第4話 朝の一幕
「……おはよ」
「おはよう、ななちゃん」
昨日散々僕を甘やかしたななちゃんが今日は水属性だ。水属性の青いななちゃんは低血圧気味でクールな感じ。
「お腹空いてる?」
「ん……あんまり」
「でも食べないともたないよ?」
「透が作ってくれたら食べるよ……ふわぁ」
眠そうだ。確か水属性のななちゃんが好きなのは。
「トーストとコーヒーだっけ、用意はしてあるからどうぞ。砂糖1個とミルクもある、トーストには柑橘類のジャムでしょ」
「完璧、ありがとね」
とぷんという音を立てて目の前からななちゃんが消えた。液状化して近づいてきたようだ。僕の足元に出現した水たまりからななちゃんの身体が再構成される。
「透、好き」
「はいはい、朝ご飯のお礼にしては熱烈だね」
「違う。朝ご飯のお礼じゃない。透のことが好きなのはずっとだよ。ねえ、結婚して」
「はいはい、今日もありがとうね」
「冷たい……。いつか分からせるからね」
「はいはい、さっさとトースト食べてね」
「むぅ……いただきます」
ゆっくりとトーストを食べ始めるななちゃん。水属性のななちゃんは食べるのが遅いから今のうちに色々と支度をしておこう。
「おーい、私にもコーヒーもらえる? 砂糖は3つで、ミルクはたっぷり入れて」
「クロコさん、なんでさも当然のように食卓にいるの?」
「あははは、細かいことは気にしない気にしない」
「……これで良いですか」
「ありがとーう」
クロコさんが来た時は何かある時だ。だが、それを察してこちらが甘い顔をするといけない。
たまにはいつもと違う対応をしなければ。
「じゃあ、ななちゃん学校行こっか」
「え、どうしたのそんなに急いで。別にもう少しゆっくりしても遅刻しないよ……?」
「良いから良いから。クロコさん、コーヒー飲んだら帰ってくださいね」
「ふーん、良いよ。分かった、今回は引き下がってあげる」
「それじゃあ行ってきまーす」
大急ぎで準備を終えて、ななちゃんの手を取る。水属性だから今日はひんやりとしている。
「積極的だね透、でもちょっと急だったから驚いた」
「ご、ごめん。クロコさんに邪魔されたくなくて」
「そう……まあ良いけど」
そっけない感じで返事をされた。けど僕は知っている。こういう時は髪を見ているとなんとなく本心が読める。
水属性のななちゃんの場合は、照れている時は水属性の髪に沸騰したように気泡が入り、本当に嫌な時は毛先がちょっと凍る。
今は……うん。ちょっと気泡がぽこぽこしているね。
「じゃあ行こっか」
「あ……」
手を離そうとしたら握り返された。まだ繋いでいたいみたいだ。
「手は、そのままで」
「分かった」
流石に教室に行くまでこれは恥ずかしいけど、ななちゃんがそうしたいなら仕方がない。
「よう、朝から熱いじゃねえか。今日の姫は水属性なのによ」
後ろから声をかけられた。この声は。
「なんだアカか、見せ物じゃないよ。行った行った」
「なんだつれねえなあ」
火属性のクラスメイト、赤木君だ。呼ぶ時はアカと呼べと言われている。
結構仲の良い友達だと言える。ちなみにななちゃんは学校で姫と呼ばれている。特別な子という意味だが、ななちゃんはあまりこの呼び名は好きではない。
「……透は今、僕のだから」
「盗りゃしねえよ姫、んじゃまた後でな」
手をぶんぶんと振りながら走って行った。なぜかたまにななちゃんとバチバチ火花を散らすタイミングがあるのはなんでなのかちょっと分からない。
「さあ着いたよ。離れて」
「うん、嫌だけど我慢する。じゃあまたお昼時間に」
ななちゃんが自分の教室に向かった。僕もまた自分の居場所へと向かう。
「ふはははははは!!! 逃げ切れたと思ったかね? 甘いよってあれえ!? もしかして見えてない?」
なぜか廊下にいたクロコさんをスルーして教室に入った。
「待ってたぜ透、大事な話といこうか」
クラスメイト全員がこちらを見ていた。
「……大事な話って?」
「今日は透が誰の隣に座るかって話に決まってんだろーが!!!」
これ毎日やるのやめてほしい、割と本気で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます