それから
入学してから二週間が経った。
時間が経つのは早いもので、もうすっかり学園の空気に慣れてしまった気がする。
授業をサボって懺悔室に連れていかれたり、姉の執拗な部活動勧誘をされたり、エレシアの作ったご飯を食べて一緒に寝たり。
もちろん、屋敷にいた時よりかは忙しない日々だ。自堕落ライフからは少し遠ざかってしまったが、それでも『黒騎士』騒動が熱を帯びている状態で屋敷にいるよりかはマシ。
ただ、問題は―――
『おいっ、お前に決闘を申し込む!』
「うん、今食事中だからあとでな」
ペタと、果たし状に似た何かがアデルの頭に貼り付けられる。
しかし、アデルは気にした様子もなく引き続きエレシアお手製の弁当を教室で美味しそうに頬張っていた。
「あなた、最近決闘を受けることが多くなったわよね」
そんな姿を、シャナは同じくエレシアお手製の弁当を食べながら見ていた。
どうやら、エレシアはご丁寧に三人分の昼食を用意してきたらしい。
「そうだな、俺の体に貼られている果たし状の数を見れば一目瞭然だな」
「人気者ねぇ」
「それより、好戦的な人間ばかりしかいないことを問題視してくれ」
「楽勝だった?」
「うん、全部素手」
「もう何も言えないわ」
アデルが騎士部で決闘をしたことは、たちまち学園中に広まった。
何せ見たこともない魔法と剣を操る魔法騎士の圧倒的な戦闘。それを行ったのがあのアスティア侯爵家の恥さらしときたのだから話題にならないわけがない。
おかげで「強い人間と戦ってみたい」という向上心のある者と「恥さらしが一位なんてあり得ない」と思っている生徒達からアデルは狙われ放題の状態に陥ってしまっていた。
「俺と
「社交界の箔がどうしてもほしいチャレンジ精神旺盛な人ばかりなのよ。それと、自分より上に見下していた男がいることを許せない子供」
「駄々をこねるなら自分のお母さんにしてくれよ……俺に母性を求めるんじゃない」
「私も決闘お願いしてもいい?」
「やめてくれ、下剋上なんて必要ない順位だろうが」
それもそうね、と。シャナは美味しそうに弁当を頬張る。
その時、教室の扉が開いてエレシアが姿を見せ、ゆっくりと二人の下に近づいた。
「ただいま戻りました」
「おう、お帰り。どうだった、決闘?」
「はぁ……特段盛り上がる場もなく終わりましたよ。向こうさんはただいま絶賛最後地面とおねんねです」
「流石ね、エレシアも」
決闘をしているのは何もアデルだけではない。
何せ、二十位まではSクラス。一学年の中でトップクラスなのだ。
そこに入ろうと考えている生徒はたくさんいて、アデルほどではないが二人もちゃんと勝負を挑まれていた。
「そもそもさ、女の子に嬉々として剣や魔法を向けようって発想はどうなのよ? シャナなんて公爵家のご令嬢だろ? しつこいストーカー扱いされていいことなんてないと思うんだがなぁ」
「まぁ、この学園がそういう場所って知っているからなんとも思わないけど。でも、アプローチって話なら少し嫌なのよねぇ」
「アプローチ?」
「要するに「俺は強いぜかっこいいだろ!?」ということですよ、ご主人様。婚約が決まっていない貴族の方も多いですし、学園は自分をアピールする絶好の機会なのです」
「ふぅーん……」
シャナやエレシアは容姿が整っている。
加えて家柄も文句がつけられないため、婚約者がいない男連中からしてみれば優良物件も優良物件だ。
頑張ってアピールして好きになってもらおうと考える人がいてもおかしくはない。
「ってことは、あの第二王女様も大変なんだろうなぁ」
アデルは思わず教室の中を見渡す。
そこにはルナや傍に居るセレナの姿はなかったが、何故か気の毒そうな目を浮かべた。
「まぁ、大変でしょうね」
「王族との婚約。色々縛りはあるでしょうが、成立できれば玉の輿もいいところですし」
そう、アピール云々の色恋話が挙がるのであれば一番の優良物件はルナだ。
第二王女であり、加えて成績もトップクラスの上位枠に入れるほど優秀。
容姿端麗成績優秀。男からしてみれば、エレシア達以上に魅力的に映るだろう。
「噂によれば、去年のユリウス様の時も凄かったみたいですね」
「ユリウス様って言ったら第三王子の?」
「はい、去年この学園に入学されたみたいなのですが、その時も女性陣からの決闘があとを絶たなかったそうです」
「うげぇ……バイオレンスなハーレムだこと」
脳裏に思わず狙われる構図を思い浮かべてしまって苦笑いを浮かべるアデル。
内心で「ご愁傷様」と他人事ではあるが、会ったこともない王子へ気の毒そうに頭を下げた。
「まぁ、第三王子は性格が性格だから同情する気が湧かないのよねぇ」
「それに関しては同意ですね」
はて、どういうことだろうか? と。アデルは二人の話に首を傾げる。
「話は戻しますが、ルナ様に至ってはご自身でサロンも作られるみたいですし、そこへ決闘を挑まれてと大忙しでしょう」
「実力主義の学園の弊害だな、可哀想に。物騒なピンク色の学園生活を送る羽目になるとは思わなかっただろ」
まぁ、俺には関係ないけど、と。
アデルは引き続きエレシアの作った弁当を頬張る。
その時———
「ア、アデルくんはいるっ!?」
ガラララッ、と。教室の扉が勢いよく開いた。
そこから姿を見せたのは噂していたルナで、教室を見渡しアデルの姿を見つけると急いで駆け寄ってくる。
「あのっ、その……一緒に来てくれない!?」
「えーっと……なんでです?」
突然の呼び出しに、アデルは首を傾げる。
すると、ルナは申し訳なさそうな顔を見せて頭を下げたのであった。
「お、お願いっ! 今から訓練場に来てくれない!? ちょっと助けてほしいの!」
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