最終章「ザマァは未来を変える? ざまぁ!」⑴
「よくぞ、ザマンを倒してくれた! 勇者ヨシタケとその仲間達……ダザドラ、ザマルタ、ザマビリー、ノストラよ! 全ての国民を代表し、礼を言わせて欲しい! 誠に大義であった!」
ヨシタケがザマンを討伐し、王都へ戻ってきた翌日。
ヨシタケはパーティの仲間達と共に、ザーマァ王のもとへ報告に訪れていた。エリザマスも王の隣に座り、集まった臣下達と共に拍手を送る。
ザマスロット達はいない。王都に着いて早々、衛兵に捕まった。ヨシタケ達とエリザマスが「彼らも共に戦った仲間だ」と説得したが、聞き入れてもらえなかった。
「なお、捕縛したザマスロット一味は明日、処刑されることが決まった。これで闇の〈ザマァ〉による脅威は、完全に去ったと言えよう。諸君らも安心して、日常へ戻るが良い」
ザーマァ王はファッファッファと笑う。
その横で、エリザマスは悲しげに目を伏せていた。
ヨシタケは彼女の顔がエリと重なり、なんとも言えない気持ちになる。他のメンバーも素直に喜べなかった。
「さて、諸君らには褒美を渡さねばな。あのザマンを倒したのじゃ、何でも申すが良い」
「……何でも?」
途端に、ヨシタケ達の眼光が鋭くなった。
ザーマァ王は「うっ」と思わず息を呑む。
「今、何でもって言いました?」
「お、おぉ。言ったぞい」
「本当に、何でもいいんですか?」
「う、うむ。儂の権限で叶えられる範囲でじゃが」
「王の権限かぁ……それならギリギリ叶えられるなぁ」
「儂でギリギリって、どんなとてつもない願いを言うつもりじゃ?」
「念のためだが、"やっぱなし"は無しだからな。嘘だったら暴れるぞ」
ダザドラがクワッと威嚇すると、ザーマァ王は悲鳴を上げた。
「嘘はついておらん! 頼むから、暴れんでくれ!」
王に再三確認したところで、ヨシタケ達は「じゃあ、」と目配せし、一斉に願いを口にした。
「「ザマスロットの」「パロザマスの」「メルザマァル先輩の」釈放で」
「ぬ、ぬぁにぃッ?!」
王の間がざわつく。
エリザマスも口に手を当て、驚いていた。
「お、お主ら……自分達が何を言っておるのか分かっているのか?! 奴らはお主らを謀った国賊じゃぞ?! 特にザマスロットは自ら闇の力を求め、ザマンの手先となったというではないか! そんな大悪党共に、本当に恩赦を与えると言うのか?!」
ザーマァ王の言い分は至極、真っ当だった。いくらヨシタケ達に力を貸したとはいえ、許される罪ではない。
それでもヨシタケ達は「当然」と頷いた。
「あいつらは一緒に戦った仲間っす。あいつらがいなかったら、俺は安心してザマンを倒しに行けなかったっすよ」
「悔しいけど、メルザマァル先輩がいたからザマンと姫様の居場所が分かったし」
「俺とノストラだけだったら、姫様は牢から出て来なかっただろうなァ」
「パロザマスさんとメルザマァルさんが持ってきてくださったエクスカリバーの鞘、すごかったんですよ! 盾に変えたら、闇の鎧を一発で砕けたんです!」
「ザマスロットは自ら降伏し、ザマァロンダイトを手放した。我らが敵と戦っている間も、そのへんに転がっていたヒノキの棒を駆使し、エリザマスを守っていた。我と同じ咎人ではあるが、奴は立派な戦士だ。我ら同様、奴らにも褒美をやるべきではないか?」
「私からもお願いします」とエリザマスは立ち上がり、祖父に頭を下げた。
「ザマスロットがザマンの手先になったのは、私のせいです! ザモーガンが私になりすまし、ザマスロットをけしかけたから……!」
「……その話はもう良い。ザマスロットのお前に対する忠義は、充分理解しておる」
ザーマァ王は「はぁ」と深く息を吐いた。
「……叶えぬと、そこのドラゴンが暴れるのじゃろ?」
「あぁ。国中の肉を喰らい尽くしてやる」
