新しい(トップ)クラス
ねぇねぇ聞いて! あのね、なんと入試の成績が一学年の中でトップだったの!
今まで由緒正しいアスティア侯爵家らしくない毎日だったけど、これでようやく俺もお父さん達に胸を張ってアスティア侯爵家の人間だって報告が───
「できるかァッッッ!!!」
「ご主人様、モノローグでノリツッコミは誰もついていけませんよ」
クラス発表があり、ホームルームまでにそれぞれの教室へと向かわなければならない。
その道中、アデルは何故か胸を張るべき事柄に対してさめざめと泣いていた。
「そんなに嫌なの? 正直、一位なんてこの学園で取れたなら誇れるものだと思うのだけれど……」
アデルの顔を覗き込みながら、心配そうに尋ねるシャナ。
クラスも同じになったこともあって、三人で行動するのが自然となってしまったみたいだ。
「一位なんて……所詮は馬車馬切符の優先順番トップでしょう!? 俺はほしくもないし、最後尾でよかったの!」
「あなたが慕ってる人、本当に変わってるわね」
「ふふっ、それが愛らしくて可愛らしいのではありませんか♪」
見ない間にこの子も変わったなと、メロメロの友人を見てシャナは思った。
(でも、本当に気になるのよね……)
この学園には箔を求め、より一層の実力を求めるために才能ある若者が集う。
そのため、自然と同年代の中でも突出している者が多く在籍するようになり、その中で評価を得るのは至難だ。
シャナも自分自身で思うのもなんだが、同年代の中でも群を抜いていると思っていた。
まぁ、魔法家系エレミレア伯爵家の神童には負けてしまうとは思っていたが、そんなことよりも───
(まさか、エレシアより上がいたなんて)
会話を汲み取る限り、アデルは剣術の腕も立つらしい。
そうなれば、いよいよ滅多にいない魔法騎士としてのポジションを確立していることになる。
(魔法騎士の需要ってどれぐらいだったかしら? 確か、王国に一人しかいないって話だし、確実にどこ行っても引っ張りだこよね)
それぐらい、魔法騎士という存在は貴重だ。
魔法を扱うのも難しい、剣を扱うのも難しい。その中で、両方を磨き切るなどよっぽど戦闘の才能に溢れた人間でなければ困難。片方だけ磨けるだけの人が多いのが現状である。
故に、もしも話の流れが本当であれば───アデルがかの英雄『黒騎士』であるなら、是非とも良好な関係を築きたい。
(って、そうは言うけどこの人は政治権力云々の話は嫌がりそうね)
学生の身であるにもかかわらず、愛された戦闘の才能。
なんとも宝の持ち腐れだ、と。シャナは肩を竦めた。
「ごほんっ! な、なってしまったのは仕方ない……噂が落ち着いて炬燵で蜜柑を食べてもくれていない現状、学園を退学になるわけにもいかん。程よく頑張るとしよう」
アデルが咳払いを入れたと同時に『Sクラス』と書かれた表札のドアへと辿り着く。
そして、ゆっくりとその扉を開けた。
すると───
『『『『『……………………(ギロッ)』』』』』
皆の鋭い視線が一斉に集まったのであった。
「(あなたの嫌われっぷり、侮っていたわ……流石ね)」
「(ふふふ……一躍有名人にでもなった気分。サインを求める列でもできるか?)」
「(刺されそうな視線ですが、果たしてサインを求められるだけで済むのでしょうか?)」
恐らく……いや、朝の件を考えると、十中八九「なんで侯爵家の恥さらしが一位なんだよ」的な視線だろう。
一生懸命努力していたのに、無能だと馬鹿にしていた人間が自分達の上にいる。さぞ納得ができないはずだ。
『なんで、あの恥さらしが一位に……絶対に不正を働いたに違いない』
『エレミレア伯爵家の神童が俺達より順位が上なのは分かるけど』
『っていうか、なんでエレシア様が恥さらしと一緒に? まさか脅されてる?』
『シャナ様もいらっしゃるじゃないか……あいつ、何をしたんだ?』
見渡す限り、ざっと人数は二十名。
椅子の数と、遅れてきたこともあってこれ以上人数が増えることはなさそうなため、目視で確認できた人数がこのクラスの総勢だろう。
そして、その全員からアデルは注目を集めている。しかも、胸に刺さりそうな鋭い視線が。
(こういう視線は『黒騎士』騒動のギャラリーよりかはいいけど、注目度は変わらないっていうのが辛い……)
そんなことを思いながら、アデルは空いている席に向かって腰を下ろす。
隣で「すみません、席を譲ってくれませんか?」「いや、その……」「ユズッテクレマセンカ?」「あ、はい……」というやり取りが聞こえたものの、アデルは気にせず窓の外を見る。ちなみに、対面にはシャナが座った。
「ご主人様、もう少し椅子をくっつけてもよろしいでしょうか?」
「いや、充分近いだろ?」
「ですが、間隔が空いております……このままでは教科書の見せ合いっこができません」
「教科書、まだ配られてないがな」
「お弁当も食べさせてあげられません」
「お弁当、持ってきてないがな」
こっちはこっちでマイペース。
主人に視線が集まっても、主人Loveな行動は変えるつもりがないようだ。
その様子に、アデルは苦笑いを浮かべていると───
「あ、あのっ!」
ふと、エレシアの横から自分宛てに声がかかる。
気になって視線を向けると、そこには月と同じような煌びやかな長髪を靡かせる美しくも愛らしい少女が立っていた。
何事だろうか? ファンでもないだろうし、まさか真っ向からイチャモンを? などと、おずおずとしている少女を見て首を傾げる。
そして───
「サ、サインもらっていいですか!?」
「わぁお」
まさかのファンであった。
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