エンディング(完)
「この世界の日常会話で"ザマァ"って言わないことって、ほぼないよなー」
ヨシタケが王の座についた、十年後。
ヨシタケはザマルタの教会の横で、畑仕事をしていた。前世から持って帰ってきた苗を育て、実った野菜や果物を市場で売り、生計を立てているのだ。
……王の給料があるだろうって?
そんな金は、九年前からもらっていない。
「当たり前でしょ、パパ」
ヨシタケのとなりでトウモロコシを食べている少女はモシャモシャと口を動かし、ヨシタケを見上げた。
「みんな、名前に"ザマ"や"ザマァ"がついてるし、魔法を使う時は〈ザマァ〉って唱えるんだもん。ザマァを言わないなんて、無理だよ」
「だよなー。ザマリアは賢いなー。さすが、ノストラ塾ナンバーワンの秀才」
「そんな普通のことで褒められても嬉しくなーい」
ヨシタケは前世から戻った後、ザーマァ王から王位を受け継いだ。仲間もそれぞれ国の要職につき、共に国のために一年だけ働いた。
ノースフィールドをはじめ、ザマンに滅ぼされた街の復興。
不当な扱いを受けている転生者への補助と、彼らに対する偏見を無くす運動。
そして……最後に王政を廃止し、国を民主化させた。
「ザーマァ王も王になる前は、ただの一般人だったんだろ? だったら、もう民主制でいいじゃん。選挙管理委員会立ち上げるからさ、トップになりたいやつは誰でも立候補してくれよな」
「延期なさっていた、エリザマス姫様との婚姻はどうなさるのですか?!」
「向こうも乗り気じゃなかったし、白紙でいいだろ。大丈夫! あいつには命をかけてでも守ってくれる、心強ーい元騎士団長様がいるから!」
王政の廃止により、エリザマスは王族ではなくなった。
現在はノースフィールドへ移り住んだザマスロットと結婚し、幸せな日々を送っている。いきなり平民になって苦労しているかと思いきや、「城での窮屈な暮らしより合っている」と喜んでいた。
彼女の夫であるザマスロットはというと、街の復興を手伝った縁から、ノースフィールドの市長になった。市民の意向により、街の中心には「エリザマス姫を守った騎士」として、銅像まで建てられた。
現在では王国の首相に選ばれ、ヨシタケに代わって国を治めている。
ザマスロットの部下二人も、それぞれの道へ進んだ。
パロザマスは元いた騎士団の教官に、メルザマァルは各地を回る魔法医師となり、世のため人のため、懸命に働いている。
一方、ヨシタケの仲間達は王都に居着いた。
ザマビリーは王都の衛兵。気さくで庶民的な性格から、市民に人気らしい。
よくパロザマスと練習試合をしているそうだが、いつも途中からガチの殴り合いになる。試合が終わっても険悪なままだが、一日の終わりには酒場で仲良く呑んでいる。仲がいいのか悪いのか、なんとも不思議な関係である。
故郷のウェスタンタウンは、ザマビリーの評判と特異な街の雰囲気から、遠方からも人が集まる観光地となった。最近では、スタレチマッテル遺跡から歴史的に重要な遺産が発見され、さらなる注目を集めている。
ノストラは、王都に「ノストラ塾」なる魔法学校を作った。子供からお年寄りまで、格安で魔法を教えてもらえる塾だ。ヨシタケの娘・ザマリアも、彼の教え子である。メルザマァルも王都に戻ったときは、特別講師として教えに行っているらしい。
結局、ヨシタケが持ち帰ったラノベに一番ハマったのはノストラだった。習得した異世界転移術を使い、世界中のあるとあらゆるラノベを集めている。
十年経った今でも、ノストラの好きな人は不明なままだ。関係あるかは分からないが、最近メルザマァルがノストラからもらった指輪を薬指にはめるようになったらしい。
ヨシタケが「ノストラと婚約したのか?」と尋ねると、
「……呪いで取れなくなっただけよ」
と、睨まれた。
