第9章「真・魔王城へ、ざまぁ!」⑷
ヨシタケは仲間が誰も来ない怒りと悲しみをぶつけるように、エクスザマリバーを振るう。
エクスザマリバーの強烈な斬撃はザマンがいる玉座の間の壁を破壊し、文字通り開放的な部屋へと一変させた。
「ザマン! 俺が来てやったぞ! どこに隠れてやがんだ?!」
ヨシタケは部屋へ足を踏み入れ、ザマンに呼びかける。
玉座の間と聞いていたが、それらしい椅子は見当たらない。ヨシタケが破壊した壁のガレキが、部屋中に散乱している。怪しい雰囲気を作り出していた燭台は、ヨシタケが壁を破壊した勢いで、炎が消えてしまった。
警戒しながら部屋へ入ると、「むぎゅっ」と足の下から声が聞こえた。
「ん? 何か踏んだか?」
足を持ち上げると、黒いシャレコウベがガレキの下敷きになっていた。壁ごとエクスザマリバーに斬られたらしく、半分に割れている。玉座らしき残骸も、一緒に下敷きになっていた。
半分になった黒いシャレコウベはカタカタとアゴを動し、不気味な声で喋り出した。
「お、おのれ……壁を破壊して入ってくるなど、卑怯な! 城のあちこちに鍵のありかを示す謎が仕掛けてあっただろうが! 脳筋か、貴様!」
「うぉっ?! 喋った! ザマンのオモチャか?!」
「オモチャではない! 我こそがザマンである!」
「え、マジで?」
ヨシタケはブハッと吹き出した。
「どんなすげー魔王が出てくるかと思ってたら、ただのガイコツじゃねぇか! びびって損したわー。〈ザマァ〉(笑)」
「ぐぁあッ!」
エクスザマリバーから光の〈ザマァ〉による光線が飛び、ザマンに直撃する。
ザマンはよほどショックだったのか、ビリビリとしびれていた。
「わ、我とて好きでこのような体になったのではない! 度重なる人類との戦いで、体が闇の力に蝕まれたのだ! 全て、貴様ら人間のせいだ! 〈ザマァ〉!」
今度はザマンの口から闇の〈ザマァ〉が放たれる。
不意打ちの一撃に、ヨシタケは世間話でもするように、冷静に返した。
「でもさー、その戦いを始めたのはお前だろ? 自業自得じゃん。〈ザマァ〉」
「ぐはッ!」
「まぁ、分かるよ? ザマスロットもザモーガンにだまされて、あぁなったし? けど、体が無くなるほど使うかね、フツー? いくら正気じゃないからって、さすがにやべーって気づくだろ。〈ザマァ〉」
「確かにッ!」
ザマンの攻撃は光の〈ザマァ〉によって防がれ、倍になって返る。
ザマンの顔は横にも割れ、四つになった。
「き……貴様にはモブの気持ちなど分からんよ。勇者としてこの世界に転生し、何から何まで至れり尽くせりだった貴様にはな」
「至れり尽くせりじゃねーし。めっちゃ苦労したし。ってか、初っ端に死にかけたし」
「……我の苦労に比べればマシだ。せっかく異世界へ転生したというのに魔法は使えんし、鉱山で毎日ジェム掘りさせられるし、重労働で低賃金だし! ラノベの内容など、全部嘘っぱちだ! 何の能力も持たないモブが、正攻法で下克上できるわけがない! 同じブラック企業でも、前世の方が遥かにマシだった! 戻れるものなら、戻りたい!」
「ラノベ? ブラック企業? 前世?」
懐かしい言葉だった。
前世はともかく、"ラノベ"と"ブラック企業"は、この世界に転生してから一度も耳にしていない。当然だろう、この世界にはラノベもブラック企業も(それに近い職場はあるかもしれないが)存在しないのだから。
この世界に存在しない言葉を知っていたということは、つまり……。
「お前……もしかして、俺と同じ転生者なのか?」
「そうだ」
ザマンは四つに割れたシャレコウベをカタカタと震わせ、肯定した。
「我やお前だけではない……この世界には、数えきれないほどの転生者がいる。この世界の連中は優秀な者だけを"転生者"として認めておるがな。我も転生者だと打ち明けたが、そのたびに"お前のようなモブが転生者のはずがない"と笑われたよ。何の力も持てなかった我は、闇の〈ザマァ〉にすがるしかなかった」
