最終章「ザマァは未来を変える? ざまぁ!」⑶

「はァ? ラノベですって?」


 エリはヨシタケの想像どおり、ラノベに対する嫌悪をあらわにしたが、


「って、ヨシタケ君が書いたの?!」

「嘘だろ?!」


 ヨシタケが出した本という驚きのほうが勝り、声を上げた。

 ランスも驚き、「ちょっと貸せ!」とヨシタケからラノベを奪い取る。エリも横から覗いた。


「本当! 表紙に、狭間ヨシタケって名前が書いてあるわ!」

「ザママ文庫……大手のメジャーレーベルじゃねぇか! イラストは座間ざまZAMA子先生だし! しかも、ザママ大賞受賞?! ありえねぇ……」


 ランスはラノベ事情に詳しかった。

 エリも途中から違和感を覚えたのか、ランスに対し、宇宙人でも見るような眼差しを向けていた。


「……ランス君、ザママ文庫って何? 私、見たことも聞いたこともないんだけど」

桶狭間おけはざま出版社から出ている、ラノベレーベルだよ! ラノベヲタなら誰でも知ってる! 常識さ!」

「ラノベヲタなら、ねぇ……」


 エリのテンションは、


「その、座間なんとか先生のことも、ラノベ好きにとっては常識なの?」

「当然! 元は同人作家で、当時からのファンの読者も多いんだ! 俺も同人で知ってね、いつか俺が書いたラノベのイラストを描いてもらいたいと思っているんだよ〜」

「へぇ……」


 徐々に、


「……ランス君もラノベ、書いてるんだ。ヨシタケ君と同じ、ザママ大賞っていうのに応募したこともあるの?」

「あるどころか、中学生の頃から投稿し続けているよ! 毎回、一次選考落ちだけどね! でも、よその賞に応募する気はないよ! ザママ大賞を受賞したら、賞金五百万とラノベ作家デビューが確約されるからね! 売れれば、印税もガッポガッポさ!」

「へぇ、スゴーイ……」


 確実に、下がっていった。

 しかし、賞金の額を耳にした瞬間、


「五百万?!」


 と、下がっていた彼女のテンションが、一気に上がった。

 すかさず、大賞を取ったヨシタケに詰め寄る。


「ヨシタケ君、もう賞金使っちゃった?! 私、ちょうど欲しいと思ってたバッグがあるんだけど!」

「ごめん。エリが大嫌いなラノベでもらったお金なんて、君には使えないよ」

「そんな! 私、お金……じゃなくて、ラノベに偏見なんて持ってないわ! 大賞とか作家デビューとか、よく分かんないけどすごいと思う! だから気にしないで、買って!」

「俺じゃなくて、ランス君に買ってもらえばいいじゃないか。いい時計してるし、服はブランドものだし、お金持ちなんじゃないのか?」


 ランスはハッと青ざめる。

 「それが……」とエリは残念そうに言った。


「ランス君、私との結婚費用を貯めてくれてるから、自由に使えるお金がほとんどないの。今身につけてる服や時計は、お父様からいただいたんですって。でも、ずっとお金がないわけじゃないのよ。ランス君のご両親は資産家でね、いずれランス君が会社を継ぐことになっているの」

「もしかして……泉谷って、泉谷グループの? すごいじゃないか! でも変だなぁ、今の社長に息子がいるなんて聞いたことないけど」

「……え?」


 ランスに続き、エリも青ざめた。ヨシタケの予想通り、ろくにランスの素性を調べもせず、羽振りの良さだけで信じていたらしい。

 ヨシタケは不思議そうに、首を傾げた。


「あれ? 彼女なのに知らないのか? 泉谷社長には娘さんしかいないんだぞ? 俺、社長と直接会ったことあるから知ってるんだよね」

「か……隠し子なのよ。社長もランス君の存在を知らないのよ、きっと。そうよね?」

「あ、あぁ。そう、かも?」


 ランスはエリから目をそらし、頷く。まだ真実を話す気はないらしい。

 ヨシタケは「じゃあ、これも知らなかったりする?」と続けて暴露した。


「俺の知り合いがさ、ラノベ作家目指している彼氏に六股かけられてたらしいんだよ。知り合いはそいつに生活費も結婚費用も全部貢いでたのに、六股のこと問い詰めたら"お前は俺のハーレムにはいらない"って、マンションのベランダから突き落とされたらしいぜ? 相手は、ランスと同じ名前のクソ野郎らしいんだけど、すっごい偶然だよなぁ」

