第9章「真・魔王城へ、ざまぁ!」⑶

「やった……のか?」

「マジで?」


 勝利を実感できず、一同は呆然とする。

 エリザマスはパロザマスから降り、ザマスロットに抱きついた。


「ザマスロット、無事だったのですね! 闇の〈ザマァ〉に取り憑かれたと聞いて、ずっと心配していたんですよ!」

「心配って……姫様がそのように望まれたのでは?」

「何のことです?」


 エリザマスはキョトンとする。

 目の前にいる彼女は、以前ザマスロットが魔王城で会ったエリザマスよりもやつれていた。


「そうか……あの時会ったのは、君じゃなかったのか。良かった」

「?」


 エリザマスは首を傾げる。ザマスロットは「なんでもない」と彼女を抱きしめた。

 その様子を、メルザマァルは寂しげに見つめていた。


「……」

「先輩、泣いてもいいんですよ?」

「うるさい、マセガキ」

「ちぇっ。気を使ったら、これだ」


 ザマスロットはメルザマァルに尋ねた。


「良かったら、聞かせてくれないか? お前達がどうやってエリザマスを助け出したのか。そもそも、なぜヨシタケの仲間達と一緒にいる?」


 非難しているのではなく、単純に疑問に思ったらしい。

 メルザマァルは「いろいろあったのよ」とため息をついた。


「詳しい経緯は省略するけど、お互いの目的のために協力するって決めたの。ザマルタとダザドラは貴方の兼ザモーガンの。私とマセガキは、」

「ノストラです」

「……ノストラは、城内の調査。ザマビリーとパロザマスは姫様の救助、ってね」

「よくザモーガンやザマンに気づかれなかったな?」

「ザマルタに気配消しの精霊を付けてもらっていたから。私とパロザマスだけじゃ、貴方も姫様も救えなかった」

「そうか……」


 ザマスロットはパロザマスとメルザマァルだけでなく、ザマビリー達にも頭を下げた。


「……俺が不甲斐ないばかりに。ありがとう、みんな。それから……迷惑をかけてすまなかった」


 ザマルタは「いえいえ」と謙遜けんそんした。


「お二人が無事で良かったです。もしザマスロットが命を落としていたら、世界は破滅していたかもしれませんからね」

「ザマルタ、その話は……」

「あっ、ごめんなさい。なんでもないです」

「?」


 ザマスロットとエリザマスは、そろって顔をポカンさせる。

 まさか、エリザマスが世界を滅亡へと導く「厄災の姫」だったとは思いもしないだろう。二人にいらぬ責任を感じさせないよう、一同はあらかじめ「二人には黙っておく」と決めていた。


