第9章「真・魔王城へ、ざまぁ!」⑵

「んじゃ、行きますかー」

「えぇ。健闘を祈るわ」


 作戦が決まると、一同はそれぞれの持ち場へ散っていった。


「ザマルタさん、ダザドラ。気をつけて」


 ヨシタケは両手をプルプルさせながら、包み直したエクスザマリバーの鞘をザマルタに渡す。

 ザマルタは両手で受け取り、大事そうに胸で抱えた。かなり重いはずだが、ヨシタケを軽々と運んだ彼女にとっては、さほど苦ではないらしい。


「ありがとうございます。ヨシタケさんも頑張ってくださいね」

「こちらは我らに任せよ。お前はお前の成すべきことに備えておけ」

「あぁ。頼んだぜ」






 魔王城の門が開き、ザマルタとダザドラはエントランスへ足を踏み入れる。ダザドラはザマルタの肩から降りると、彼女を守るように背後へ控えた。

 ザマスロットは大階段の上で待っていた。


「ようやく来たか。待ちかねたぞ、ヨシタ……ケ?」


 やって来たのが一人と一匹だと分かり、あぜんとする。

 姿を消し、様子をうかがっていたザモーガンも「んん?!」と驚いていた。


「少なッ! 他の連中はどうした?!」

「怖気づいて、故郷くにへ帰られました。エクスザマリバー農法という、エクスザマリバーを使った新しい農業を始めるそうです」

「絶対嘘だろ! ザモーガン、ヨシタケ達を探して来い! 近くにいるはずだ!」

「承知しましたわ、ザマスロット様」

「……いいんですか? ザモーガンを行かせて」


 ザマルタはエクスザマリバーの鞘の包みを解き、唱えた。


「〈ザマァ〉! 我らは抗うすべなき、無力なる者! エクスザマリバーの鞘よ、形を変え、我らを守りたまえ!」

「そ……その鞘はッ!」


 ザマスロットは包みの中から現れたエクスザマリバーの鞘を見て、青ざめる。

 エクスザマリバーの鞘は金色に輝きながら、二つの塊に分かれた。一つはザマルタが隠れるほどの巨大で荘厳な盾、もう一つはダザドラの急所である腹を完全に覆う鎧へと形を変えた。


「ザマスロット、私達には貴方を倒せるほどの力はありません。ですが、貴方の攻撃に耐え、エネルギー切れを狙うことはできます。さぁ、かかってきなさい!」

「二度も腹を貫かせはせんぞ!」


 元勇者であるザマスロットも、エクスザマリバーの鞘の存在は知っていた。

 エクスザマリバーの使い手が真に誰かを守りたいと願った時、番人であるザマヴィアンが使い手に託す、幻の武具。闇の〈ザマァ〉への耐性はエクスザマリバーをも凌駕し、あらゆる闇の力を防ぎ、癒すと聞いていた。


「勇者でもない貴様らに、エクスザマリバーの鞘を使いこなせるわけがない! 打ち砕いて、姫の装飾に使ってやる!」


 ザマスロットは不安を押し殺し、ザマァロンダイトで斬りかかる。勇者どころか、主戦闘員でもないシスターと召喚獣を前に、引き下がるわけにはいかなかった。

 一方、ザモーガンは「不可能よ」と吐き捨てるようにつぶやいた。


「打ち砕くなんて、無理。ザマン様ですら、あの鞘を壊せなかったんですもの」


 その言葉通り、ザマァロンダイトの斬撃はザマルタの盾によって簡単に阻まれた。金属どうしがかち合い、キィーンッと音が響く。

 盾を砕くどころか、ザマァロンダイトの刃にヒビが入っていた。


「硬ッ?!」


 ザマスロットは斬撃をはね返され、のけ反る。

 ザマルタはその隙を見逃さなかった。


「させませんッ! 歯も刃も立たなくて、〈ザマァ〉!」

「げふぉッ?!」


 盾を振りかぶり、無防備になったザマスロットの腹へ叩きつける。盾は電気を帯び、ザマスロットへ襲いかかった。

 ザマスロットはくの字になって吹っ飛び、豪快に階段を破壊する。鎧のおかげで大した傷にはならなかったが、衝撃で鎧は砕けた。


「闇の鎧が……?! 嘘だろう?!」

「あんな重そうな盾を振り回すなんて、無茶苦茶よ! あのシスター、見た目と腕力が合ってないんじゃないの?!」


 ザマスロットはもちろん、ザモーガンも驚く。

 ザマルタは盾を叩きつけた後、平然と元の位置へ下ろしていた。汗ひとつかかず、息も乱れていない。ザマスロットに追撃しようと思えば、いつでもやれた。


(鎧を着ていなかったら、俺の体がこうなっていたのか……)


