第3話 無茶振りの後
「疲れた……」
くたくたの身体を引きずって家に帰ってきた。クロコさんが持ってくる話はいっつも唐突なうえ、緊急性が高い。
なんで裏美術館に流れた国宝を僕に取り返させるんだ。
「いやあ、一声かけたら動いてくれる無属性人類なんて君くらいでさぁ。ははは」
確かに、確かに属性探知機が満載の場所に忍び込むなら適役だと思うよ。言ってしまえば無属性人類はその環境下であれば、ほとんど透明人間だ。
だからと言って、一般人をそんな国家級の案件に引き込むのはどうかと思う。そのことを率直に伝えたらすごく不思議そうな顔をして。
「え? 君が一般人? ははは、面白い冗談だねそれ」
だってさ。
クロコさんは僕を超人か何かだと思っている節がある。なんだろうあの、君なら大丈だよねっていう感じ。
必死で言われた事をこなしているだけなんだからもっと労ってくれても良いと思う。
「とはいえ、約束は守ってくれているから。お願いは極力聞かないといけないのがなぁ」
僕とクロコさんの約束。それは、本来であれば国に厳重管理されるはずのななちゃんを自由にさせておく裏工作。
在学した上で完全な管理下に置かれるはずを、かなりの自由が許されている。それはひとえにクロコさんがかなりの根回しと、便宜を図ってくれているからだ。
僕は僕で自分の身柄を含めた諸々を差し出してやっと成立した均衡状態だ。ここまでくるのに筆舌に尽くし難い苦労があったけど終わった事だ。
「ようやく帰ってこられた……」
扉を開けた瞬間、僕は自分の失敗を悟った。僕は今日帰宅が遅れることをななちゃんに言っていなかった。
加えて今日は火属性の日。
導き出される結論は。
「遅かったね」
腕組み待機のななちゃんが居るということ。髪が逆立っているからこれは結構な怒りを溜め込んでいる。
「あ、これは、その、クロコさん絡みで」
「そう、それで言うことは全部?」
「えっと、ただいま……?」
「おかえりっ!!」
ななちゃんが抱きついてくる。当然のことながら身体能力は僕などを軽く凌駕しているため受け止めることは難しく。押し倒されるような形となる。
「とおるっ!! 心配したんだぞ!! どれだけ心細かったか分かるか!!」
「ごめんね、本当に急で連絡できなかったんだ」
「いーや、許さない!! 罰を受けてもらうぞ」
「え、それはどういう」
「ふふふふふ、覚悟を決めろよ透。あたしの逆鱗に触れたからには無事に帰れると思うなよ」
「いやここ僕の家……」
「うるさいうるさいうるさーい!!! 良いから今日一日はあと言いなりになること。分かったな」
「裁判長、情状酌量の余地があると思います」
「ない、閉廷」
「司法の暴走だぁ」
「まずは風呂に行け、背中を流してやるから覚悟しろ。そのあとは温かい食事と、耳かきだ。あたしの高い体温で苦しむが良い。寝る前には全身をくまなく揉みしだいてやるからな。最後には添い寝で苦しめてやる。これに懲りたらもう勝手に遅くなるなよ!!!」
「……ちょくちょく連絡忘れようかな」
あまりにも甘やかしフルコースだ。
「透」
「はい」
「あんまり意地悪すると泣くぞ」
火属性のななちゃんが泣くと、熱の管理が甘くなって冗談抜きで家が焼けかねない。
「気をつけます……」
「よろしい。では予定通り刑を執行する。早く風呂に行くのだ。そうそう、透の好きな香りがする入浴剤入れといたからな。後であたしも行くから鍵はかけないこと」
「ななちゃん一緒に入るの?」
「今日それをすると、透を茹でてしまうから背中を流すだけにする」
前に一回風呂の温度が沸騰寸前までいって死にかけたことがある。流石に学んでくれたようでよかった。
ちなみに、それぞれの属性で5回以上僕は死にかけたことがある。ななちゃんとの生活は命懸けだ。
「じゃあ、行くね」
でもまあ、今の生活が悪いと思ったことはない。
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