「ま、姫様の居場所さえ分かれば、俺一人で助け出せたんだけどな! こいつが絶対について来るって聞かなかったんだよ!」


 ザマビリーとパロザマスは互いに目配せすると、話をごまかすように言い争い始めた。


「当たり前だっつーの! 俺とノストラがいなきゃ、お前ら勝手なことばっか姫様に吹き込んでただろ! 言っておくが、お前らはれっきとした指名手配犯なんだからな!」

「ひひッ! その指名手配犯より信頼度ゼロのチンピラには言われたくねぇなぁー! 姫様、すっげー怯えてたじゃん? 運ぶのも、俺を指名されたし」

「仕方ねぇだろ、初対面だったんだから! 慣れれば、陽気なガンマンのお兄さんだって分かってくださるって!」


「二人とも、エリザマス姫の御前だぞ。口を慎まないか」


 ザマスロットは元騎士団長らしく、二人をたしなめる。

 ふと、集まったメンバーの中に、肝心のがいないことに気づいた。


「それより、ヨシタケはどうした? まさか、本当に故郷へ帰ったのではあるまいな?」


 途端に、仲間達は口をつぐんだ。事情を知らないエリザマスだけは、「ヨシタケさんってどなたです?」と首を傾げている。

 代表して、ザマルタが答えた。


「……ヨシタケさんは、お一人で戦っていらっしゃいます」

「誰と?」


「ザマンです」






 ヨシタケは子供の頃、家族旅行で行った城の城壁を登ろうとして怒られたことがある。


「そんなに登りたいなら、ボルダリングでもしてみる?」


 そう母に提案され、ボルダリングの体験教室に参加したものの、いまいち楽しめなかった。

 その瞬間、子供ながらに察した。自分は登ること自体に興味があるのではなく、「城壁に登る」という非日常的な体験をしたかったのだと。

 その願望が、転生してついに叶った……もとい、


「たっけぇよぉ……こっうぇえよぉ……! 何で、誰もついて来てくんないんだよぉ……! エリザマスを助けに行くのは、一人で充分じゃんかぁ……!」


 ヨシタケは窓の柵やレンガの突起を足場に、魔王城の壁を登る。

 足場になるものがない平らな壁は、エクスザマリバーを突き立てて、足場の代わりに使った。


 ノストラとメルザマァルが調査した結果、ザマンは魔王城最上階にある玉座の間にいると分かった。

 玉座の間は中からはたどり着けない「隠し部屋」で、外から壁を突き破るしか方法はない。


「大勢で行くと目立つし、ヨシタケに任せるよ」

「私達も作戦を終えたら、加勢しますから!」

「とは言え、エクスザマリバーは強い。我らが着く前に、ザマンを片付けてもらっても全然構わんがな」

「そうそう。むしろ、俺達が行っても足手まといになるだけだと思うぜ?」

「異変があったら、ザマビリーのテレパシーで知らせるわ。だから、私まで行く必要はないでしょ?」


 理由はさまざまだったが、皆「城壁なんか登りたくねー」という本音がダダ漏れだった。


「俺だって登りたかねーよ! 何で、部屋隠すんだよ! ザマンだって、徒歩で上まで移動すんの疲れるだろ?! 絶対、エレベーターつけた方が楽だって!」


 ヨシタケはこの世界にエレベーターそのものが存在していないことも忘れ、激怒した。

 最上階まで、あと少し。






「なに?! ヨシタケがザマンと?! 早く加勢しに行くぞ!」


 ザマスロットは助太刀しに行く気満々で、ダザドラの腹の下から出ようとする。

 他のメンバーは事情を知っているので、「えー?」と一斉に不満の声をもらした。


「行くのー?」

「ほんとにー?」

「壁登りたくないんだけどー」

「ヨシタケさんお一人で充分ですってー」

「ダザドラが最上階まで乗せてくれるなら、行ってもいいけどー」

「我も飛ぶのやだー。狙撃怖ーい」


 渋る彼らに、ザマスロット「何言ってんだ!」と叱った。


「相手は、あのザマンだぞ! いくらエクスザマリバーが最強の剣とはいえ、ヨシタケ一人で倒せる相手じゃない! せめて、エクスザマリバーの鞘だけでも届けてやれ!」

「た、確かに!」

「この鞘がありゃ、防御も最強になるしな!」

「さっすが、元騎士団長! あったまいぃ~!」


 一同はころっと意見を変え、ザマスロットをたたえる。妙にわざとらしい態度だった。


「……いや、俺じゃなくても思いついていたと思うぞ。ノストラとかメルザマァルとか」

「ワー、ザマスロットスゴーイ」

「僕達、全然気ヅカナカッタナー」


 頭脳派のノストラとメルザマァルも目を背ける。本当は同じことを考えていたが、最上階まで登るのが嫌で黙っていた。


「もういい! 俺がダザドラに乗って届けに行く! お前達は地上に残って、エリザマスの警護と、地上からの援護を頼む!」


 ザマスロットは本気で、ダザドラに乗ろうとする。慌てて、全員で止めた。


「うわーっ! ザマスロットは行っちゃダメです!」

「俺達が行くから残っててくれ!」

「なぜだ?! さっきまで行くのをためらっていたじゃないか! 離せ!」


 その時、天井に空いた穴や階段の上から、モンスターやゾンビ化した兵士が大量に現れ、一同に襲いかかってきた。


「キャーッ! 急に何なんです?!」

「姫様、下がって!」

「ザマスロットも、絶対にダザドラから出ないで!」

「くッ、不甲斐ない……」


 ザマルタ、ザマビリー、ノストラ、パロザマス、メルザマァルの五人は飛び出し、応戦する。ザマスロットはザマァロンダイトを酷使した反動か、体が思うように動かない。

 ダザドラもザマスロットとエリザマスを守りつつ、集まってくるモンスター達を氷や風の息吹で吹っ飛ばした。


「チッ! こいつら、どっかから湧いてきやがった?!」

「姫様の牢の近くにいたヤツらは、全員倒したはず……!」

「ザマンが私達を止めようとしているのかもしれません! エクスザマリバーの鞘があれば、ヨシタケさんは無敵になってしまいますから!」

「ダザドラ! 二人を魔王城の外へ!」

「承知した!」


 ダザドラは門を破壊し、脱出する。

 その時、魔王城の最上階あたりの壁へ、光の斬撃が放たれたのが見えた。


「ヨシタケ……いよいよ、ザマンと戦うのだな。貴様のような人間を失うのは惜しい。だから、死ぬなよ?」


 ダザドラ渾身の応援は、


「チクショー! 結局、誰も来なかったじゃねぇかー! こんなうすっぺれー壁、ザマンごと破壊してやる! 〈ザマァ〉!」


 ……残念ながら、ヨシタケの心には届かなかった。

 ザマビリー、仕事しろ。


「ヒャッハー! モンスター狩りだぜぇー!」

「ザマビリーうるさ……って、パロザマスじゃない! しっかりして! チンピラに染まりかけてるわよ!」

「ヒャッハー! 活きのいい魔王軍だなァ、オイ!」

「だからパロザマス、チンピラに染まりかけてる……って、ザマビリーだったわ。ややこし」

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