何属性の私ならお嫁さんにしてくれますか?
@undermine
第1話 7色の姫
「あーもう!! どこ行ったの!!」
炎のようにゆらめく赤い髪を振り乱して、彼女は行く。
「ここか!?」
炎のように、というのは少し誤りだ。ように、ではなく。
炎なのだ。
ただの人類はその数を減らし、地水火風光闇のいずれかを宿した人類が幅を効かせるようになった。
「ここでしょ!?」
今までの人類は
そんな僕、
また間違えた。彼女は7属性持ちだった。
「……行ったかな」
「とーおーるーくーん……」
「うわっ!? 影に潜るのはやめてって言ったのに」
「えへへ……ごめんね、でもこうでもしないと見つけられなくって……、透くん気配ないんだもん」
彼女は類稀なる全属性持ちである事と引き換えにある病を患っている。
「火から闇に行ったら調子崩すでしょ? 水とかを経由すれば良かったのに」
「でも、すぐに会いたくて……ごめんね。自分で火の時は怒りやすくて、荒れてる時は危ないから離れてって言ってるのに追いかけて」
自分が表に出した属性に人格が引っ張られるらしい。さっきは火で激しい性格に、今は闇で大人しい性格に。感情の乱高下で精神が壊れかけていたらしく、国の偉い人が慌てた。
そこで無属性人類が持つ周囲の属性を安定化させる能力に目をつけ、同じ歳の僕が安全装置に選ばれたという事らしい。
そもそも属性安定化能力というのも初耳だったし、無属性人類が国家レベルでの保護対象だったのにも驚いた。何でも国際的な機密だとか。もちろん聞いてしまった僕に拒否権はないらしい。
確かに腑に落ちるところはあった。僕の周りは気分が落ち着くと良く言われていたし、属性を扱いきれない人も一緒にいれば上手くコントロールできる気がするって言ってた。僕個人の人徳だと思っていたのに、ショックだった。
そう言えば、初めて彼女に会った時は驚いた。全身がゲーミングレインボー状態だったからだ。色とりどりの属性が全身でグラデーションになって発露していた。顔も姿も分かったものではない、正直に言えば化け物だと思った。
でもそんな事はなかった。
「え、うそ、こんな……静かなの、はじめて」
「こんにちわ。僕は透って言うんだ。君の名前は?」
「六原、なな」
「ななちゃん、よろしくね」
僕が近寄って同年代の女の子に戻った化け物は泣いていた。
率直に言って、僕は●●と思った。
「と、とおる君」
「どうしたのななちゃん」
「えっと、えっと、とおる君は、何色が好き?」
「何色? そうだなあ、青っぽい緑色かなあ」
「そ、そうなんだ、頑張るね」
「頑張る?」
「ふぬぬぬぬぬ……!!」
目の前で変わっていく髪の色、水属性の青と風の緑が合わさって、青緑色が生み出されていく。
複合属性、極少数の選ばれたものにだけ許された絶技が、目の前に容易く行われていた。
「どう? これくらいが好きかな?」
雰囲気が変わった。これが症状なんだと分かった瞬間。僕はななちゃんの手を握った。
「君がそういう風にするなら、僕に好きな色はないよ。ななちゃんは、そのままのななちゃんで良いんだよ」
「え、でも、それじゃ、何も、できないよ」
ななちゃんの髪は白となっていた。たぶんこれが元々の色。厳密には白ではなく透明なのだろう。透き通り、何にもなれるがゆえの白色がここにある。
直感で分かった、今のななちゃんがオリジナルだ。それ以外の色になっている時属性に引きずられた人格なのだと。
「……透くん、好き」
「いや、それは気のせいだよ。ななちゃんは僕なんかよりずっと相応しい人と結ばれるべきだ」
嘘だよ。ななちゃんは最初に会った無属性人類が僕だっただけ。それで、一生を縛ることなんてできない。
それに、ななちゃんは●●。
そんな出会い方をした僕とななちゃんは、同じ学校に通っている。超が3つくらいつく名門高校に、国の推薦(強制)で入学させられたんだ。
周りは筋金入りの特権階級育ち、貴族制はないけれど、力ある者の貴族性は依然としてそのまま、正直息が詰まる環境だ。
「そろそろ時間だよ」
「えー、もう30分なの?」
「そうだよ、教室に戻って」
「仕方ないな〜」
ななちゃんはのそのそと動き始めた。30分か、思えば短くなった。半日以上隣にいなくてはならない状態から、今や1日30分の接触で問題なく活動可能になったんだ。すごい進歩だと思う。
「じゃあね、また」
「うん。またね」
ななちゃんの髪が赤くなる。今日は本来火属性の日だったからね。
ちなみにななちゃんは毎日、属性を選んで生活している。その日の気分らしいけど、これもコントロールの練習を兼ねているみたいだ。
「透、好きだ。あたしと結婚してくれ」
「はいはい、毎日飽きないね」
「本気なんだからな!! 冗談でも洒落でもないんだぞ!!」
「はいはい考えとくよー」
そして、ある時から、ななちゃんは毎日僕にプロポーズしてくるようになった。
「気の迷いだって言ってるのに」
「いーや、お前はあたしの運命だ。絶対に首を縦に振らせてやる」
「はいはい、時間だよー」
僕は色付きのななちゃんから言われるプロポーズは全部断る。白いななちゃんが、正面から言う時があれば、その時に本気の答えを返そう。
「お、覚えてろよー!!」
ななちゃんは顔を赤くして走っていった。
「いやー、青春してるねー? いや青どころか7色の春かな?」
後ろから声をかけられた。僕とななちゃんを担当している国家公務員のクロコさんだ。公安だとか、国際属性連盟の下っ端とか、聞くたびに肩書きが変わる人なのでおそらく偽名だろう。
一応高そうなスーツ姿だけはいつも変わらない。
「今日は何の用ですか、国家公務員は暇なんですか?」
「暇だよー? 今日もここ来られるくらいにはね。これからも私が暇で居られるように少しお手伝いをお願いしたいんだけど」
「今度は何ですか、いつかみたいに拉致は嫌ですよ」
「ちょっと美術品盗んでくれないかな」
「何言ってるんですか?」
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