第2話 無色の君

私、僕、あたし、ワタシ、わたくし、わたし、全部混ざって、全部自分、どれも本当で、どれも違う、わかっているけど、分からない。


そんなのを、よくもまあ、10年以上も続けてこられたものだと思う。


自分が何なのか、誰なのか、分からなくなってくる。記憶も曖昧になってきた、もう、誰が自分の大切な人なのかも分からない。


両親がいたのか、友人はいたのか、顔も名前も分からない。


私は誰?


僕は誰?


あたしは誰?


ワタシは誰?


わたくしは誰?


わたしは誰?


ぐちゃぐちゃになって、声がうるさくて、全部全部良く分からなくて、もうどうでもよくなった。


色んな人にいろんな事を言われたけれど。覚えていない。


自分のことも分からないのに、なんで他の人のことなんて考えられるんだろう。


そんな余裕、ないのに。


そろそろ終わりだと感じ始めた時、その瞬間は訪れた。


自分の大合唱が止んで、そして静けさがやってきた。静かで、自分のことがよくわかる時が、やってきた。


涙はとっくに枯れていたけれど、泣きたくなるほど嬉しかった。


これが自分だ。これが自分なんだ。


そう確信できた。


静けさをくれたのは男の子だった。


初めて、まともに人の顔を見た。胸の鼓動が跳ねる。一目で分かった、この子が運命なんだって。自分に与えられた最大で最後の希望、救い出してくれる光そのもの。


お返しをしてあげようと思った。周りの大人は好きな色になってあげると喜んでくれたから、好きな色になってあげた。


でも要らないって、色を合わせなくても良いって真っ直ぐにななを見て言ってくれた。それだけで、それだけで今までの人生全てが報われたような気がした。


まず一目惚れした、その後にまた、恋に落ちた。


透くん、愛してるよ。


その気持ちが彼に届くことを祈って、ななはまたプロポーズをするんだ。


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