実際には、指輪は呪われてなどおらず、メルザマァルも嬉しそうに指輪を眺めていた。
ダザドラは「ヨシタケのそばにいたいから」と、一緒に住んでいる。ヨシタケが作った野菜や果物を売る際、市場まで運んでもらっている。
ヨシタケ以外の依頼も請け負っており、遠方への配達や移動など、毎日いそがしい。なお、給料は金ではなく、肉で支払ってもらっている。
師匠であるザマァーリンはヨシタケが異世界へ戻ってきた後、姿をくらました。
ノストラいわく、「世界の観測者としての責務に戻った」らしい。この世界に新たな脅威が迫った時、彼女は再び勇者の前に姿を現すのだろう。その勇者はヨシタケかもしれないし、ヨシタケじゃないかもしれない。
ザモーガンは未だ、行方不明だ。この世界にいるかどうかも怪しい。
彼女もまた、ザマァーリンの目を盗み、次の魔王になりそうな人間を探しているのかもしれない。
「二人とも、収穫終わった?」
ヨシタケとザマリアがオヤツにトウモロコシを食べていると、教会からザマルタが出てきた。
ザマリアは彼女と顔がそっくりだった。
「終わったー」
「ママもトウモロコシ食べる?」
「せっかくだし、もらおうかな」
ザマルタはヨシタケがエリザマスとの婚約を解消した後、ヨシタケと結婚し、ザマリアを授かった。
現在も教会のシスターとして、冒険者の治療やモンスターの駆除などを請け負い、森の治安を守っている。盾に変えたエクスザマリバーの鞘が相当気に入ったらしく、剣と共に鞘をザマヴィアンに返した後は、それに近い重さと性能の盾を購入し、愛用している。
「そうだ、パパ。この前ノストラ先生に教えてもらったんだけど、"プギャー"の意味って知ってる?」
「え、知らない」
「たしか、ザマンを倒す呪文の一つでしたよね? 知らないままザマンを倒しちゃったんですか?」
「うん。ザマルタさんは?」
「私は"プギャー"という言葉そのものを知らなかったので……。ザマリアちゃん、パパとママに教えてくれる?」
ザマリアは「あのね、」と得意げに答えた。
「意味は"ない"んだって。"無価値"とか"存在している理由がない"とかって意味らしいよ。古代ザマァール語において、最大限の"ぶじょく"を表すんだって。ぶじょくがどういう意味かは分かんないけど、とにかくひどい言葉だったから、使うのがダメになって、だんだん忘れられていちゃったんだって」
「つまり、ザマァと合わせると"力を抹消する"って意味か? おっかねぇなぁ。誰かは知らねーけど、そんな言葉を教えるなよなぁ」
「ザマリアちゃんも、危ないから使っちゃダメよ?」
「はーい」
ザマリアは素直に手を挙げる。
後に、新たな魔王が王国に現れたとき、勇者となったザマリアがその呪文を唱えるのだが……まだザマァーリン以外の誰も、その未来を知らなかった。
「……今は平和に生きるといい。いずれ、次の災厄が近づいたときに会おう。それまではしばしの別れだ、ヨシタケ君。私がかつて愛した人の、生まれ変わりよ」
ザマァーリンは空から幸せそうな三人の顔を見て、寂しげに笑った。
青年がコンクリートの街をつまらなさそうに歩いていると、奇妙な格好をした女……ザモーガンに話しかけられた。
「ねぇ、君。魔王になってみない?」
「魔王?」
青年は闇をたたえた瞳を細め、ニタリと笑った。
「面白そうだね。いいよ、なってあげる」
「では……来世で」
ザモーガンは杖を振り上げ、青年の頭上へトラックを落とした。
(「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界・完)
「ざまぁ」が攻撃スキルの異世界 緋色 刹那 @kodiacbear
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