ってくれる。

 であれば、作れる時に作っておくのがベスト。

 何もなさすぎて懸念事項になりつつあるが、ルナは気にしないことにした。


「まぁ、ユリウス様も諦めたのかもしれないものね」

「ポジティブポジティブ! 不安になってばっかりじゃ、身が持たないしね!」


 ルナはシャナの対面に腰を下ろし、セレナが淹れてくれた紅茶を一口啜る。

 セレナもお仕事が終わり、ルナの横に座って己も一時のティータイムを味わうことにした。

 一方で―――


「ご主人様、見てください! 魔法基礎概念の指南書です! こちら、中々市場に出回らない一冊ですよ!」

「おー、この前ほしがってたやつか……って、こっちは魔法式に関する応用書じゃねぇか!? なんでこんな逸品が!?」

「た、宝の山です……」

「サ、サロンって素晴らしいんだな……」


 アデルとエレシアは本棚を見上げて目を輝かし続けていた。

 なんというか、子供が二人できたような気分。その姿を後ろから見ていたルナは、苦笑いを浮かべながら紅茶を一口頂いた。


「そういえば、今度初めて試験があるわよね」


 その時、ふと思い出したように口にする。


「あー、なんか講師が講義中にそんなこと言っていやがりましたね」

「まぁ、時期的にもそろそろだもの。最近バタバタしていたけど、もう一ヶ月経ちそうだし」

「うげぇー、試験かぁ」


 ルナが憂鬱そうにテーブルに突っ伏す。

 艶やかな金髪がだらしないことになってしまった。


「順位を落とさないようにしなきゃいけないから頑張るんだけどさー、せめて内容ぐらい教えてくれてもいいのになー」


 試験の内容は試験当日まで開示されない。

 それは不正防止と、日頃の積み重ねを見たい学園側の意向らしい。

 確かに内容を知らなければ不正もしようがなく、そもそも一夜漬け感覚で対策することもできない。

 本当に、今までの努力が試される場となる。


「普通にやっていれば大丈夫よ。皆同じ条件でやるだけだもの、入学して早々に差が出るとは思えないわ」

「と言いつつ、油断もできねぇ感じですが」

「うげぇー、私はお兄様の件でも考えること多いのにぃー」


 王女らしくもない態度。

 よっぽど試験……というよりは、順位が下がるかもしれないことが嫌なのだろう。


「まぁまぁ、そんなに落ち込まないの。少しは二人を見習ったら?」


 そう言って、シャナは本棚にいる二人を指差す。

 二人は相変わらず試験のことなど頭にないかのように、本棚にささっている本を見て目を輝かせていた。


「……あの二人は試験余裕そうでいやがりますね」

「流石は『黒騎士』様!」

「私達の順位一位ナンバーワン様と順位二位ナンバーツー様だもの」


 三人はアデルとエレシアに、どこか微笑ましそうな視線を向けるのであった。

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