「……」

「……」

「そういや、そいつも泉谷グループの御曹司だって名乗ってたらしいぞ。同じことを考えるやつは他にもいるんだな! はっはっはっ!」


 直後、ランスはその場から逃げ出した。

 エリも遅れて追いかける。ヒールのある靴を履いているとは思えないほど速かった。


「待ちなさい、ハーレムクソ野郎! 私のお金、返せ! 詐欺罪で訴えてやる!」

「ひ、ひぃぃ……!」


 エリがラノベ嫌いになったのは、エリの高校時代の彼氏が「ラノベのハーレムものに憧れてるから」という理由で、エリのほかに彼女を作り、二股したことが原因である。

 ヨシタケはそのエリの過去を利用した。エリがこれほどまでに金に執着しているとは予想外だったが、ランスも元カレの同志である以上、許しはしないだろう。


「ハーレムものにしなくて良かったー。せっかくデビューしても、エリに嫌われちゃ意味ないもんなー」


 ヨシタケは二人を追わず、スマホで時間を確認する。


「そろそろだな」


 次の瞬間、エリとランスは居眠り運転かつスピード大幅オーバー中の大型トラックにノーブレーキではねられ、仲良く宙を舞った。今日は雲一つない快晴で、オレンジの朝焼けと空の青のコントラストが美しかった。

 二人は大量のゴミ袋が積まれたごみ捨て場へ頭から落下し、腰までずっぷりと突き刺さった。


「くっさッ! くっさぁッ!」

「トラックにはねられた先がゴミ捨て場って、どんな確率よ?!」


 二人は身をよじり、慌ててゴミ捨て場から脱出する。

 ヨシタケがよく知っている通り、今日は生ゴミの日だ。二人の体からは生臭い臭いや酸っぱい臭いがした。それぞれ頭の上に、フタが開いた納豆のパックと、潰れて腐ったアンパンが乗せていた。


「ハーレム好きの詐欺師が彼氏なんて、最悪! 金輪際、私の前に現れないで! 電話もメールもSNSも禁止だから! 一瞬でも近づいたら、ストーカーとして警察に届け出るからね!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ、エリ! 全部、あいつの出まかせなんだって!」

「だったら、逃げる必要ないでしょ! もうだまされないから!」


 二人は生ゴミにまみれ、言い争う。

 ヨシタケは両手で二人を指差し、最高に人をムカつかせる顔で笑った。


「最終関門、突破。〈ザマァ〉www」


 つい、呪文を口にする。

 当然だが、何も出なかった。






 五分後、魔法陣が再び輝き、大荷物を抱えたヨシタケとザマァーリンが戻って来た。


「ただいまー! ラノベ、いっぱい持って帰ってきたぞー。ノストラ、これで信じ……」


「「「「おかえりー!」」」」


「おぁッ?!」


 帰還早々、仲間達とエリザマス、釈放されたザマスロット、パロザマス、メルザマァルに押し倒される。

 前世の復讐で荒んでいたヨシタケの心が、たちまち和らいだ。


〈第10章 戦況報告〉

▽王都へ到着!

▽ザマスロット、パロザマス、メルザマァルが衛兵に連れて行かれた……。

▽王からメインクエストの報酬を受け取った!

▽ワールド限定メインクエスト「前世でやり残したこと」をクリア!

▽前世に残りますか?

▽いいえ

▽本当に戻りますか?

▽はい

▽ヨシタケは来世へ帰還した!

▽ザマルタが何か言いたそうに、こちらを見ている……?


Happy End.

(エンディングへ続く)

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