ザマンはポッカリと闇で満たされた眼窩をヨシタケに向けると、とうとつに提案した。
「ヨシタケと言ったな。お前、我と共にこの世界を変える気はないか?」
「……え?」
「全ての転生者が損をしない、新しい世界だ。前世の苦労が報われ、思い通りに生きられる……そんな楽園のような世界に、変えたいとは思わんか?」
思ってもいない誘いだった。
声の感じからして、嘘を言っているようには聞こえない。方法はどうあれ、転生者のために世界を変えたいという思いは、本物らしい。
「……転生者が優遇される世界になったら、元々住んでいた連中はどうなる? ザーマァ王やエリザマス姫、俺や他の冒険者パーティ、騎士団、プロフィポリスの賢者や魔法使い……それに、今まで何不自由なく暮らしてきた国民は?」
「残るのは真に優秀な人材だけだ。ほとんどの者は、転生者に全てを明け渡すことになるだろうな。安心しろ、貴様は信頼するに足り得る転生者だ。王でも、騎士団長でも、大魔法使いでも、自由気ままにスローライフを送る農民でも、なんでも好きな職を選ぶがいい」
「……」
ヨシタケは数秒の沈黙ののち、答えた。
「断る」
「なにっ?!」
ザマンは割れたアゴを、あんぐりと開く。
「なぜだ?! 何が不満だというのだ?!」
「だって俺、お前を倒さねぇと一生エクスザマリバーを持ち歩く羽目になるんだよ。こんな危なっかしーもん持って、スローライフを満喫できると思うか?」
それに、とヨシタケは仲間達やザマスロット達、今までこの世界で出会った人々の顔を思い浮かべた。
「この世界はあいつらのもんだ。よそ者の俺達が勝手なことしちゃマズいだろ? 他の転生者達の待遇は、俺からザーマァ王に頼んで改善させる。姫とザマスロットのことで貸しもあるし、今なら何でも言うこと聞いてくれるって」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ザマンは悔しそうにうなると、「ザモーガン!」と腹心の臣下を呼んだ。
「ザマスロットを呼び戻せ! こやつを始末させるのだ!」
「ザマスロットもザモーガンも来ないと思うぞ? ザマルタ達に足止めさせてるから」
「お呼びでしょうか?」
「うわ、来た」
ヨシタケの予想は外れ、ザモーガンがテレポートしてきた。
ダザドラの炎の〈ザマァ〉のせいで、髪はチリチリのアフロヘアーに、服はすすけてボロボロになっている。手にはヒビの入ったザマァロンダイトが握られていた。
「夢で見たのと印象が違うような……イメチェンした?」
「えぇ! 坊やが飼ってるクソドラゴンのせいでね!」
ザモーガンはキッとヨシタケを睨み、ザマァロンダイトを振るう。
ヨシタケはザモーガンから距離を取り、エクスザマリバーを構えた。
(そうか……あいつら、失敗したわけじゃなかったんだな。良かった)
「ザマスロットは闇から解放されました。エリザマス姫も牢から逃げ出したようです。モンスターと兵達に二人を捕らえるよう命令しましたが、向こうの戦力が上回っており、苦戦を強いられています」
ですので、とザモーガンは杖をザマンに向け、闇の〈ザマァ〉を放った。
「ヨシタケの始末は、ザマン様自らお願いします。ザマァロンダイトがあれば、ザマン様は無敵ですよ。〈ザマァ〉」
闇の〈ザマァ〉は黒煙となって、ザマンを覆い尽くす。四つに割れたシャレコウベは黒煙に持ち上げられ、フワリと浮き上がった。
やがて煙はザマスロットも着ていた漆黒の鎧へと形を成し、ザマンの代わりの体となった。本体であるシャレコウベは兜に覆われ、守られた。
「残念だ、ヨシタケ。貴様となら同じ未来を歩めると思うておったのにのう」
ザモーガンからザマァロンダイトを受け取り、切っ先をヨシタケへ向ける。
その
(嘘だろ……?! ザマルタさんとダザドラ、あれに勝ったっていうのかよ?! 俺も盾持ってきたかったぁぁぁ!)
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