サボり、屋上で
なんだかんだ学園で一番権力を持っていそうな人がやってきたが、講師の人が無事にやって来てホームルームが終了。
ホームルームは、簡単に学園の説明を受けることになった。
聞いた話をざっくりと要点でまとめると───
・一ヶ月ごとの定期試験によって成績が振り分けられ、順位が変動。
・決闘という規則に則り、試験以外での順位変動あり。
・各クラス二十名。順位変動によりクラスが変わった場合、退学。
───とまぁ、なんともシビアな内容だった。
つまり、アデルが三年間の自由を謳歌しほとぼりが冷めるのを待つためにはSクラスから下がらないようにしなければならない。
ここが、以前シャナとエレシアが言っていた『一定の基準成績を落としたら退学』という部分なのだろう。
成り上がる分には申し分ないが、落ちこぼれには用がないと改めて願望を突きつけられたような気分だ。
そして、そんなシビアで無理矢理気を引き締められたあとは早速各クラスで授業が行われる。
それを、アデルは───
「エレシア、見ろ! 絶好のお昼寝スポットじゃないかッッッ!!!」
「こんなに早く見つけてしまうとは……ご主人様の堕落への熱意は流石です」
───堂々とサボっていた。
「いやぁー……日当たり良好、風良好、静けさ良好。石畳だからちと背中は痛いが、工夫をすれば
ホームルームを終わってすぐ。
アデルはいち早く校舎の中を探索、そのあとすぐに屋上という絶好スポットを発見して早速足を運んでいた。
もちろん屋上には授業中なので生徒も講師の姿はなく、心地よい風が二人の髪を靡かせる。
「こんなに心地いいんだったら、シャナも来ればよかったのに。あんにゃろー、デートのお誘いを断りやがって。初めましてで、まだ好感度が足りなかったか?」
「開幕一番で舞台を下りる役者がどこにいるんですか。そういう肝が座っているのは
「ついでに言うと
アデルは地面を一回小突く。
すると地面から大きな草の束が現れ、一瞬にしてベッドのような形を作っていった。
「しかし、初日からサボりとは相変わらずですね、ご主人様」
「だって、あのまま教室にいたら変なやっかみを受けそうだし、変な
「言われてみればそうですね」
どうせ「お前が一位なんてあり得ない! 不正でもしてるんだろ!?」と絡まれるか、サインをねだるほどのファンである王女に話しかけられたあと「なんでてめぇみたいなやつが王女様と!」みたいなことを言われるに違いない。
であれば、絡まれる前に、話しかける前に逃げた方がいいだろう。これ以上、注目されてなるもんか!
「さーて、一眠りでもするかなぁ。寝る子は育つって話の証明をしなきゃ」
「立証したお子さんと親御さんは間違いなく怒られるでしょうけどね」
入試成績ナンバーワンとナンバーツーが堂々とサボっているのだ。
前代未聞であり、そもそも初っ端授業をサボるのは間違いなく怒られる案件である。
それでも気にしない二人は一緒にベッドに足を踏み入れ、アデルは横になり、エレシアは当たり前のように膝を揃えてアデルの頭を上に置いた。
「エレシアも寝ればいいのに」
「ふふっ、私の定位置はこちらですので。たまに入れ替わったりはしますが」
「んじゃ、今日は俺の番」
アデルの作ったベッドはふかふか。草や葉っぱも生み出せる限りの植物の中から肌触りがよいものを厳選しており、簡易的に作ったものにしては上質なもの。
見上げれば澄み切った青空が広がっており、柔らかい太ももの感触もあって大変心地よかった。
「そういえばさ」
「はい?」
「エレシアって膝枕が好きだよな。ことあるごとに要求してくるし、してくれるし」
ふと、アデルは疑問に思ったことを口にする。
「そうですね……私なりの愛情表現、でしょうか? 昔、よくお母様にされていたので、そこから習性になったのかもしれません」
「甘えん坊さんの習性ができたのは、なんとも可愛らしい理由なんだな」
「ふふっ、それはもちろん。私、母親っ子な女の子ですから」
エレシアは上品な笑みを浮かべながら、優しくアデルの頭を撫でる。
見上げるような形で眼前に端麗な顔が近づいているからか、その姿にアデルは思わずドキッとしてしまった。
「……いいのか、母親っ子? こんなところでメイドなんかしてて」
だからこそ、胸の高鳴りを誤魔化すようにアデルは口を開いた。
「順風満帆、魔法家系の神童、社交界では容姿も相まって引っ張りだこ。そんな女の子が、ある意味正反対な騎士家系……それも、恥さらしのメイドをやるってきた。今更言うが、それ以外に幸せな道なんていっぱいあったんじゃねぇの?」
なんでこんなところに、と。
アデルは少し眠気が現れてそのまま顔を横に向け体勢を変えた。
エレシアは少し考えるように天を見上げ、再びアデルへ視線を落とす。
「恩義だと思いますか?」
「違うのか?」
「恩義はいらないと言われましたのでそもそも感じておりません。私がここにいるのは、もっと違う理由ですよ」
優しい手つきはまるで温かく包まれているかのよう。
心地よい春の風も相まって、アデルはいよいよ瞼が重くなっていった。
「そんな、もんか……」
「はい、そんなもんです」
「……そっ、か」
いよいよ、アデルの口から寝息が聞こえ始める。
今見せてくれている寝顔はまるで子供のようで、普段のおちゃらけた雰囲気より随分可愛らしく見える。
───これがエレシアの特等席。
この顔を間近で見られるのは、自分だけ。家を飛び出したから味わえる幸せな席だ。
「本当に、これ以上の幸せがどこにあるというのですか……ご主人様」
エレシアは天へと顔を上げて目を閉じる。
その時、ふと何故か昔のことを思い出してしまった。
そう、初めてアデルと出会ったあの日のことを───
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