第5話 幸運席
「行くぞっ!! じゃーんけーん!!」
目の前で繰り広げられる壮絶なジャンケン大会。炎が舞い、水で消火され、大岩が落ち、風で砕かれ、光と闇は相殺していく。
すごいなあ、ただのジャンケンが大迫力だ。
「ふははははは!!!! 悪いな皆の衆、また俺の勝ちだ。幸運席はいただいたぜ!! いやっほぉおおおおおい!!!」
アカが勝ち名乗りをあげ、敗者は地に伏した。大笑いする1人と崩れ落ちた他者、この世の縮図みたいな構図だと思った。
いやこんな事でメッセージ性の強い場面を作らないで欲しい。
「クソっ!! 赤木の奴にしてやられた。超重量硬化グーで押し切る計画が、まさかパーで来るとは」
「なんて事だ、純水パーで全てを飲み込むはずがチョキで切り裂かれるなんて」
「これは私の誤算、暴風チョキがグーに負けるとはね。相変わらず策士ね」
「あー悔しい!! シャイニングーがパーに負けるなんて思わなかった!!!」
「うふふ……ダークネスチョキもグーの前には儚く……」
うーん、ちょっとクラスメイトに言いたいこともあるような気がするな。
「んじゃまあよろしくな、透」
「あ、うん」
僕の隣になったクラスメイトの成績が上がっていくという都市伝説のようなものが広まったのは入学してから1ヶ月ほど経過してからだった。
それが噂でなく、どうやら本当らしいと広まるのには1週間とかからなかった。
そこでクラスメイト間の不平等を是正すべく僕の席が毎日移動するようになった。だが、それは後に取引の対象となり秩序の崩壊を招きかねないという事態に発展した。
結果今のジャンケン大会は開催される事となった。これもまあかなりの不平等をはらんでいるけど、そこは教師が上手い事舵取りをして平均化をしてくれている。
景品にされている事については思うところがあるけど、正直に言うと僕をめぐって起こる争いを見るのは少し楽しい気もしてきた。
「いやー、今月はジャンケンの勝率が神がかってんな」
「今月だけで10回目でしょ。そろそろ飽きてきたんじゃない?」
「そんなわけあるかよ。今日も頼むぜ透」
「僕が何かしているわけじゃないよ。幸運席とか言っても大した効果はないからね」
「何言ってんだよ、効果があるからこんな事になってんだろが」
とか言っていたアカだけど。
「ぐー……」
授業中に寝てどうするんだ。これじゃあ眉唾の効果も本当に関係ない。強めに肩を叩いて起こす。
「んぁっ……」
一瞬の覚醒
「ぐぅ」
そして寝た。
「赤木!!」
「はいっ!?」
「堂々と寝るんじゃない」
「すんません……」
まあ、怒られるよね。
そんな事もありつつも午前の授業は終わり、昼の時間となった。
「透、メシ食おうぜ一緒に」
「あー、どうだろう。ななちゃんが来るかもしれないからなあ」
今日は水属性、学校内での距離感は遠い属性だけど、僕のところに来るかどうかは半々だ。
「いーだろ、お前とメシ食うとなんか美味いんだよ」
「美味しさは僕と関係ないと思うけど」
「いや本当だって。見ろよこのグラフ」
「グラフ? うわ、無駄にしっかりした作り」
「徹夜の力作だぞ!?」
「だから授業中寝てたのか……」
「細えこたあ良いんだよ、ほら見ろよここ」
「……『幸運席経験者に聞きました。透と一緒に食事したら美味しいですか?』アンケート?」
「おうよ、そして見ろよこの輝く100%」
「いやでもこれ半分以上アカじゃん」
「でも、残りのクラスメイトを居ないことにはしないよな?」
「まあ、それは、そうだけど」
アカのくせに理屈っぽいな。確かに、属性人類の食事にたいして僕が何か影響を及ぼすかと言われれば答えは“はい”だ。
僕の周りにある属性人類は安定化する。その結果として効率が良くなる。これは食事の吸収にも影響し、より吸収できるようになる。味が変わることはなくても食後の充実感が上がることはある。
これがおそらく、アカの言っている美味しいの正体だ。僕の、と言うより無属性人類の特性だ。それで褒められるのは、なんだか、少し寂しい。
「ま、なんにせよだ。もうちょっと仲良くしようぜ。姫が来るまでで良いからよ」
「分かった。せっかくだからおかず交換しようか。今日のお昼はお弁当?」
「おうよ、見ろこのラインナップ!」
「赤いなあ……」
アカの弁当は見事に真っ赤だった。火属性は辛味を好むけどこれはやりすぎだ。
「最強だろ。何食いたい? この唐揚げなんてオススメだぜ」
「最恐ではあるよ。でもいただこうかな。僕は出汁巻きを差し出すよ」
「トレード成立だな」
口から火を吹くような辛味に襲われたのは言うまでもない。
「ああ、そうだ。礼を言うのを忘れてたな」
「出汁巻きのこと? 良いよ別にトレードだし」
「違う、お前に救われたからなつい最近」
「……何の話?」
「食い終わったらちゃんと話す。暗い話じゃねえから安心しろ」
何の心当たりもない、嫌な予感がする。
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