「ならば、仕方あるまい。当事者であるお主達が許すと言うのなら、儂も許そう。ザマスロット、パロザマス、メルザマァルの釈放を許可する」
ヨシタケ達は「よっしゃー!」とガッツポーズした。
「王様、分かってるぅー!」
「やっりぃー!」
「姫様、良かったですね」
「はい! ありがとうございます、皆さん。お祖父様」
エリザマスも涙を浮かべ、喜ぶ。
何も知らない臣下達はどよめき、ザーマァに詰め寄った。
「ザーマァ王、本気ですか?!」
「王権で処刑を取り止めるなど、前代未聞ですぞ?! 民衆が黙っておりますまい!」
「……それが彼らの望みだ、やむを得ん。どちらにせよ、儂は近々隠居する身じゃ。少々のわがままは見逃してくれ」
「えっ? ザーマァ王、隠居するんすか?」
ずいぶん急な話だった。まるでヨシタケ達が帰ってくるのを待っていたようなタイミングだ。
ザーマァ王は「まぁの」とヨシタケを見て言った。
「先代の勇者と約束したのじゃ。ザマンを倒した勇者を次の王に選ぶ、とな」
「…………俺ェッ?!」
ヨシタケは自分で自分を指差した。まさか自分が王になるとは予想もしていなかった。
仲間達も「マジかよ?!」「本当に?」と驚き、ヨシタケを振り返る。エリザマスは知っていたらしく、顔を曇らせていた。
「本来、ザマンを封じた先代の勇者が王になるはずじゃったのだが、彼はザマンを封じた際に亡くなってしまってのぅ……仕方なく、代わりに儂が王をやっとったんじゃ。これで肩の荷が降りたわい」
「いやいやいや……俺、王なんてやるタイプじゃないっすよ! 今まで通り、ザーマァ王が王やっててくださいよ!」
「じゃけど儂、明日から一ヶ月海外でバカンスするつもりでおるんじゃが? なに、分からないことや困ったことがあれば、そのへんの臣下に訊けばよい」
「だったら、エリザマス姫が女王になった方が良くないっすか? 王の仕事とか作法とか、俺よりずっと知ってるっしょ?」
「エリザマスはうぬの妃じゃ。王にはなれんよ」
ヨシタケは「ひょぇッ?!」とさらに驚き、飛び上がった。
仲間達……特にザマルタはショックを受けた様子で、青ざめていた。
(け、け、結婚?! お、俺が? エリにそっくりな姫と? 冗談だろ?!)
ザーマァ王はヨシタケが喜んで飛び上がったと勘違いし、「喜んでもらえたようで何よりじゃわい」と笑っていた。
「釈放が決まったとはいえ、咎人のザマスロットではエリザマスの夫には相応しくないからのう。ザマスロットが指名手配された時点で、ヤツとエリザマスの婚約は解消させたんじゃ」
「……ちなみに、辞退は?」
「できぬ。勇者であるお主以上の夫など、この国にはおらぬからな。同じパーティのザマビリー殿とノストラ殿で限界じゃ」
ヨシタケが二人に視線を向けると、二人とも必死に首をブンブンと振った。
「僕、やだよ! 他に好きな人いるもん!」
「まだ女神のこと諦めてなかったのかよ?」
「……違う。別の人」
「い、いつの間に?! じゃあ、ザマビリーは?」
「俺だって、まだ独身でいたいっつーの! そもそも姫様の目ぇ、見てみ? 拾ってきた子犬みてぇに怯えてるっしょ?」
「……確かに」
エリザマスはザマビリーが候補に上がった瞬間、涙目でぷるぷると震え始めた。
最初に牢で会った時よりは慣れたようだが、未だにザマビリーが怖いらしい。ザマビリーと目が合うと、小さく悲鳴を上げた。
(……エリザマスは知っていたんだな。ザマスロットと結ばれることはないって。だから、あんなに顔が暗かったんだ)
ザマスロットとエリザマスが互いを想い合っていることは、雰囲気でなんとなく察していた。
王都に帰るまでの道中、二人はとても幸せそうだった。
(俺達がザーマァ王に頼めば、全部丸く収まるかと思ったけど……そう簡単にはいかねぇか)
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