 ザマスロットは砕けた鎧を見て、ゾッとした。自分がとんでもない者と対峙しているのだと、ようやく気づいた。

 ザマルタは怯えられているとも知らず、プクッと可愛らしく頬を膨らませた。


「決闘では言えませんでしたけど……私、前から貴方が気に食わなかったんです! ヨシタケさんは貴方達のせいで、瀕死の重症を負っていました! 平気で誰かを傷つける人が、他の誰かを守れるわけがありません! その腐った根性、私が叩き直して差し上げます!」

「い、いや、もう無理だ。降参する」

「降参? 貴方のエリザマス姫への想いは、そんなものだったのですか?」

「諦めたくはないが、死んだら元も子もない。エリザマスは俺が自力で助け出す」


 ザマスロットはザマァロンダイトから手を離し、両手を上げる。

 盾を叩きつけられ、闇の力による支配から解放されたことで、正気に戻ったらしい。ザモーガンはチッと舌打ちした。


「ザマァロンダイトと鎧まで貸してやったのに、使えない坊やだこと」


 ザモーガンはザマスロットへ杖を向けると、彼にテレパシーで話しかけた。


(ザマスロット様、どういうおつもりです? エリザマス姫を裏切るのですか?)


 ザモーガンに問われ、ザマスロットはハッと青ざめた。


「ち、違う! 俺はエリザマスを裏切ったわけでは……!」

(鎧があれば、盾の攻撃を防げるのでしょう? 壊れたら、また直せばいい。安心してください、私が援護します)

「……」


 ザマスロットは悩み、一度は手放したザマァロンダイトへ再び手を伸ばそうとした。


 その時、


「ザマスロットー!」

「っ! エリザマス?!」

「俺達もいるぜー!」

「ヒャッハー!」

「チンピラじゃないんだから、もっと上品に登場してくれる?」

「ザマスロット、無事?!」


 天井が崩れ、数人の見知った顔ぶれがガレキと共に降ってきた。

 ザマビリー、ノストラ、パロザマス、メルザマァル……そして、監禁されていたはずのエリザマスが、パロザマスに抱えられて現れた。

 一同はダザドラの背へ着地すると、尻尾を素早くすべり降り、ダザドラの腹の下へと避難する。ザマスロットもザマルタに手を引かれた。


「早く! ザモーガンが貴方を狙っています!」

「なんだと?」


 味方だと思っていたザモーガンに命を狙われているとは思わず、ザマスロットは驚く。

 すかさず、ザモーガンはザマスロットへ杖を向け、闇の〈ザマァ〉を放った。


(何をしているの?! そのエリザマスは偽物……だまされてはいけません! 今すぐザマァロンダイトを拾って、そいつらを倒しなさい! このままザマン様に殺されても良いのですか?! 〈ザマァ〉!)


 杖の先から、闇の〈ザマァ〉である漆黒の光線が伸びる。

 光線は真っ直ぐザマスロットの心臓へ飛び、


「フンッ」


 ダザドラが振るった尻尾に、ぺいっとはね返された。


「キャーッ?!」


 ザモーガンははね返ってきた光線を、寸前で避ける。が、はずみで姿を現してしまった。

 ダザドラはそれを見逃さなかった。


「……そこか。コソコソと隠れおって」

「やばッ」


 ギロリとザモーガンを睨むと、彼女に向かって口を開いた。


「貴様の企みは何もかもお見通しだ! 稀代の魔女……ザマァーリンによってな! 〈ザマァ〉!」

「ザマァーリンですってぇぇぇっ?!」


 ザモーガンは思いのほか、ショックだったらしい。

 ダザドラの口から巨大な炎の塊が放たれ、ザモーガンに直撃した。


「ギャァァァッ!」


 ザモーガンは最後の力を振り絞り、ザマァロンダイトと共に姿を消した。

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