乱入戦②
圧倒的猛威。
木の幹が束になって押し寄せ、自然界で生まれたものがカインの体を潰しにかかる。
(化け物め……!)
咄嗟に大剣で受け止めていなければどうなっていたことか。
浴びるような連打が剣越しに伝わってくるが、この程度であればまだ耐えられる。
(魔法を扱えるのには驚いたが、こんな範囲の攻撃が長く続くとは思えない……ッ!)
故に、凌げば反撃のチャンスがある───
「って、思ってんのか?」
カインの足元。
そこから、見蕩れるような光り輝く苔が広がった。
すると、その苔は更に眩い光を見せ……爆ぜる。
「ばッ!?」
「ただ景色を広げただけだろ。この程度で終わってしまったら、
爆風が肌を叩き、足を拘束していた蔦は燃えて解ける。
そのせいで、カインの屈強な体は上空へと舞い上がった。
「体勢を……ッ!」
「立て直そうってか?」
見上げるようにして悠々と立つ少年。
その少年は徐に携えていた剣を構え始める。
これが何をしようとしているのか───カインは反射的に理解した。
宙にいる己に剣を届かせようとしている。
普通なら「無理だ」と思ってしまうはずなのに、今までの積み重ねが何故かそう思わせてくれない。
故に、カインは持っていた剣を反射的に振るった。
すると、鈍い金属音と共に剣身に重たい衝撃がのしかかる。
「〜〜〜〜ッ!!!」
「ナイスファイト」
だが、と。
「それは及第点」
ぶつかった剣から蔦が伸び始める。
この時、カインはようやくこの剣も魔法で生み出されたのだと理解した。
咄嗟に剣の軌道を変え、伸びる蔦を斬り払っていく。
(どこまで規格外なんだ、この少年は!?)
己より強い人間を何人も見てきた。
護衛をするにあたって指導してくれた師、王家の騎士団、同年代の天才。
しかし、それでも。
こんなに己の戦闘経験が通じない相手が、他にいただろうか?
(……いや)
いたな一人、と。
脳裏にとある少女のことが浮かび上がり、カインは口元を緩めた。
しかし、現実はまだ終わっていない。
滞空が終わり、カインの体がもう一度森の上へと降りる。
その時、アデルは剣を肩に担ぎながら眉を顰めた。
「……何笑ってんだ?」
「いや、すまん。少し知り合いを思い出してな」
カインは口元を押さえ、剣を構え直す。
「これは予想以上に骨が折れそうだ」
「骨だけで済めばいいがな」
そう言って、両者は同時に地を駆けた。
ただ違うのは、アデルの背後から幾本もの幹の集合体がカイン目掛けて迫っている部分。まるで、多勢の状況にカインが身一つで突っ込んでいるような。
───先に接触するのは、自然界の猛威。
それを、カインはガードすることなく一身で受ける。
倒れることはない。
その代わり、追いついたアデルへ巨大な剣が振るわれる。
「……流石」
アデルは相対している
想像以上の
今もなお木々の殴打が続いているというのに、体勢を維持したまま剣を振るってくる。
一度だけではなく二度。二度から三度。
明らかなサンドバッグになっているにもかかわらず、アデルと何度も剣を当ててきた。
(こりゃ、エレシアでも苦戦しそうだ)
だが、と。
アデルは口元を緩める。
「この程度の相手に苦戦してちゃ、酔狂に人助けなんかしてねぇよ」
剣の応酬の最中、アデルは唐突に剣から手を離した。
振るっている途中であったため、カインの剣によって漆黒の剣は訓練場の端まで吹き飛ばされる。
得物がなくなった。
だが、何故? そんな疑問が殴打を浴びているカインを襲う。
「
その言葉は、誰かの魔法と似ていて。
アデルは言葉を紡ぎ終えると、驚いた顔をするカインの胸元に向かって指を向けた。
「
そして───
♦️♦️♦️
被害が及ばないよう、訓練場へ移動したセレナは開いた口が塞がらなかった。
もちろん、今まで見てきた光景も驚かされるものばかりだった。
何もないところから緑が生まれ、多くの植物を自在に操り、圧倒する。
先程まで、圧倒していたのはカインで、己が圧倒されていたというのに。
一人の
(な、ん……あれッ?)
だが、開いた口が塞がらなかったのは、アデルの背後に生まれた騎士のせいだろう。
いや、人ではないというのは分かっている。
目を凝らせば形作っているもの全てが植物で覆われているのが分かるし、そもそも肌色が見えず、緑に黒を混ぜたかのような色をしている。
そんな存在が、唐突に現れてアデルと同じように剣を構えていた。
違うのは、アデルよりも二倍は図体も剣も大きく。
ただ剣を一振りしただけで、何度も耐えてきたはずのカインの倒れなかった体が訓練場の壁へと吹き飛ばされた。
カインが起き上がる様子は……ない。
(マジ、でいやがりますか……?)
結局、最後まで緑の大地に立っていたのは───
(これが、数多の人を救ってきた『黒騎士』……!)
───
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